上 下
64 / 366

しおりを挟む
  糸作りはスピンドルのおかげで今まででは考えられないスピードで進んでいるらしく、途中からは繊維を裂く人、はた結びで繊維を繋げる人とみんなで分担して作業を進めた。

  ある程度進めたところで一旦休憩となり、和やかに談笑している時に私はみんなに質問をした。

「他にも繊維を使う植物ってあるの」

「そうね……いろいろあるけれどアーマとか……」

  アーマ?亜麻のことかしら?

「綺麗な花を咲かせる植物のこと?」

「そうね。花は綺麗だし丈夫な繊維を取れるけれど、私たちはアーマよりもチョーマのほうが馴染み深いわね」

  チョーマという言葉を聞き一瞬考えたが、苧麻のことだろうか?日本では苧麻よりもカラムシという名前のほうが知名度があるかもしれない。

「チョーマならそこに生えてるわよ」

  一緒に談笑をしていたハコベさんが立ち上がり、一株を刈り取る。見せてもらうとやはり葉などの特徴から苧麻のようだった。

「チョーマも糸にしてみる?水に浸けておくだけで繊維が取れるわよ?」

  ハコベさんがそう言うと他の人も立ち上がり、バケツに水を入れて来てくれた。葉を落としたものを数時間水に浸けておくそうだ。今はお試しでバケツの中に小さな株が一株だけだが、これも繁殖力が強い植物らしく放っておくと密集して生えるらしいので、気に入るのであれば毎日でも採取すると女性たちは言う。

「他にもあるの?私がいた世界では『麻』という植物があって、その繊維が有名なんだけれど私がいた国では栽培が禁止されてたのよね」

「麻?……繊維が取れるのに植えてはダメなの?」

  隣にいたお母様が不思議そうに聞いてきた。

「うん。花や葉に幻覚作用があってね、人体にも精神にも良くないからいろんな国で禁止されてたの」

  もちろん周りの人間にそんな物に手を出す人がいなかったので、どれほどの幻覚作用があるかまでは分からない。実際に生えているところを見たこともない。けれど危険な物だと言うとみんなは同じ言葉を口にし始める。

「死の草……」

「え?」

「カレンが言っているのは私たちが『死の草』と呼んでいた物だと思うわ。昔知らずに燃料として燃やした者がいたらしくて、その煙を吸ってしまった者たちがおかしくなってしまったらしいの。私たちも茎は繊維を利用していたけれど、その場で葉を落として土に埋めて、もし万が一煙を吸う者がいたら見つけ次第死刑にすることにしていたわ」

  あまりにも物騒な言葉が飛び出し驚いてしまった。

「死刑!?」

「私が生まれてからは死刑はないわよ。子どもの頃から言い聞かせられて育てられるから。死刑と言っても元々仲間だった人を殺すことなんて私たちには出来なくて、手足の自由を奪って獰猛な動物がいる森の奥に縛り付けたり埋めたり……最後の瞬間は動物に任せるの」

  そう言ったナズナさんは続ける。

「だからシャイアーク国で植物採取をした時も、私たちは『死の草』は取らずに来たわ」

  それを聞いてどこかホッとしてしまった。すると暗い話題を払拭するようにお母様は明るく声を上げる。

「さぁ糸作りを終わらせてしまいましょう」

  朝食と昼食の間にあるおやつ時のような時間まで糸を紡ぎ、簡単な食事をとってからまた続きをする。昼食の時間が近付いた頃、作業を終えて女性陣は昼食の準備に取り掛かる。

「カレン、ハコベとナズナにチョーマの糸作りを聞いたらどう?」

  昼食作りの手伝いをしようとするとお母様にそう言われた。ハコベさんとナズナさんは先程の水に浸けたチョーマを確認し「もう良さそう」と言っている。
  私はお言葉に甘えることにして、ハコベさんとナズナさんと共にチョーマの糸作りを見せてもらった。

「本当はもっと育った大きなものを使うんだけど」

  ハコベさんはそう言って、バケツの中にあったチョーマを取り出し根元の方を傷付け皮を剥ぐ。意外にも使うのは表皮だけで茎の真ん中の部分は使わないそうだ。
  まな板のような平らの板にその表皮を乗せ、刃物で一番外側の表皮をこそぎ落としていくと美しい光沢のある繊維となる。

「あとは干すだけよ。簡単でしょ?」

  株自体が小さいこともあったが、オッヒョイの木を加工するよりも簡単なチョーマに驚く。
  ハコベさんは手際よく全ての表皮をこそぎ落とし、ナズナさんは繊維を集めて干してくれた。量が少ないのでこれはすぐに乾いてくれるだろう。

「ねぇ、これが乾いたらもらってもいいかしら?」

  私が二人に問いかけると、二人は「もちろん」と笑顔で答えてくれた。すっかり植物の繊維にハマった私は次の工程が楽しみで仕方がない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

恩恵沢山の奴隷紋を良かれと思ってクランの紋章にしていた俺は、突然仲間に追放されました

まったりー
ファンタジー
7つ星PTに昇格したばかりのPTで、サポート役をしていた主人公リケイルは、ある日PTリーダーであったアモスにクランに所属する全員を奴隷にしていたと告げられてしまいます。 当たらずとも遠からずな宣告をされ、説明もさせてもらえないままに追放されました。 クランの紋章として使っていた奴隷紋は、ステータスアップなどの恩恵がある以外奴隷としての扱いの出来ない物で、主人公は分かって貰えずショックを受けてしまい、仲間はもういらないと他のダンジョン都市で奴隷を買い、自分流のダンジョン探索をして暮らすお話です。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

料理がしたいので、騎士団の任命を受けます!

ハルノ
ファンタジー
過労死した主人公が、異世界に飛ばされてしまいました 。ここは天国か、地獄か。メイド長・ジェミニが丁寧にもてなしてくれたけれども、どうも味覚に違いがあるようです。異世界に飛ばされたとわかり、屋敷の主、領主の元でこの世界のマナーを学びます。 令嬢はお菓子作りを趣味とすると知り、キッチンを借りた女性。元々好きだった料理のスキルを活用して、ジェミニも領主も、料理のおいしさに目覚めました。 そのスキルを生かしたいと、いろいろなことがあってから騎士団の料理係に就職。 ひとり暮らしではなかなか作ることのなかった料理も、大人数の料理を作ることと、満足そうに食べる青年たちの姿に生きがいを感じる日々を送る話。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」を使用しています。

異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜

藤*鳳
ファンタジー
 楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...?? 神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!! 冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。

転生王女は現代知識で無双する

紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。 突然異世界に転生してしまった。 定番になった異世界転生のお話。 仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。 見た目は子供、頭脳は大人。 現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。 魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。 伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。 読んでくれる皆さまに心から感謝です。

前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!

yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。 だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。  創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。  そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。

駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ

壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。 幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。 「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」 泣きじゃくる彼女に、彼は言った。 「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」 「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」 そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。 ※2019年10月、完結しました。 ※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。

処理中です...