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麻
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糸作りはスピンドルのおかげで今まででは考えられないスピードで進んでいるらしく、途中からは繊維を裂く人、はた結びで繊維を繋げる人とみんなで分担して作業を進めた。
ある程度進めたところで一旦休憩となり、和やかに談笑している時に私はみんなに質問をした。
「他にも繊維を使う植物ってあるの」
「そうね……いろいろあるけれどアーマとか……」
アーマ?亜麻のことかしら?
「綺麗な花を咲かせる植物のこと?」
「そうね。花は綺麗だし丈夫な繊維を取れるけれど、私たちはアーマよりもチョーマのほうが馴染み深いわね」
チョーマという言葉を聞き一瞬考えたが、苧麻のことだろうか?日本では苧麻よりもカラムシという名前のほうが知名度があるかもしれない。
「チョーマならそこに生えてるわよ」
一緒に談笑をしていたハコベさんが立ち上がり、一株を刈り取る。見せてもらうとやはり葉などの特徴から苧麻のようだった。
「チョーマも糸にしてみる?水に浸けておくだけで繊維が取れるわよ?」
ハコベさんがそう言うと他の人も立ち上がり、バケツに水を入れて来てくれた。葉を落としたものを数時間水に浸けておくそうだ。今はお試しでバケツの中に小さな株が一株だけだが、これも繁殖力が強い植物らしく放っておくと密集して生えるらしいので、気に入るのであれば毎日でも採取すると女性たちは言う。
「他にもあるの?私がいた世界では『麻』という植物があって、その繊維が有名なんだけれど私がいた国では栽培が禁止されてたのよね」
「麻?……繊維が取れるのに植えてはダメなの?」
隣にいたお母様が不思議そうに聞いてきた。
「うん。花や葉に幻覚作用があってね、人体にも精神にも良くないからいろんな国で禁止されてたの」
もちろん周りの人間にそんな物に手を出す人がいなかったので、どれほどの幻覚作用があるかまでは分からない。実際に生えているところを見たこともない。けれど危険な物だと言うとみんなは同じ言葉を口にし始める。
「死の草……」
「え?」
「カレンが言っているのは私たちが『死の草』と呼んでいた物だと思うわ。昔知らずに燃料として燃やした者がいたらしくて、その煙を吸ってしまった者たちがおかしくなってしまったらしいの。私たちも茎は繊維を利用していたけれど、その場で葉を落として土に埋めて、もし万が一煙を吸う者がいたら見つけ次第死刑にすることにしていたわ」
あまりにも物騒な言葉が飛び出し驚いてしまった。
「死刑!?」
「私が生まれてからは死刑はないわよ。子どもの頃から言い聞かせられて育てられるから。死刑と言っても元々仲間だった人を殺すことなんて私たちには出来なくて、手足の自由を奪って獰猛な動物がいる森の奥に縛り付けたり埋めたり……最後の瞬間は動物に任せるの」
そう言ったナズナさんは続ける。
「だからシャイアーク国で植物採取をした時も、私たちは『死の草』は取らずに来たわ」
それを聞いてどこかホッとしてしまった。すると暗い話題を払拭するようにお母様は明るく声を上げる。
「さぁ糸作りを終わらせてしまいましょう」
朝食と昼食の間にあるおやつ時のような時間まで糸を紡ぎ、簡単な食事をとってからまた続きをする。昼食の時間が近付いた頃、作業を終えて女性陣は昼食の準備に取り掛かる。
「カレン、ハコベとナズナにチョーマの糸作りを聞いたらどう?」
昼食作りの手伝いをしようとするとお母様にそう言われた。ハコベさんとナズナさんは先程の水に浸けたチョーマを確認し「もう良さそう」と言っている。
私はお言葉に甘えることにして、ハコベさんとナズナさんと共にチョーマの糸作りを見せてもらった。
「本当はもっと育った大きなものを使うんだけど」
ハコベさんはそう言って、バケツの中にあったチョーマを取り出し根元の方を傷付け皮を剥ぐ。意外にも使うのは表皮だけで茎の真ん中の部分は使わないそうだ。
まな板のような平らの板にその表皮を乗せ、刃物で一番外側の表皮をこそぎ落としていくと美しい光沢のある繊維となる。
「あとは干すだけよ。簡単でしょ?」
株自体が小さいこともあったが、オッヒョイの木を加工するよりも簡単なチョーマに驚く。
ハコベさんは手際よく全ての表皮をこそぎ落とし、ナズナさんは繊維を集めて干してくれた。量が少ないのでこれはすぐに乾いてくれるだろう。
「ねぇ、これが乾いたらもらってもいいかしら?」
私が二人に問いかけると、二人は「もちろん」と笑顔で答えてくれた。すっかり植物の繊維にハマった私は次の工程が楽しみで仕方がない。
ある程度進めたところで一旦休憩となり、和やかに談笑している時に私はみんなに質問をした。
「他にも繊維を使う植物ってあるの」
「そうね……いろいろあるけれどアーマとか……」
アーマ?亜麻のことかしら?
