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カレンの小銭稼ぎ
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ブルーノさんの家に着き、リビングのテーブルの上に作った料理を置いて工房へと向かう。私がいない間にも作業は進み、工房は竹馬製作所となっている。
じいやにバレないように料理を食べてもらいたいので、ブルーノさんとシャガだけをひとまず呼び出す。
「聞いて!スネック料理を作って来たの。じいやに内緒でみんなで食べて。リビングのテーブルに置かせてもらったわ」
そう言うとブルーノさんは首を傾げる。
「スネックの塩焼きはさっきいただいたが?」
「全く別の料理を作ってきたのよ」
いたずらっぽく笑うとブルーノさんはまだ理解できていないようではあったがリビングへと向かう。この町ではスネックの塩焼きが一般的すぎて、不思議なことに他の調理法を思い付かなかったようだ。食堂でもブルーノさんの手料理もシンプルな料理が多かったので、もしかしたら県民性ならぬ町民性で料理にあまり手間暇をかけないのかもしれない。
二人の背中を見送り私は工房へと入り竹馬の製作に加わる。入れ代わり立ち代わり人が出入りするが、どの人も戻って来た時は満面の笑顔であったり呆然としていたりと反応を見ているのも面白い。オヒシバだけは「姫様の……姫様の……」と何やらブツブツと言っていたが、構うことなくスルーさせてもらった。
────
大量に作られた竹製ではない竹馬を全員で抱えて広場へと行く。ブルーノさんのお弟子さんたちも手伝ってくれたので、それなりの人数が謎の道具を持ち歩いていることに気付いた町の人たちはもはや恒例行事となった「何かを売る」というのを察して、呼び込みをせずとも人が集まってくる。町の人も慣れたもので、「何かをやって見せる」のも恒例となっているので広くスペースを空けて今か今かと待っている。
「もうみんな私たちが何をするのか分かっているのね」
少し大きめの声でそう言うと笑いが起こる。
「じゃあ早速だけどまた販売会を開かせてもらうわね。今回のはこれよ!」
低めの竹馬に乗り空いたスペースを歩き回ると歓声が起きた。私が使った竹馬をじいやに渡すとじいやも器用に乗りこなし、町の人は喜んで見ている。その間にイチビたちに声をかけ、持ってくるのを忘れていた縄を取ってきてくれるように頼む。じいやもぐるっと一周をしたので、また竹馬を受け取る。
「あのね、私もじいやも簡単に乗っているように見えるだろうけど、これは難しいのよ。でも慣れるとこんなことも出来るわ」
このカレンの身体では竹馬は初めてだったけれど乗ることが出来た。ならば美樹がやっていたことも出来るだろう。何よりも畑仕事をしてみたり、水路建設をしてみたり、川に入って漁までしているのだから、むしろ美樹よりも筋力があるような気がする。
もう一度竹馬に乗り、左右に歩く。そして前に進み、それ以上に後ろ歩きで下がる。バランスをとりながら一度動きを止め、大きく息を吐いた。そして美樹が得意だった竹馬全力ダッシュをする。拍手が巻き起こるが、そこでくるりと向きを変え、竹馬スキップを披露する。やっぱり美樹の身体の時よりも上手くできている気がする。広場はサーカスを見る人たちのように大盛り上がりだ。
そこに縄を持って来てくれたイチビとシャガに声をかけ、大縄跳びのように縄を回してもらう。町の人たちは「さすがにそれは無理だろう」と言う人もいたがやってやるわ。
タイミングを見計らい縄の中に入りジャンプする。目線の先にいるイチビも驚いた顔をしているが、縄を回し続けてくれている。それに合わせ跳ね続け、美樹ですら達成できなかった十回の竹馬縄跳びを成功させた。
「売ってくれ!」
「僕もやる!」
いつものように人が押し寄せて来るがさすがに息が切れ上手く話せず、じいややブルーノさんが売り子となってくれる。
