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ニコライさんの手柄と失態

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 散髪を終えたイチビたちは井戸へと移動し、汲んだ水をかけて髪を洗い流す。その間に私は切った髪を集めて、ブルーノさんに教えられた焼却炉のようなところに放り込む。手を洗う為に井戸へと向かうとイチビたちは上半身裸になっており、見た目は子どもでも享年二十歳の私はなんのご褒美だと食い入るように見つめてしまう。
 人によって筋肉の付き方は違うようで、イチビは例えるなら標準的なスポーツマン、シャガはまさに細マッチョ、ハマスゲは格闘家のような筋肉、そしてオヒシバは髪型の影響もあるのだろうが柔道家にしか見えない。

「あぁサッパリした。姫様、ありがとうございます!」

 そう言ったオヒシバは両手で握りこぶしを作り、試合終了後の柔道家のように頭を垂れる。……ダメだ、どうしても柔道家のイメージが消えなくなってしまった。
 だけれどこの散髪のおかげでイチビたちとの距離が近くなった気がする。いつもはモジモジとしていたり萎縮気味な四人は、ほんの少し雰囲気が柔らかくなったように思う。そんなことを思いながら手を洗うが、思った以上に脂が落ちず洗っては手を拭くというのを繰り返していた時だった。

「姫様!」

 じいやの声がし、全員がそちらに注目する。じいやもまたこちらを見て驚いている。

「……随分と雰囲気が変わった……っとと、それどころではなかった。マーク殿が話があると一人でお越しなのです!」

 マークさんが一人で?ニコライさんはどうしたのかしら?……まさか何かあったんじゃ……!イチビたちも同じことを思ったのか急いで服を着て、私たちは走ってブルーノさん宅のリビングへと向かった。
 リビングへ入るとちょうどブルーノさんが飲み物をマークさんの前へと置いているところだったが、マークさんは下を向き身をすくめ小さくなっている。

「マークさん!どうしたの!?ニコライさんは!?」

 矢継ぎ早にまくし立てるとマークさんは顔を上げる。

「カレン嬢、申し訳ありません……」

 マークさんはそう謝るが、何が何やら分からない。ブルーノさんに座るよう促され、とりあえず私たちは席へと着く。

「マークさん、何があったの?」

 席に着き、改めて聞くとマークさんは語り始めた。

「……皆さん誤解している部分もあるかと思いますが、ニコライ様は本当に素晴らしい商人で人柄も良く人間が出来ている人なのです……うっかりな部分を除けば……」

「んん!?」

 どうやら事故などではないようではあるが、マークさんの話す内容がイマイチ的を得ない。主人であるニコライさんを上げて落としているのだ。そして何よりも最後に言った『うっかり』が気になる。

「私たちは待ち合わせをしていると言い残しハーザルの街へ向かいましたが、カレン嬢や森の民の為にニコライ様は店から店へと走り回っておられました……。あぁ、きっとそれらの品はお気に召すと思います。
 問題はですね……待ち合わせをしていた方、取引の相手なのですが、その方の前でも『カレン嬢が気に入りそうだ』『きっとカレン嬢も喜ぶ』と名前を連呼してしまいまして……」

「はぁ!?」

 なぜそこに私の名前が出るのか理解に苦しむ。

「そしてですね……その取引の相手が『恋人か?』と言い出しまして……その……ニコライ様はハッキリと否定をしなかったわけでありまして……」

「「「「「「はぁぁぁぁ!?」」」」」」

 とんでもない話に私を始めとするヒーズル王国の全員が立ち上がる。キッチンでは私たちの分の飲み物を作っていたブルーノさんが派手に食器を落としていた。

「どういうことなのよ!?」

「いえ……否定はしておりませんが、ニコライ様はカレン嬢を思い浮かべデレデレとしておりましたので……相手の方が『なんだ想い人か!』と良い意味で勘違いをいたしまして……あの、お分かりでしょうがニコライ様は本気でカレン嬢に恋愛感情を抱いているわけではありませんので……」

「分かっているわよ!本気で言っているのなら、それはそれで問題でしょうよ!」

 この怒りを含んだ空気の中、オヒシバだけがあからさまにホッとため息を吐いている。それもそれで問題だわ。……ひとまずそれは置いておきましょう。

「それでマークさんが一人でここまで謝りに来たの?」

 ようやく話の全貌が分かったのでマークさんにそう問いかけると、マークさんは小刻みに震え始める。どうしたのかと見守っているとマークさんは口を開いた。

「……その取引の相手の方がですね……面白がってしまいまして……その……カレン嬢をひと目見たいと言いまして……現在ニコライ様と共にこちらへ向かっておいでです……」

「「「「「「はぁぁぁぁ!?」」」」」」

 私たちはさっきと同じように叫んで立ち上がる。ブルーノさんはちょうどテーブルに飲み物を置いていたが、それを聞きハトが豆鉄砲を食らったような顔をしている。

「いやいやいやいや……私たちの立場は分かるわよね?会うつもりはないわよ」

 そう言って目の前の飲み物を一気飲みしてまた椅子へと座る。

「……もちろん森の民ということは言っておりません。むしろカレン嬢と気の合うお方かと……その方は位置的にヒーズル王国の東側にあります『リーンウン国』の姫君でございます」

 私は「は?」という言葉と共に持っていた食器をテーブルに落とし、そして今度はマークさん以外の全員がハトが豆鉄砲を食らった顔をしたのだった。
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