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動物の名前
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一旦バたちとお別れし、私たちは荷車を引いてジョーイさんのお店へと向かう。ニコライさんとマークさんがそれに同行する。
馬がバと呼ばれているなら牛はギュウなのかしら?と疑問に思い、一度足を止めニコライさんに黒板とチョークンを借りて牛の絵を描く。
「将来的に牧畜をしたいと考えているのだけれど、この動物は知ってる?」
私は黒板の牛の絵をみんなに見せる。
「絵もお上手だなんて非の打ち所がないですね!それは『モー』ですね」
モー……。じいやたちの顔を見ても、同じように絵を褒め頷いている。ならばと思い、豚と鶏の絵を同時に描きそれを見せる。
「ブーですね!」
「コッコですな!」
ニコライさんとじいやが同時に反応するが、ブーにコッコ……。なぜ鳴き声なのかしら……。なら馬はヒヒンじゃないとおかしいじゃないの、と一人で複雑な思いに駆られる。ならばと半ばヤケクソ気味にヒツジとヤギの絵を描いた。
「じゃあこれは!?」
みんなに絵を見せるとニコライさんとマークさんが反応する。まず先にヒツジを指さすと二人は同時に答えた。
「「メーです」」
予想通りの答えに笑みがこぼれる。だけれど日本では同じ鳴き声と認識されているヤギはどうかしら?私はビシッとヤギの絵を指さした。
「「エエエエエーです」」
二人はヒツジに対しては普段話している音程で「メー」と言った。けれどヤギに対しては声色を変え甲高く、しかもビブラートを効かせた「エエエエエー」と言っている。私の腹筋は崩壊し、涙を流しながら笑うと逆に心配されてしまった。
「大丈夫ですかカレン嬢?この二種はシャイアーク国にはほとんどおりませんからね。どこかで存在を知って名前が分からなかったのでしょう?そしてそれが今分かり、嬉し涙を流してしまったのですね!」
どこかの探偵が「謎は解けた!」と言わんばかりに自信満々に答えるニコライさん。彼の立てていた人差し指が行き場をなくしていたので口を開いた。
「まぁそんなところね」
「カレン嬢は動物がお好きなのですね。ですが残念なことに、メーとエエエエエーは比較的寒い場所を好むのです。私たちの国でも北の方でしか飼育されていないのですよ」
話を聞く限り、この世界にいるヒツジ擬きとヤギ擬きは暑い場所が苦手らしい。一年を通して暑くもなければ寒すぎない場所にいるそうだ。テックノン王国内ですら暖かい場所に連れて来ると、いわゆる夏バテのような症状になり弱ってしまうらしい。ならヒーズル王国では飼育が出来ないなと残念に思ってしまう。
「メーの毛は衣服や敷物などに使われるのですが、それを作る者も減ってきているのです」
「じゃあ毛だけ私たちの国で買うわよ?私たちはそういうのを作るのが好きな人が多いし。というか国境を作る作業はどんな感じなの?」
お母様やおババさんに編み物を教えたら、きっと夢中になってすごい作品を作ってくれそうだ。そう思い購入する意思を伝えたと同時に両国の国境について思い出した。前回会ったときにダイナマイトの作り方を教えてしまったが、怪我人が出ていないか今更ながら不安になってしまった。
「そうでした!そのお話をするのを忘れておりました。カレン嬢が教えてくださった爆薬ですが、威力が凄まじく……。作った者がですね、試しに使ったところ丘が木っ端微塵に吹き飛びまして……」
「えぇ!?怪我人は!?」
「人里離れた場所で試しましたので一人も怪我人が出ていないのが幸いですが、開発者が怯えてしまい……現在威力を調整中なのです」
丘が吹き飛んでしまったことには驚いたが、何はともあれ怪我人が出なくて良かった。ホッと胸を撫で下ろすとニコライさんは「そうだ」と地図を取り出した。小さな巻物のように丸められたその地図はこの世界では貴重とされている紙で出来ていたが、日本で見る紙とは比べ物にならないほど粗悪な物であった。もちろんそんなことは口には出さないが。
「テックノン王国が誇る最高品質の紙なんですよ」
ニコライさんは自慢気にそう言い、じいやたちはニコライさんに対しては珍しく歓声を上げて紙を見ている。
その紙に描かれた地図には簡略的にテックノン王国とシャイアーク国が描かれていて、国境部分にはそれを示すマークが描かれている。他にも私が知らない国があるらしく、そことの国境は描かれていたが他の国は記されていない。どちらの国も楕円形の領土で、両国が接する真ん中よりも南に国境があった。そのシャイアーク国の国境の北側の大部分が森の民が住んでいた場所だとじいやが途中で口を挟んだ。
「この辺りを国境にと思っております」
テックノン王国の領土の真ん中よりやや南側を指さし「ここが王都です」とニコライさんが言い、そのまま指を右下の南南東へと向かわせる。テックノン王国の南側はかなりの範囲で山脈が連なっているようだが、平地から見るとそこが低い山らしくそこを崩すと言っている。ただヒーズル王国側の地図がないので、そこがどの辺りになるのかが分からなかったが、じいやが言うにはおそらくいつも夜営をする辺りではないかと言っている。
「今も爆薬を作らせていますので、私たちが帰ってからは新しい爆薬の試みも兼ねて崩しにかかります。音がすごいのでそちらでも気付くはずです」