「ハァハァ……この町の皆さんは裸足でやってくださいね……ハァハァ……買ってくれた方には……ハァハァ……指導もしますよー!」
私たちとは履物が違うので注意事項を大きな声で叫ぶ。じいやは大人や大きな子にコツを教え、私は小さな子に付きっきりで遊び方を教える。大人でも子どもでもセンスのある人はやはり数回で乗ることが出来るが、想像以上に難しいと驚いている。するとドングーリのコマを作ってあげた子たちが集まって来た。
「おねーたん、あたちたちにも、できる?」
「ちょっとやってみましょうか」
小さな子どもでもバランス感覚の優れている子は乗れたりするので、近くにいたハマスゲを呼んで二人で支えながら教えてみたが、やはり乗れそうにない。悲しそうな顔を見るといたたまれなくなり、ブルーノさんのお弟子さんを呼んで持って来てもらいたい物を伝える。
「泣かないで。ちゃんと乗れる物を作ってあげるから」
不安にさせないように笑顔で言うと「ほんとに?」と呟いている。この子だけでなく乗れない子たちが集まり、悲しそうに竹馬を乗っている人たちを見ている。そこにブルーノさんのお弟子さんが角材を持って戻って来た。
「ブルーノさんも手伝って!」
大工集団を呼び角材を適当な長さで切り揃えてもらう。今から作るのは『ぽっくり』や『パカポコ』と呼ばれる竹や缶に紐を通して乗って歩くものだ。もちろんここに竹はないし、この町で缶を見たこともない。なので角材の地面に当たる部分に溝を彫り、そこに紐の代わりに縄を通す。この町の靴とほぼ同じ作り方だ。
「落ちないように乗ってみて。そしてこの縄を持って、手と足を一緒に動かして」
最初に出来上がった一つを使い乗り方の説明をすると、辿々しくも一歩ずつ進む。
「上手よ」
「できた!」
ドングーリのコマで初めて遊んだ時のような笑顔を見せてくれた。竹馬に乗れなかった子どもたちにはこの『ぽっくり』を無償で渡したが、乗れなかった大人たちは自分で作ると自分たちの家へと戻って行った。
ちなみに竹馬は銅貨三枚で販売し、売上は私たちとブルーノさんたちとで折半した。そこそこの数が売れたので程よく稼がせてもらったわ!
じいやにバレないように料理を食べてもらいたいので、ブルーノさんとシャガだけをひとまず呼び出す。
「聞いて!スネック料理を作って来たの。じいやに内緒でみんなで食べて。リビングのテーブルに置かせてもらったわ」
そう言うとブルーノさんは首を傾げる。
「スネックの塩焼きはさっきいただいたが?」
「全く別の料理を作ってきたのよ」
いたずらっぽく笑うとブルーノさんはまだ理解できていないようではあったがリビングへと向かう。この町ではスネックの塩焼きが一般的すぎて、不思議なことに他の調理法を思い付かなかったようだ。食堂でもブルーノさんの手料理もシンプルな料理が多かったので、もしかしたら県民性ならぬ町民性で料理にあまり手間暇をかけないのかもしれない。
二人の背中を見送り私は工房へと入り竹馬の製作に加わる。入れ代わり立ち代わり人が出入りするが、どの人も戻って来た時は満面の笑顔であったり呆然としていたりと反応を見ているのも面白い。オヒシバだけは「姫様の……姫様の……」と何やらブツブツと言っていたが、構うことなくスルーさせてもらった。
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大量に作られた竹製ではない竹馬を全員で抱えて広場へと行く。ブルーノさんのお弟子さんたちも手伝ってくれたので、それなりの人数が謎の道具を持ち歩いていることに気付いた町の人たちはもはや恒例行事となった「何かを売る」というのを察して、呼び込みをせずとも人が集まってくる。町の人も慣れたもので、「何かをやって見せる」のも恒例となっているので広くスペースを空けて今か今かと待っている。
「もうみんな私たちが何をするのか分かっているのね」
少し大きめの声でそう言うと笑いが起こる。
「じゃあ早速だけどまた販売会を開かせてもらうわね。今回のはこれよ!」
