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姫の来訪
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「待て待て、それはおかしいだろう」
シーンとした中、口を開いたのは意外にもブルーノさんだった。
「あのシャイアーク王がリーンウン国を怒らせたせいで断交状態だろう?」
シャイアーク王はその国にも何かしたのだろうか?じいやを見ても小首を傾げ、分からないというジェスチャーをしたのでブルーノさんにも座ってもらい詳しく聞いてみることにした。
「元々シャイアーク国とリーンウン国は友好国ではないが行き来はあったんだ」
ブルーノさんは落ち着いた口調で続ける。
「数年前、シャイアーク王の生誕祭があってだな、その時にリーンウン国の王も招待されたんだ。コウセーン国は招待されなかったが、近隣の王は王妃や王子、姫を伴ってシャイアーク城に向かいそれは盛大に催されたようだ。だがあのシャイアーク王だ。若くもないのに他国の姫に言い寄っていたらしい」
シャイアーク王の話は聞けば聞くほど碌な話が出てこない。
「他の姫やその親である王たちはやんわりと断っていたらしいが、リーンウン国の姫に対して『嫁に貰ってやっても良い』と言ったらしくてな、その一言が逆鱗に触れたようで揉めに揉め、生誕祭は途中で終了となったようだ。以来シャイアーク王の生誕祭はやらなくなった。……それは良いとして、そのことがきっかけで国交は無くなったと言っても過言ではない。なのにその姫がシャイアーク国にいるとは考えられん」
本当に最低な王ね……。それは姫も怒って当然だわ。でもブルーノさんの言うとおりなぜこの国にいるのかしら?そう思いマークさんを見ると口を開く。
「話すと長くなりますので……そして大変心苦しいのですが……そろそろ到着する頃だと思われます……」
その場の全員が驚きすぎてその言葉を上手く理解出来ずにいると、外からペーターさんの声が聞こえる。
「カレンちゃん、おるか~?あいつが戻って来たようだぞ~!」
とんでもないタイミングでニコライさんが到着したようだ。存在を知られているので隠れるわけにもいかず頭を抱えることしか出来ない。それに対してマークさんは謝り続ける。どうしようかとじいやを見ると「森の民だと知られたわけではない」ということで、この際会ってしまって上手くあしらいお帰り願おうということになった。
大きな大きなため息を吐きながら外へ出ようとすると、申し訳なさそうにマークさんが先導する。玄関前にはペーターさんが立っており、「なんで入って来ないんだ?」と入り口を見て呟いている。なぜか町の外で馬車は止まったままのようだ。結局ペーターさんも私たちに混じり入り口へと向かった。
入り口にはマークさんが乗ってきたと思われる一頭のバが繋がれ、その近くに数台の馬車が止まったままになっている。それを見たペーターさんが「どうした~?」と声をかけながら近寄ると、一つのキャビンの扉が開く。そして中から出てきたのは女性、いや、大人っぽく見えるが私より少し年上だろうかという年齢の女の人だった。
黒く長い髪をシンプルなハーフアップにし、着物のような、でも襟を重ね合わせるのではなく服の中心はボタンで留められた薄い黄緑の足首まであるタイトなワンピースのようなものを着て、腰の部分には緑の帯のようなものが巻かれている。そしてその服の上には青い羽織を羽織っている。
「この町の町長殿だろうか?」
凛とした佇まいのその女の人は快活に話す。事情を知らないペーターさんが「そうだが?」といぶかしげに返答すると、女の人は笑みを湛え話し始めた。
「申し遅れた。あちき……いや、わらわはリーンウン国王の娘クジャクである。許可なく立ち入るなど無粋な真似はしたくなくてな。町長殿を待っていた!」
今確実に「あちき」という花魁のような言葉を発したはずなのに、それを打ち消すくらい堂々としているので誰もそこに茶々を入れない。そしてペーターさんは驚きすぎて立ち尽くしている。
誰も言葉を発することが出来ずにいると、クジャクさんが載っていたキャビンからニコライさんと、じいや顔負けのツルツル頭のおじいさんが降りてきた。ただこちらのツルツルさんは頭はツルツルだが、眉毛と髭は真っ白で長く目も口元も見えない。
「クジャク様、突然隣国の国王の娘と言えば、皆驚くのも当たり前でしょう」
「なんだと、じい。わらわは嘘などつきたくない。正々堂々としていたいのじゃ」
今までの凛とした佇まいはどこかへ消し去ったかのように、腰に手を当てプリプリと怒っている。
「我が国の姫がすみません。私はクジャク様の幼少期より仕えておりますモズと申します」
ペコリと頭を下げるモズさんの後ろでニコライさんは青い顔をして挙動不審になっている。
「わらわは面白いことが大好きなのじゃ!この町の者であればシャイアーク王に来たのを秘密にしてくれるとニコライが申してな?それにこの町にニコライの想い人がいるらしいのでな。会ってみたくて来たのじゃ」
うん。このお姫様は何も悪くない。好奇心旺盛なだけだわ。シャイアーク王に内緒にするとか想い人とか……全部ニコライさんのうっかり発言が悪いのよね。この場にいる全員がニコライさんに殺気のこもった眼差しを向けたのだった。
シーンとした中、口を開いたのは意外にもブルーノさんだった。
「あのシャイアーク王がリーンウン国を怒らせたせいで断交状態だろう?」
シャイアーク王はその国にも何かしたのだろうか?じいやを見ても小首を傾げ、分からないというジェスチャーをしたのでブルーノさんにも座ってもらい詳しく聞いてみることにした。
「元々シャイアーク国とリーンウン国は友好国ではないが行き来はあったんだ」
ブルーノさんは落ち着いた口調で続ける。
「数年前、シャイアーク王の生誕祭があってだな、その時にリーンウン国の王も招待されたんだ。コウセーン国は招待されなかったが、近隣の王は王妃や王子、姫を伴ってシャイアーク城に向かいそれは盛大に催されたようだ。だがあのシャイアーク王だ。若くもないのに他国の姫に言い寄っていたらしい」
シャイアーク王の話は聞けば聞くほど碌な話が出てこない。
「他の姫やその親である王たちはやんわりと断っていたらしいが、リーンウン国の姫に対して『嫁に貰ってやっても良い』と言ったらしくてな、その一言が逆鱗に触れたようで揉めに揉め、生誕祭は途中で終了となったようだ。以来シャイアーク王の生誕祭はやらなくなった。……それは良いとして、そのことがきっかけで国交は無くなったと言っても過言ではない。なのにその姫がシャイアーク国にいるとは考えられん」
本当に最低な王ね……。それは姫も怒って当然だわ。でもブルーノさんの言うとおりなぜこの国にいるのかしら?そう思いマークさんを見ると口を開く。
「話すと長くなりますので……そして大変心苦しいのですが……そろそろ到着する頃だと思われます……」
その場の全員が驚きすぎてその言葉を上手く理解出来ずにいると、外からペーターさんの声が聞こえる。
「カレンちゃん、おるか~?あいつが戻って来たようだぞ~!」
とんでもないタイミングでニコライさんが到着したようだ。存在を知られているので隠れるわけにもいかず頭を抱えることしか出来ない。それに対してマークさんは謝り続ける。どうしようかとじいやを見ると「森の民だと知られたわけではない」ということで、この際会ってしまって上手くあしらいお帰り願おうということになった。
大きな大きなため息を吐きながら外へ出ようとすると、申し訳なさそうにマークさんが先導する。玄関前にはペーターさんが立っており、「なんで入って来ないんだ?」と入り口を見て呟いている。なぜか町の外で馬車は止まったままのようだ。結局ペーターさんも私たちに混じり入り口へと向かった。
入り口にはマークさんが乗ってきたと思われる一頭のバが繋がれ、その近くに数台の馬車が止まったままになっている。それを見たペーターさんが「どうした~?」と声をかけながら近寄ると、一つのキャビンの扉が開く。そして中から出てきたのは女性、いや、大人っぽく見えるが私より少し年上だろうかという年齢の女の人だった。
黒く長い髪をシンプルなハーフアップにし、着物のような、でも襟を重ね合わせるのではなく服の中心はボタンで留められた薄い黄緑の足首まであるタイトなワンピースのようなものを着て、腰の部分には緑の帯のようなものが巻かれている。そしてその服の上には青い羽織を羽織っている。
「この町の町長殿だろうか?」
凛とした佇まいのその女の人は快活に話す。事情を知らないペーターさんが「そうだが?」といぶかしげに返答すると、女の人は笑みを湛え話し始めた。
「申し遅れた。あちき……いや、わらわはリーンウン国王の娘クジャクである。許可なく立ち入るなど無粋な真似はしたくなくてな。町長殿を待っていた!」
今確実に「あちき」という花魁のような言葉を発したはずなのに、それを打ち消すくらい堂々としているので誰もそこに茶々を入れない。そしてペーターさんは驚きすぎて立ち尽くしている。
誰も言葉を発することが出来ずにいると、クジャクさんが載っていたキャビンからニコライさんと、じいや顔負けのツルツル頭のおじいさんが降りてきた。ただこちらのツルツルさんは頭はツルツルだが、眉毛と髭は真っ白で長く目も口元も見えない。
「クジャク様、突然隣国の国王の娘と言えば、皆驚くのも当たり前でしょう」
「なんだと、じい。わらわは嘘などつきたくない。正々堂々としていたいのじゃ」
今までの凛とした佇まいはどこかへ消し去ったかのように、腰に手を当てプリプリと怒っている。
「我が国の姫がすみません。私はクジャク様の幼少期より仕えておりますモズと申します」
ペコリと頭を下げるモズさんの後ろでニコライさんは青い顔をして挙動不審になっている。
「わらわは面白いことが大好きなのじゃ!この町の者であればシャイアーク王に来たのを秘密にしてくれるとニコライが申してな?それにこの町にニコライの想い人がいるらしいのでな。会ってみたくて来たのじゃ」
うん。このお姫様は何も悪くない。好奇心旺盛なだけだわ。シャイアーク王に内緒にするとか想い人とか……全部ニコライさんのうっかり発言が悪いのよね。この場にいる全員がニコライさんに殺気のこもった眼差しを向けたのだった。
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