上 下
79 / 366

姫は大忙し

しおりを挟む
  コンポストの完成を喜んでいると畑からタラが現れた。タラはコンポストを見て興味を示していたので、堆肥を作るものだと伝えると喜んでくれた。

「栄養のある土になる日が楽しみですね!……と、姫様。果実が実り始めましたよ。オックラーやパンキプンも見ていただきたいのですが」

  どうやら先日新たに植えたものたちが収穫の時期を迎えたようだ。と、ここでエビネも思い出したかのように話し始める。

「姫様、先日耕した畑ですが何を植えたら良いでしょう?」

  あの東側に作ってもらった畑は一部が完成し、まだまだ拡大を続けてもらっている。

「あの畑は全てナーの花を植えて。匂いが苦手なのは知っているけれど、慣れればそんなに気にならないと思うのだけれど……」

  そう言うとエビネもタラも絶句する。だがすぐに二人は我にかえる。

「わ……分かりました。では後で種の採取を致します」

  苦手なことを頼んで申し訳なさもあるが、なんとかこの苦手を克服して欲しいと願う。そして私はタラと畑に入った。オヒシバはコンポストの蓋を作ると材木置き場へと向かって行った。

  果樹を植えている一画に立ち入ると、最初に植えたものが実を付け始めている。挿し木をしたものはもう少し成長に時間がかかりそうだ。ベーリ類は宝石のようにツヤツヤと輝き、試しに摘んで食べてみるとベーリは程よい酸味を感じ、黒ベーリは甘さと酸味の調和がとれている。
  オーレンジンはリトールの町で購入したものよりも甘さが強く、味見をしたタラも驚くほどだった。チェーリは少し収穫には早そうではあったが、これも日本のサクランボのように甘さと酸味が感じられ、もう少し熟すと甘さが増しそうだ。
  さらにアポーも数個実を付けていたが、こちらは日本のものよりも一回り小さいようだ。グレップは巨峰やマスカットを想像させる品種のようだ。味見だけでお腹が膨れ、そのままパンキプン畑に向かう。

「わぁ!立派に育ったわね!」

  畑には日本のカボチャとそっくりな濃い緑の実がたくさん実っていた。大きな葉をめくってみれば、葉の陰に隠れたパンキプンもある。

「これは体にも良いのよ。お父様たちも食べられるように夕食に出しましょう」

  そのままオックラーの畑に移動すると、こちらも実がなっている。自分の知っているオクラのように、空に向かって伸びる茎の下の部分から徐々に上に向かって花が咲き実になるようだ。

「これはね種を採るには茶色になるまで乾燥させなければいけないの。数株はこのまま残しましょう。収穫したものは、実よりも下の葉を全部落とすのよ」

  そうやって見せるとタラはしっかりとやり方を見て頷いている。早めに収穫をしないとすぐに固くて食べられなくことも伝える。そして隣の緑のペパー畑を見ると、ピーマンとししとうが実っている。

「これは食べ頃ね。収穫しても大丈夫よ。後で調理法を教えるわね。あと種を採取するにはこのまま実を収穫しないで。真っ赤に色が変わったら種が採れるわ」

  一つピーマン型のほうを収穫し、手で割って食べてみる。みずみずしくパリッとした食感を楽しむと、ピーマン独特のほんのりとした苦味を感じる。タラにも食べさせてみると不思議そうな顔をしながら噛んでいる。

「少し苦味があるのですね」

「そうね、これが美味しいのだけれど。私のいた世界と人体の作りは一緒なのか分からないけれど、子どものほうが味覚が敏感なの。だから苦味を嫌がるかもしれないわね」

  そう言うと目から鱗が落ちるような表情をするタラ。聞いてみるとやはりこの世界でもそうらしく、子どもの頃に苦手だった山菜が大人になると普通に食べれるようになったと言う。

「栄養のあるものだから、出来れば子どもたちにも食べてもらいたいわね」

  そう苦笑いで言うと、タラも「そうですね」と苦笑いで答えた。二人で笑いあっていると広場からエビネに呼ばれた。タラにあとは任せ、畑から広場へと移動する。

「どうかした?」

  歩きやすいあぜ道を歩きながらエビネに声をかける。少し疲れた表情のエビネが口を開いた。

「ナーの種の採取が終わりました。……姫様の言う通り、慣れるものですね」

  匂いのことを言っているのだろうが、その疲れた顔からは苦戦したあとが伺える。

「畑に撒くには少々足りないと思いますので、もう数日かかると思われます。ところで姫様、ペパーの実の乾燥も充分そうなのですが」

  一度ナーの花の群生を返り見たエビネは、ペパーの実について語る。確認したいと言うとバラックの方から持って来てくれた。私は民たちからあまりバラックに近付くなと言われているので広場でおとなしく待っていた。
  エビネはザルを二つ持って来たのでその中を確認すると、しっかりと黒胡椒と白胡椒が出来ている。一つここで問題が起きた。ペッパーミルがないのだ。しばしペパーの実を前に考え込んでいるとエビネに声をかけられる。

「どうされました?」

「えぇと……これをすり潰すというか砕くというか……細かくしたいのだけれど、どうしようかなって」

  そう言うとエビネは「お待ちください」と言い、またバラックの方へ走る。すぐに戻ってきたエビネの手には、貧乏育ちの美樹ですら時代劇でしか見たことのない薬研があった。

「これは売らずに隠し持っていたのですが、薬草などをすり潰したりするのに使っていたのですが……」

  隠し持っていたと言うエビネは都合の悪そうな顔をするが、よく売らずにいてくれたと感謝せずにいられない。
  早速エビネは石で作られた舟形の中央の窪みにペパーを入れ、握り手を掴み円盤状の車輪を動かす。ゴリゴリとすり潰しているうちに粗挽き胡椒が出来上がる。それを木製の容器に移し、次に白胡椒を同じようにすり潰す。こちらはサラサラになるまですり潰してもらった。

「エビネ、本当にありがとう。これで料理の幅が広がったわ!」

「お役に立てて光栄です。これからはペパーの収穫を終えましたら粉にいたしますね」

  エビネを褒め称え感謝し過ぎと言われるほどお礼を告げた。これでお料理に定番の胡椒が手に入ったわ。きっとお母様も喜んでくれることでしょう!
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜

藤*鳳
ファンタジー
 楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...?? 神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!! 冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

処理中です...