低めの竹馬に乗り空いたスペースを歩き回ると歓声が起きた。私が使った竹馬をじいやに渡すとじいやも器用に乗りこなし、町の人は喜んで見ている。その間にイチビたちに声をかけ、持ってくるのを忘れていた縄を取ってきてくれるように頼む。じいやもぐるっと一周をしたので、また竹馬を受け取る。
「あのね、私もじいやも簡単に乗っているように見えるだろうけど、これは難しいのよ。でも慣れるとこんなことも出来るわ」
このカレンの身体では竹馬は初めてだったけれど乗ることが出来た。ならば美樹がやっていたことも出来るだろう。何よりも畑仕事をしてみたり、水路建設をしてみたり、川に入って漁までしているのだから、むしろ美樹よりも筋力があるような気がする。
もう一度竹馬に乗り、左右に歩く。そして前に進み、それ以上に後ろ歩きで下がる。バランスをとりながら一度動きを止め、大きく息を吐いた。そして美樹が得意だった竹馬全力ダッシュをする。拍手が巻き起こるが、そこでくるりと向きを変え、竹馬スキップを披露する。やっぱり美樹の身体の時よりも上手くできている気がする。広場はサーカスを見る人たちのように大盛り上がりだ。
そこに縄を持って来てくれたイチビとシャガに声をかけ、大縄跳びのように縄を回してもらう。町の人たちは「さすがにそれは無理だろう」と言う人もいたがやってやるわ。
タイミングを見計らい縄の中に入りジャンプする。目線の先にいるイチビも驚いた顔をしているが、縄を回し続けてくれている。それに合わせ跳ね続け、美樹ですら達成できなかった十回の竹馬縄跳びを成功させた。
「売ってくれ!」
「僕もやる!」
いつものように人が押し寄せて来るがさすがに息が切れ上手く話せず、じいややブルーノさんが売り子となってくれる。
「ハァハァ……この町の皆さんは裸足でやってくださいね……ハァハァ……買ってくれた方には……ハァハァ……指導もしますよー!」
私たちとは履物が違うので注意事項を大きな声で叫ぶ。じいやは大人や大きな子にコツを教え、私は小さな子に付きっきりで遊び方を教える。大人でも子どもでもセンスのある人はやはり数回で乗ることが出来るが、想像以上に難しいと驚いている。するとドングーリのコマを作ってあげた子たちが集まって来た。
「おねーたん、あたちたちにも、できる?」
「ちょっとやってみましょうか」
小さな子どもでもバランス感覚の優れている子は乗れたりするので、近くにいたハマスゲを呼んで二人で支えながら教えてみたが、やはり乗れそうにない。悲しそうな顔を見るといたたまれなくなり、ブルーノさんのお弟子さんを呼んで持って来てもらいたい物を伝える。
「泣かないで。ちゃんと乗れる物を作ってあげるから」
不安にさせないように笑顔で言うと「ほんとに?」と呟いている。この子だけでなく乗れない子たちが集まり、悲しそうに竹馬を乗っている人たちを見ている。そこにブルーノさんのお弟子さんが角材を持って戻って来た。
「ブルーノさんも手伝って!」
大工集団を呼び角材を適当な長さで切り揃えてもらう。今から作るのは『ぽっくり』や『パカポコ』と呼ばれる竹や缶に紐を通して乗って歩くものだ。もちろんここに竹はないし、この町で缶を見たこともない。なので角材の地面に当たる部分に溝を彫り、そこに紐の代わりに縄を通す。この町の靴とほぼ同じ作り方だ。
「落ちないように乗ってみて。そしてこの縄を持って、手と足を一緒に動かして」
最初に出来上がった一つを使い乗り方の説明をすると、辿々しくも一歩ずつ進む。
「上手よ」
「できた!」
ドングーリのコマで初めて遊んだ時のような笑顔を見せてくれた。竹馬に乗れなかった子どもたちにはこの『ぽっくり』を無償で渡したが、乗れなかった大人たちは自分で作ると自分たちの家へと戻って行った。
ちなみに竹馬は銅貨三枚で販売し、売上は私たちとブルーノさんたちとで折半した。そこそこの数が売れたので程よく稼がせてもらったわ!
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