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カレンの罠作り

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 オヒシバを褒め殺しし、一旦綿繰り機を仕舞おうと家へと向かう。玄関から入ってすぐの元は台所として作られたであろう場所は最近では物置と化している。所狭しと物が山積みとなっているその場所で、綿繰り機をどこに置こうかと考えあぐねていると後ろから人の走る音が聞こえた。振り向いてもそこには誰もおらず、玄関から顔を出すとオヒシバがレンガ作りの場所へ向かって走るのが見えた。家まで着いて来ていたのに気付かなかったようだ。
 向こうの作業も大変だろうと思いながら物を寄せたり、綿繰り機を置いてはまた持ち上げたりを繰り返しているとまた人の走る音がする。条件反射で玄関を見れば、オヒシバをはじめとした四人組がそこに立っていた。驚きと呆気にとられ四人を見てるとオヒシバが口を開く。

「しばしお待ちください!」

 そしてまたどこかへ走り去る四人組。あまりにも気になり玄関から出てその後ろ姿を見れば、どうやら材木置き場へと向かっているようだ。嵐が過ぎ去ったようだと思いながら呆然としていると、四人は両手にたくさんの木材を持ちこちらに向かって走ってくる。
 そこそこに体格の良い彼らが姿勢を低くし突進してくる様を見て、ラグビーの選手はいつもこんなに恐ろしい思いをしているのかとぼんやりと思いながら身構えた。

「……簡易で申し訳ありません」

 ハマスゲが口を開き、言うが早いか家の横に柱を建て始める。土に直接柱を埋め、いつの間にか作っていたと思われる梯子まで持ち出し上からハンマーのようなものでガンガンと叩き埋め込んでいく。よほど慣れているのか四人はテキパキと柱を埋め込み、梁も作り始めさらには壁も作る。

 あまりにも職人じみた作業を呆然と見ているうちに小さな物置小屋が完成する。いわゆる掘っ立て小屋だ。窓はないが、四辺の一辺だけ壁を作らずに屋根を伸ばし、扉は無くオープンになっているので明るさに困ることはなさそうだ。

「……すごい……」

 普通に感想をもらせば四人はいつものようにモジモジとしている。

「ありがたく使わせてもらうけれど、こんなに素晴らしい技術があるのなら家の壁作りの組に入ったほうがいいんじゃ……」

 そう呟けば全員がハッとした顔をし、レンガ作りをしている者たちのところへ走り何かを指示したあと木材を持ちバラックへと走り去って行った。
 その姿を見届け、自宅から私が持てそうな物を物置小屋へと移動させる。せいろのような物を見つけ、本当にせいろか分からない為物置小屋の入り口に積んでおく。
 これで自宅の玄関口はいくらかスッキリとした。綿繰り機も物置小屋に置くと私は手持ち無沙汰になってしまった。自宅の入り口にある物を整理し歩きやすくしようとしていると、細めの縄の束が出てきた。周りに物がありすぎて忘れさられた物のようだった。触ってみるとそんなに劣化はしておらず、まだ使える代物だった。
 それを見て私は閃き、材木置き場へ向かい作業をしている人から道具を借り、板の真ん中をくり抜いて「ロ」の形の枠をいくつか作る。その場にいる人に硬い木材を聞き、それで「アバリ」という道具を作る。少々骨が折れたが、彫刻刀のような物で無理やり形にし、枠とアバリを持って自宅へと戻った。

 玄関前に座りアバリに細い縄を巻いていく。そして作業を開始する。
 美樹の住んでいた場所は海も山も川もあった。ご近所さんに可愛がられていた美樹は、たくさんのことをお年寄りに教えてもらい自然の中で遊ぶことは当然のことだった。ただ普通の子どもと違い、貧乏で物が買えない美樹は物の作り方をたくさん学ばせてもらった。その一つがこれである。
 今作っているのは漁師が使う網だ。今では漁師も既製品を購入する人が多い中、手作りの漁網に拘る漁師がいた。それでもその人が使うその糸はナイロン等の合成繊維で『昔は天然の繊維を使っていたんだよ』と言っていた。
 材料はある。作り方も分かる。ならば作らないわけはない。

 適度に休憩をとりながらほぼ一日がかりで作ったそれは『地獄網』や『もんどり』、『お魚キラー』等と呼ばれる仕掛け網である。大きなチューブ状にした網の中に『ロ』の字に作った枠を入れ、その部分に頂点の空いた三角系の網を括り付け、中に入った魚が自力で戻れないようにする。そしてエサがないので上手く魚が入るか分からない為、入り口部分の開口部に大型の網を取り付けた。その大型の網の部分を使って人力で追い込み漁をしようと思うのだ。もし何か魚が入ればそれをエサにしてみようと思う。

 この仕掛けは明日使ってみることにしよう。魚を見たこともなかった民たちは戸惑うかもしれないが、魚の美味しさも伝えたいと思うのだ。食べてみればきっとみんなも好きになってくれるはずだ。
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