私たちもヒーズル王国に帰ったら交代で誰かを夜営の辺りに行かせたほうが良いわね。大体の場所が分かったら、こちら側からも資材を持って行って門等を作らないといけないわ。
馬がバと呼ばれているなら牛はギュウなのかしら?と疑問に思い、一度足を止めニコライさんに黒板とチョークンを借りて牛の絵を描く。
「将来的に牧畜をしたいと考えているのだけれど、この動物は知ってる?」
私は黒板の牛の絵をみんなに見せる。
「絵もお上手だなんて非の打ち所がないですね!それは『モー』ですね」
モー……。じいやたちの顔を見ても、同じように絵を褒め頷いている。ならばと思い、豚と鶏の絵を同時に描きそれを見せる。
「ブーですね!」
「コッコですな!」
ニコライさんとじいやが同時に反応するが、ブーにコッコ……。なぜ鳴き声なのかしら……。なら馬はヒヒンじゃないとおかしいじゃないの、と一人で複雑な思いに駆られる。ならばと半ばヤケクソ気味にヒツジとヤギの絵を描いた。
「じゃあこれは!?」
みんなに絵を見せるとニコライさんとマークさんが反応する。まず先にヒツジを指さすと二人は同時に答えた。
「「メーです」」
予想通りの答えに笑みがこぼれる。だけれど日本では同じ鳴き声と認識されているヤギはどうかしら?私はビシッとヤギの絵を指さした。
「「エエエエエーです」」
二人はヒツジに対しては普段話している音程で「メー」と言った。けれどヤギに対しては声色を変え甲高く、しかもビブラートを効かせた「エエエエエー」と言っている。私の腹筋は崩壊し、涙を流しながら笑うと逆に心配されてしまった。
「大丈夫ですかカレン嬢?この二種はシャイアーク国にはほとんどおりませんからね。どこかで存在を知って名前が分からなかったのでしょう?そしてそれが今分かり、嬉し涙を流してしまったのですね!」
どこかの探偵が「謎は解けた!」と言わんばかりに自信満々に答えるニコライさん。彼の立てていた人差し指が行き場をなくしていたので口を開いた。
「まぁそんなところね」
「カレン嬢は動物がお好きなのですね。ですが残念なことに、メーとエエエエエーは比較的寒い場所を好むのです。私たちの国でも北の方でしか飼育されていないのですよ」
話を聞く限り、この世界にいるヒツジ擬きとヤギ擬きは暑い場所が苦手らしい。一年を通して暑くもなければ寒すぎない場所にいるそうだ。テックノン王国内ですら暖かい場所に連れて来ると、いわゆる夏バテのような症状になり弱ってしまうらしい。ならヒーズル王国では飼育が出来ないなと残念に思ってしまう。
「メーの毛は衣服や敷物などに使われるのですが、それを作る者も減ってきているのです」
「じゃあ毛だけ私たちの国で買うわよ?私たちはそういうのを作るのが好きな人が多いし。というか国境を作る作業はどんな感じなの?」
お母様やおババさんに編み物を教えたら、きっと夢中になってすごい作品を作ってくれそうだ。そう思い購入する意思を伝えたと同時に両国の国境について思い出した。前回会ったときにダイナマイトの作り方を教えてしまったが、怪我人が出ていないか今更ながら不安になってしまった。
「そうでした!そのお話をするのを忘れておりました。カレン嬢が教えてくださった爆薬ですが、威力が凄まじく……。作った者がですね、試しに使ったところ丘が木っ端微塵に吹き飛びまして……」
「えぇ!?怪我人は!?」
「人里離れた場所で試しましたので一人も怪我人が出ていないのが幸いですが、開発者が怯えてしまい……現在威力を調整中なのです」
丘が吹き飛んでしまったことには驚いたが、何はともあれ怪我人が出なくて良かった。ホッと胸を撫で下ろすとニコライさんは「そうだ」と地図を取り出した。小さな巻物のように丸められたその地図はこの世界では貴重とされている紙で出来ていたが、日本で見る紙とは比べ物にならないほど粗悪な物であった。もちろんそんなことは口には出さないが。
「テックノン王国が誇る最高品質の紙なんですよ」
ニコライさんは自慢気にそう言い、じいやたちはニコライさんに対しては珍しく歓声を上げて紙を見ている。
その紙に描かれた地図には簡略的にテックノン王国とシャイアーク国が描かれていて、国境部分にはそれを示すマークが描かれている。他にも私が知らない国があるらしく、そことの国境は描かれていたが他の国は記されていない。どちらの国も楕円形の領土で、両国が接する真ん中よりも南に国境があった。そのシャイアーク国の国境の北側の大部分が森の民が住んでいた場所だとじいやが途中で口を挟んだ。
「この辺りを国境にと思っております」
テックノン王国の領土の真ん中よりやや南側を指さし「ここが王都です」とニコライさんが言い、そのまま指を右下の南南東へと向かわせる。テックノン王国の南側はかなりの範囲で山脈が連なっているようだが、平地から見るとそこが低い山らしくそこを崩すと言っている。ただヒーズル王国側の地図がないので、そこがどの辺りになるのかが分からなかったが、じいやが言うにはおそらくいつも夜営をする辺りではないかと言っている。
「今も爆薬を作らせていますので、私たちが帰ってからは新しい爆薬の試みも兼ねて崩しにかかります。音がすごいのでそちらでも気付くはずです」
私たちもヒーズル王国に帰ったら交代で誰かを夜営の辺りに行かせたほうが良いわね。大体の場所が分かったら、こちら側からも資材を持って行って門等を作らないといけないわ。
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