80 / 366
カレンとヒイラギの織機作製
しおりを挟む
さて胡椒が出来たとあらば、塩胡椒で食べたい料理はたくさんある。あれやこれやと料理について考えているとヒイラギがやって来た。
「姫、頼まれていた物が出来たよ。確認してほしいな」
「本当!?」
どうやら綿繰り機が完成したようで、ヒイラギと共に材木置き場へと向かった。二人とも足取りは軽く、まるでデートを楽しむカップルのようだ。……と、これはナズナさんに失礼ね。
「設計図に限りなく忠実に作ったよ」
材木置き場へと到着したヒイラギは、自信満々の表情でそう言った。指さす方を見れば、切り株を使った台の上に真新しい綿繰り機が置いてあった。
「触ってもいい?」
「もちろん」
綿繰り機の側に行き、そっとハンドルを回してみる。難しかったであろう『はすば歯車』の部分はしっかりと噛み合い、ローラー部分はスムーズに動く。
「すごいわヒイラギ!完璧よ!」
「姫の期待に応えられたなら何より。あとね、姫の性格を考えて他に三つ程作ってあるから」
いたずらっぽく笑うヒイラギに驚いたが、今まさに「もう一つ欲しい」と言うところだったのだ。苦笑いで誤魔化す私を見てヒイラギも笑う。
「まさかこんなに完璧に作ってくれるとは思わなかったわ。黒板とチョークンを貸して?」
手渡された黒板の綿繰り機の設計図を消し、新たな設計図を描く。本当なら「あれ」も欲しいのだが、もう間もなくテックノン王国製の物が手に入るのでそれは諦めることにする。今描いているものはヒイラギが欲していた織機だ。だけれど大型のものではなく卓上用の小さなものを描いている。そして綿繰り機が出来たので糸車の設計図も描く。
織機は卓上とは言っても幅広の大きなサイズで、簡易のものではなく綜絖という経糸を上げ下げさせる重要な装置付きのものを設計する。織った布は手前で巻いていけるようにし、緯糸を通す杼、シャトルといったほうが馴染み深い道具や緯糸を整える櫛も一緒に作ってもらう。
美樹は子どもの頃にフリーマーケットで格安で手に入れたおもちゃの織機を大事に使っていて、余った毛糸でいつも小さな作品を作っていたのだ。なので構造は熟知している。それを幅広く描いただけだ。ただ美樹の持っていたものは太い毛糸用だったので、経糸を通す溝や綜絖はかなり細かく描いた。
糸車については綿繰り機を持っていた美樹のご近所さんが所有していたので、これも使い方も構造も分かる。綿花の収穫時期になるといつも手伝わせてもらっていたのだ。
「……と、こんな感じで分かるかしら?」
黒板に描いた設計図をヒイラギに渡す。しばしそれを眺めていたヒイラギはニッコリと笑いながら顔を上げた。
「やり甲斐があるね。任せて。ただね、一つ質問があるんだ」
ヒイラギに問われた私は「何?」と聞き返す。
「この糸車があればもっと早く糸が作れるんでしょう?ならオッヒョイやチョーマの糸も簡単に作れるんじゃない?」
「そうね、そうなんだけど、オッヒョイやチョーマの糸は頑丈でしょう?糸車のほうが負けて壊れるって聞いたことがあるの。スピンドル……紡錘は持ち運びも容易だからどこでも糸を作れるという利便性もあるし」
そう言うとヒイラギは顎に手を当て考え事をしているようだ。
「ならそれに負けない硬い木材で作ってみよう。壊れたらその都度その部分を直したり作り直したりすればいいと思うよ。だって木材は豊富にあるんだから」
ヒイラギは笑顔で森を指さす。そうか。日本のように壊れたらどうしようとか、修理代をどうしようと考えなくてもいいんだ。そう思うと気が楽になった。
「そうよね……ヒイラギがいれば何かあっても安心だものね」
思ったことを口にすれば、ヒイラギは真っ赤になり私の前で初めて動揺をしている。
「姫……照れるからやめて……」
そうして両手で顔を覆い赤い顔を隠そうとしている。予想外の行動に笑ってしまった。
「もう!じゃあ早速作るから」
照れたヒイラギは走り去ってしまった。と同時に後ろから声をかけられた。
「……仲がよろしいのですね……」
驚き振り向くと、そこにはコンポストの蓋を完成させたオヒシバが無表情で立っていた。どこかもの悲しげにも見える。
「まぁ!蓋が完成したのね!オヒシバ、一緒に蓋をしに行きましょう!」
なんとも言えない表情のオヒシバに、無理に明るく笑ってそう言えば少しだけウキウキとした顔になりホッとする。オヒシバたち四人組はとても良い人たちなのだが、特に私に対してコミュ症を発症してしまうのでたまにどうしたら良いのか分からない時がある。
綿繰り機を抱え無難な会話を一方的にしながら、いや、ほぼ独り言を言いながらコンポストの場所まで行き、コンポストに蓋をする。
「すごいわオヒシバ!ピッタリよ!上手ね!」
オヒシバをとにかく褒めまくると、嬉しそうにモジモジとしている。私は苦笑いにならないように必死で笑顔を作った。彼ら四人組とのコミュニケーションはこれで正解なのかもしれないと秘かに思ったのだった。
「姫、頼まれていた物が出来たよ。確認してほしいな」
「本当!?」
どうやら綿繰り機が完成したようで、ヒイラギと共に材木置き場へと向かった。二人とも足取りは軽く、まるでデートを楽しむカップルのようだ。……と、これはナズナさんに失礼ね。
「設計図に限りなく忠実に作ったよ」
材木置き場へと到着したヒイラギは、自信満々の表情でそう言った。指さす方を見れば、切り株を使った台の上に真新しい綿繰り機が置いてあった。
