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姫たちの話し合い

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 ペーターさんの先導のもとぞろぞろと食堂へと入り、ペーターさんは適当に何か頼むと店主のアンソニーさんに伝え、食堂の奥の大きなテーブルへと私たちは座った。

「あー……まず、なぜリーンウン国の姫がこの国にいるんだ?あの騒ぎのせいで断交状態だろう?」

 ペーターさんはクジャクさんに問いかける。

「闇市だ」

 笑顔でとんでもない単語を話すクジャクさんに私たちはむせる。モズさんは「順を追って話すように」とクジャクさんをたしなめ、クジャクさんは言葉を続ける。

「完全な断交ではないのだ。あの日あのクソジジ……ごほん……シャイアーク王はわらわの瞳を見て『そんな気味の悪い目など嫁の貰い手がないだろう。だから嫁にしてやっても良い』と言い放ってな。父上が怒り狂う前にわらわが怒り狂ってしまったのじゃ」

 なんて酷いことを言うのかしら!?同じ女として許せないわ!

「わらわは頭に血が上ると少し攻撃的になるのでな。目の前にあった物を全て投げつけてやったのじゃ。最終的には喧嘩両成敗というやつじゃな」

 自慢気に答えるクジャクさんだが、先ほどのニコライさんに対する態度を見ている限り『少し攻撃的』とは思えない。むしろ強暴だわ……。

「本来なら断交ものだが、リーンウン国にはシャイアーク国との国境しかない上に、シャイアーク国は我が国で作られる薬を欲しがるのでな。国としては輸出という必要最低限の付き合いをしつつ、我が国の特産品をハーザルの街に売っておる。後者の方が闇市にあたる」

「薬?特産品?」

 なんとなく疑問を口にすればクジャクさんは答えてくれる。

「テックノン王国が科学技術で薬を作るのに対し、リーンウン国では植物から薬を作る。優劣があるわけではないが体質によって合う合わないがあるのでな。特産品は主に調味料じゃ。ハーザルの街くらいでしか使われぬが『セウユ』と『ミィソ』という」

 それを聞いて私は激しく反応してしまう。

「まさか……ディーズを使って作られた黒い液体に、茶色のもったりとした糊状の物じゃ……」

「なぜ原料を知っておる!?秘伝のものだぞ!?……まぁミィソに関しては分かる者には分かってしまうが」

 これは大変だわ。絶対にそれは醤油と味噌よね!?なんとしても欲しいわ!そんなことを思っているとペーターさんが口を開く。

「それで、なぜ一国の姫が良い思い出のないこの国にわざわざ来るんだ?」

 すると「良くぞ聞いてくれた!」という表情をしたクジャクさんは満面の笑顔で答えた。

「勉強が嫌いだからじゃ!」

 それを聞いた私たちはポカーンとし、モズさんは大きなため息を吐いた。

「国におれば勉強しかさせられん。わらわは冒険や旅や刺激的なことが好きなのじゃ」

 マークさんが私と気が合うと言ったのが分かる気がしてきたわ。複雑な気分だけれども。

「次はわらわからの質問じゃ。そんな勉強嫌いのわらわでも知っておる森の民の滅亡の話。その森の民がなぜここにおるのだ?匿っておったのか?」

 純粋な疑問だったのだろう。小首を傾げてペーターさんに問いかけている。そこにじいやが加わり、今までの経緯やニコライさんとの出会いなどを語った。

「なんと……なんと酷い話じゃ……。そなたカレンと申したな?なんと辛い日々を過ごして来たのか……考えただけでわらわも辛い……」

 私たちの話を聞いたクジャクさんは涙目になっている。

「辛かったのは民たちよ。私や私の家族は民たちに守られてきたおかげで今まで元気で過ごせたわ。逆に民たちは家も食べる物もない状態だったの。だから今、私は民たちに恩返しをしようとしているの。何をするにもお金は必要だわ。だからニコライさんと取引をしたし、そのお金でもっと民たちに良い暮らしをしてもらおうと思っているの。……先はまだまだ長いけれどね」

 思ったことをそのまま言うとクジャクさんは呆然としている。そして少し間を開けてから口を開いた。

「……同じ姫という立場ながら、わらわは民のことまで考えてはおらんかった。ただ勉強が嫌いで外に出たいだけであった……。民の一部はこの目を『奇病』や『呪い』と言う者もおるしな……いや、それはただの言い訳であるな……。カレンよ、わらわと友人になってはくれまいか?そなたから色々と学ばせていただきたい。もちろん森の民のことは秘密にする」

 そう言ってテーブルに顔が付きそうなほど頭を下げる。モズさんはそんなクジャクさんを驚いた顔で見たけれど、同じように頭を下げる。私は慌てて立ち上がり顔を上げるように告げた。

「やめてやめて!友人関係は頭を下げてなるものじゃないわ!……きっと、さっき手を繋いで町を歩いた時点で私たちはもう友人だったのよ」

 そう言うと驚いて顔を上げたクジャクさんは見惚れるくらい美しい笑顔で微笑んでくれた。と同時に「グー」とお腹が鳴っている。

「……腹が減っては何とやらじゃ。店主よ、何か名物料理を頼む!」

 さっきまでの雰囲気はどこかへ消し去ったかのように、後ろを向き普通にアンソニーさんに注文をしている。私よりも自由奔放だわ……。でも、この世界で欲しかった友人を得ることが出来て、私は心から嬉しいと思ったのよ。
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