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カレンの講習会

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  翌朝から始まった講習会だが、農作業をする者たちから数名が志願してやって来た。今日代表で来た者がわらじ作りを覚え、後で他の者に教えると言う。
  まずは縄を作ってもらうところから始め、その間に私はあちらこちらを移動する。

  最初に来たのはレンガ作りの場だ。イチビたちは日干しレンガの窯を作り終わっていて、今日は焼成用の干したレンガを焼くようだ。
  その準備でみんなが忙しそうな中、私は最初に作った完全に冷えたレンガを窯から取り出す。作りたい物には数が足りないので、とりあえず家の横に持って行き、積んで保管しておくことにした。
  一瞬手の空いたハマスゲを捕まえ、割れたレンガを砂のように細かく砕いて粘土に混ぜてみて欲しいと伝え次の場所に向かう。

「ヒイラギ、お待たせ」

  ヒイラギは糸を紡いでいたり縄を作っている場所の近くに机と椅子を並べ、その自分の作った作品に座り出来を確かめていた。机を作る時に一個ずつ作るのも手間だと思い今回は長机を頼んだのだが、これが今日は活躍してくれそうだ。

「座ってみて。こんな感じでいいかな?」

  ヒイラギに促され座ってみたが、女性の座りやすい高さで作ったという机と椅子は作業をしやすそうだ。

「最高ね。それで織機なんだけど……その前に作って欲しい物があるの」

  苦笑いをしながらおねだりをすると、「えー」と言いながらも何を作ったら良いのか聞いてくれる。わらじの編み台を作って欲しいと頼んだが、今回は「匚」の字の台座を作ってもらい、その部分を机に引っ掛けて固定出来るようにしてもらう。そしてフォーク形の編み台を取り付けて欲しいと頼んだ。

「うーん……」

  それを聞いたヒイラギは顎に手を当て何かを悩んでいる。

「どうしたの?」

「姫は昨日地面でやっていたよね?机に引っ掛ける部分を取り外し可能にしたら、机でも地面でも好きなように作れるよね?」

  なるほど、と思った。ヒイラギと二人で縄作りの様子を伺うとまだ時間がかかりそうである。

「急いでやるよ」

  そう言ったヒイラギは間伐作業をしている何人かに声をかけ、作りたい物の形を説明し作業に取り掛かる。まずフォーク型の板を作り「⊥」の形に組み上げたあと、底面に当たる部分に長方形の穴を開ける。そして「L」字に加工した板の上部に「呂」のようなくびれを彫り込み、「⊥」の底面の穴に差し込み九十度ひねると外れないように工夫をしてくれた。その部分を机に引っ掛ける。それを人数分作ってくれた。

「ヒイラギ……天才かしら……?」

「ね?なかなかやるでしょう?」

  自慢気に笑うヒイラギが神か何かだと思ってしまったわ。そんなヒイラギにさらにお願いをすることにした。

「ヒイラギ、織機の前にもう一つ欲しい物があるの」

  ちょっと待っててと言い残し、ダッシュで家に戻りスイレンがブルーノさんから貰った黒板とチョークンを拝借する。
  そのままヒイラギの元へと戻り、さらさらと設計図を書くがこれは綿繰り機の設計図だ。そろそろコートンの収穫が始まりそうなのだが、この綿繰り機は板と板の間にローラーを二つ設置し、ハンドルを回すと綿と種を分けてくれる道具なのだ。ローラーは「はすば歯車」という軸に対して斜めに溝を彫って加工した歯車で動く。美樹のご近所さんが自家栽培の綿をこの道具で作っていたので何回も見たことがある。細かい部分や注意書きを記入してヒイラギに黒板を渡す。

「この斜めの溝が難しいと思うんだけど……出来そう?」

「出来そうじゃなくてやるんですよ」

  スイレンとタデの言葉を真似たヒイラギはタデの真似をし、自分で言って自分で吹き出す。つられて私も一緒に笑う。

「本当はもっと欲しい道具がたくさんあるの。でも一つずつ作っていきましょう」

  そう言うと「お任せください」とヒイラギは設計図を持ち材木置き場へと向かって行った。

  さてみんなの縄はどうなっているかと確認に行くと、各々が程よい量の縄を作り上げていた。

「みんな、そのくらい縄があれば大丈夫よ。こっちに来て」

  各々で作った縄を持たせ机に誘導する。みんなが座ったのを確認し、私が教わった時のことを思い出しながら編み方の説明をする。基本的に手先が器用な民族なのだろう。編み始めるとすぐにコツを掴み、スピードはゆっくりとだが確実に編んでいく。「乳」の部分の説明をし終わると後は同じ編み方をしていくだけなので、その間に私は縄をなう。

  数時間後、ようやく全員がわらじを作り終えた。みんなは達成感と出来の良さに笑い合い、その顔は疲れを感じさせない。

「みんな上手ね!じゃあ履き方を説明するわね」

  履いている靴を脱ぎわらじを用意する。履く前に軽く湿らせると良いのでざっと一瞬だけ水に浸ける。わらじは作る人や土地によって微妙に形が違う。そして本来の作り方で履くと指がわらじよりも外に出てしまう。この砂や土ばかりのこの土地ならばそんなに気にならないだろうが、美樹の作っていたわらじは先端から出ているはずの紐を底面にくぐらせ鼻緒の部分を調整していて、指先が痛くならないと若い祭りの参加者に喜ばれていたのだ。

「この部分を鼻緒と言うのだけれど、慣れないうちは擦れたりして痛いと思うわ。そこは我慢してね」

  そう言い親指と人差し指の間に鼻緒を通す。結び方も種類があるが、自分のやっていたやり方で説明をする。
  鼻緒にした紐を側面にある「乳」に通し、かかとに作った輪に通してから「乳」に通した紐の下をくぐらせ足の甲に持って行き、足首の前で交差させて足に巻き付けるようにして足首の前で結ぶ。

「紐をきつくしても緩くしても履きづらいから、そこは自分で調節して」

  私がゆっくりと紐を通しながら説明をすると、みんなもそれを真似る。

「痛かったりしたら独自の結び方でいいからね」

  そう伝えたがみんなは私の教えた結び方で問題がないようだ。履き心地を確かめるように歩く者、跳ねる者、紐の調節をする者、まじまじと観察する者と三者三様の反応を見せた。
  みんなから感謝の言葉を伝えられる中、感激で涙ぐんでいる者を見て嬉しくなり、私もちょっぴり涙目になってしまったのは内緒だ。
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