「触ってもいい?」
「もちろん」
綿繰り機の側に行き、そっとハンドルを回してみる。難しかったであろう『はすば歯車』の部分はしっかりと噛み合い、ローラー部分はスムーズに動く。
「すごいわヒイラギ!完璧よ!」
「姫の期待に応えられたなら何より。あとね、姫の性格を考えて他に三つ程作ってあるから」
いたずらっぽく笑うヒイラギに驚いたが、今まさに「もう一つ欲しい」と言うところだったのだ。苦笑いで誤魔化す私を見てヒイラギも笑う。
「まさかこんなに完璧に作ってくれるとは思わなかったわ。黒板とチョークンを貸して?」
手渡された黒板の綿繰り機の設計図を消し、新たな設計図を描く。本当なら「あれ」も欲しいのだが、もう間もなくテックノン王国製の物が手に入るのでそれは諦めることにする。今描いているものはヒイラギが欲していた織機だ。だけれど大型のものではなく卓上用の小さなものを描いている。そして綿繰り機が出来たので糸車の設計図も描く。
織機は卓上とは言っても幅広の大きなサイズで、簡易のものではなく綜絖という経糸を上げ下げさせる重要な装置付きのものを設計する。織った布は手前で巻いていけるようにし、緯糸を通す杼、シャトルといったほうが馴染み深い道具や緯糸を整える櫛も一緒に作ってもらう。
美樹は子どもの頃にフリーマーケットで格安で手に入れたおもちゃの織機を大事に使っていて、余った毛糸でいつも小さな作品を作っていたのだ。なので構造は熟知している。それを幅広く描いただけだ。ただ美樹の持っていたものは太い毛糸用だったので、経糸を通す溝や綜絖はかなり細かく描いた。
糸車については綿繰り機を持っていた美樹のご近所さんが所有していたので、これも使い方も構造も分かる。綿花の収穫時期になるといつも手伝わせてもらっていたのだ。
「……と、こんな感じで分かるかしら?」
黒板に描いた設計図をヒイラギに渡す。しばしそれを眺めていたヒイラギはニッコリと笑いながら顔を上げた。
「やり甲斐があるね。任せて。ただね、一つ質問があるんだ」
ヒイラギに問われた私は「何?」と聞き返す。
「この糸車があればもっと早く糸が作れるんでしょう?ならオッヒョイやチョーマの糸も簡単に作れるんじゃない?」
「そうね、そうなんだけど、オッヒョイやチョーマの糸は頑丈でしょう?糸車のほうが負けて壊れるって聞いたことがあるの。スピンドル……紡錘は持ち運びも容易だからどこでも糸を作れるという利便性もあるし」
そう言うとヒイラギは顎に手を当て考え事をしているようだ。
「ならそれに負けない硬い木材で作ってみよう。壊れたらその都度その部分を直したり作り直したりすればいいと思うよ。だって木材は豊富にあるんだから」
ヒイラギは笑顔で森を指さす。そうか。日本のように壊れたらどうしようとか、修理代をどうしようと考えなくてもいいんだ。そう思うと気が楽になった。
「そうよね……ヒイラギがいれば何かあっても安心だものね」
思ったことを口にすれば、ヒイラギは真っ赤になり私の前で初めて動揺をしている。
「姫……照れるからやめて……」
そうして両手で顔を覆い赤い顔を隠そうとしている。予想外の行動に笑ってしまった。
「もう!じゃあ早速作るから」
照れたヒイラギは走り去ってしまった。と同時に後ろから声をかけられた。
「……仲がよろしいのですね……」
驚き振り向くと、そこにはコンポストの蓋を完成させたオヒシバが無表情で立っていた。どこかもの悲しげにも見える。
「まぁ!蓋が完成したのね!オヒシバ、一緒に蓋をしに行きましょう!」
なんとも言えない表情のオヒシバに、無理に明るく笑ってそう言えば少しだけウキウキとした顔になりホッとする。オヒシバたち四人組はとても良い人たちなのだが、特に私に対してコミュ症を発症してしまうのでたまにどうしたら良いのか分からない時がある。
綿繰り機を抱え無難な会話を一方的にしながら、いや、ほぼ独り言を言いながらコンポストの場所まで行き、コンポストに蓋をする。
「すごいわオヒシバ!ピッタリよ!上手ね!」
オヒシバをとにかく褒めまくると、嬉しそうにモジモジとしている。私は苦笑いにならないように必死で笑顔を作った。彼ら四人組とのコミュニケーションはこれで正解なのかもしれないと秘かに思ったのだった。
34
お気に入りに追加
1,989
あなたにおすすめの小説
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます
蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜
誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。
スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。
そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。
「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。
スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。
また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる