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優秀な民たち

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 翌日になりまずは窯の様子を見に行く。蓋の代わりにした瓦状の物はいくつか割れていたが、そっと外して中を見る。まだ完全には冷えていないがヤケドはしなさそうだ。
 中を覗くと半分ほどのレンガが割れていた。やはり最初の乾燥が足りなかったようだ。無事なレンガは濃いめのベージュ色に焼き上がっているようだ。使用した粘土や土によって変わるが、焼いた時の温度が高ければ黒っぽくなり温度が低いとベージュ色に焼き上がる。簡易の窯で作ったにしては上出来と言っても良いだろう。すなわちリベンジに成功したのだ。

「姫様……残念でしたね……」

 割れたレンガを一緒に見ていたイチビが気遣ってくれる。その表情は心から悲しんでいるようだった。

「ううん、本当はしっかり干してから焼かないとダメなのよ。昨日私が作ったレンガをあと一日か二日乾かしてから焼けばほとんど割れないと思うわ。割れたレンガもさらに砕いて砂のようにしてから粘土に混ぜれば強度が増すのよ」

 何も気にすることなく明るく言うとみんなの表情も明るいものへと変わる。

「今日は一日かけてこのレンガをこのまま冷やすわ。新しいレンガ作りと窯作りを頑張りましょう」

 そう言うとみんなの表情にやる気が満ち溢れた。

 まず人が増えた分、日干しレンガを作る者と焼成レンガを作る者に分ける。一度全員に日干しレンガの作り方を教え、焼成レンガ組には別で土を混ぜる工程を教える。大ざっぱな私は目分量だったと言うと全員に引かれてしまったが、シャガが上手く軌道修正してくれた。
 全員が粘土を捏ねている間にイチビたち四人組と共に新しい窯を組み上げる。数を焼けるように窯を横長に作り、焚き木を入れる場所を複数作った。手探りのこの作業がとても楽しく感じる。日干しレンガの在庫が増えたら向かい側に同じ物を作る予定だ。

 そしてイチビたちは私に気を遣ったのか、今日は四人が主導でレンガを作るので他の作業を見たら良いのではと提案され、私は渋々その場所を離れる。
 そういえば昨日は家の周りに置いている物の様子を見ていなかったなと思い、家の方に向かうとタラに出会った。タラと一緒にペパーの様子を見てみると、緑色だった実は申し分ないくらいに乾燥している。そして水に浸けていた赤い実は充分にふやけていた。

「ここまでふやけたら問題ないわね。あとはこの皮を剥いて干せば私の欲しい物が手に入るわ」

「姫様、ペパーの実の収穫とその作業は子どもたちにやらせても良いでしょうか?」

「もちろんよ」

 どうやら子どもたちは昨日一日いっぱい鍬を振るったおかげで疲れが抜けていないらしい。なので座ってできる作業をやらせたいとのことだった。タラにペパーの実の収穫方法と緑と赤い実を穂から外して分けるように伝えると、タラはカゴを持って子どもたちを呼んで畑へと向かった。
 そのまま私はデーツの種から発芽した物を見に行き驚いた。やはりこの土地の力のおかげかあんなに小さかった芽はかなり成長している。すぐに地植えをすると良くないらしいが、この成長ぶりだと地植えをしても大丈夫だろう。ならばとエビネを探しに畑へと向かう。

「エビネー!どこー?」

 大声で叫べば近くのトゥメィトゥ畑からひょっこりと顔を出してくれた。

「どうされました?あ!姫様、そういえば果樹に花が咲きましたよ」

「本当!?」

 嬉しいことだがしばし考える。蜂などの虫がいないここでは受粉が上手くいくだろうか?

「コートンの木の様子はどう?」

「コートンですか?先程ざっと見た限り数個綿毛を確認できましたよ?」

 エビネは不思議そうに小首を傾げる。受粉について知っているかを聞くと肯定してくれた。ならばと思い、コートンの綿毛を使って人の手で受粉させるように頼むと「実が成るかは私たちにかかっているのですね!」と笑顔になりつつも気合が入る。エビネはいつも心から楽しんで畑作業をしていて本当に頼りになる。

「コートンはあまり大量に使わないようにして、乾燥したら綿毛の部分を収穫してほしいの。……って本来の目的を忘れてたわ!」

 危うく自分まで受粉の作業に行きそうになったが、途中で思い出し胸の前で手を叩く。

「そうでしたね、改めましてどうされました?」

 エビネも私もおかしくて笑ってしまう。

「あのね、手が空いた時でいいから発芽したデーツを東側の新しい畑の横にでも植えてほしいのよ。水路が完成したら植える予定だったでしょ?でもあの数の種からほとんど芽が出てかなり育ってきているのよ。あの様子だと脇芽もそのうち出てくるでしょうし植えてしまおうと思って」

「なるほど。まだあちら側は殺風景ですものね」

 エビネはすき込みが終わったばかりの休ませている畑のほうを見る。

「分かりました。こちらの作業が終わりましたら早速取り掛かります」

 笑顔で承諾してくれたエビネに植える時の注意として、山のように寄せてあるムギンの藁を根元から幹にかけて包んで植えてほしいと伝える。成長が早いとはいえまだ赤ちゃん苗なのだ。風や気温から守るための作業だと言うとますますやる気になったエビネであった。
 そしてその作業を手伝おうと思っていると、イチビたちと同様に他のことをして大丈夫ですよ、と言われる。この王国の民たちは優秀すぎて、たまに手持ち無沙汰になってしまうのが困りどころだと思い笑ってしまったのだった。
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