「綺麗な花を咲かせる植物のこと?」
「そうね。花は綺麗だし丈夫な繊維を取れるけれど、私たちはアーマよりもチョーマのほうが馴染み深いわね」
チョーマという言葉を聞き一瞬考えたが、苧麻のことだろうか?日本では苧麻よりもカラムシという名前のほうが知名度があるかもしれない。
「チョーマならそこに生えてるわよ」
一緒に談笑をしていたハコベさんが立ち上がり、一株を刈り取る。見せてもらうとやはり葉などの特徴から苧麻のようだった。
「チョーマも糸にしてみる?水に浸けておくだけで繊維が取れるわよ?」
ハコベさんがそう言うと他の人も立ち上がり、バケツに水を入れて来てくれた。葉を落としたものを数時間水に浸けておくそうだ。今はお試しでバケツの中に小さな株が一株だけだが、これも繁殖力が強い植物らしく放っておくと密集して生えるらしいので、気に入るのであれば毎日でも採取すると女性たちは言う。
「他にもあるの?私がいた世界では『麻』という植物があって、その繊維が有名なんだけれど私がいた国では栽培が禁止されてたのよね」
「麻?……繊維が取れるのに植えてはダメなの?」
隣にいたお母様が不思議そうに聞いてきた。
「うん。花や葉に幻覚作用があってね、人体にも精神にも良くないからいろんな国で禁止されてたの」
もちろん周りの人間にそんな物に手を出す人がいなかったので、どれほどの幻覚作用があるかまでは分からない。実際に生えているところを見たこともない。けれど危険な物だと言うとみんなは同じ言葉を口にし始める。
「死の草……」
「え?」
「カレンが言っているのは私たちが『死の草』と呼んでいた物だと思うわ。昔知らずに燃料として燃やした者がいたらしくて、その煙を吸ってしまった者たちがおかしくなってしまったらしいの。私たちも茎は繊維を利用していたけれど、その場で葉を落として土に埋めて、もし万が一煙を吸う者がいたら見つけ次第死刑にすることにしていたわ」
あまりにも物騒な言葉が飛び出し驚いてしまった。
「死刑!?」
「私が生まれてからは死刑はないわよ。子どもの頃から言い聞かせられて育てられるから。死刑と言っても元々仲間だった人を殺すことなんて私たちには出来なくて、手足の自由を奪って獰猛な動物がいる森の奥に縛り付けたり埋めたり……最後の瞬間は動物に任せるの」
そう言ったナズナさんは続ける。
「だからシャイアーク国で植物採取をした時も、私たちは『死の草』は取らずに来たわ」
それを聞いてどこかホッとしてしまった。すると暗い話題を払拭するようにお母様は明るく声を上げる。
「さぁ糸作りを終わらせてしまいましょう」
朝食と昼食の間にあるおやつ時のような時間まで糸を紡ぎ、簡単な食事をとってからまた続きをする。昼食の時間が近付いた頃、作業を終えて女性陣は昼食の準備に取り掛かる。
「カレン、ハコベとナズナにチョーマの糸作りを聞いたらどう?」
昼食作りの手伝いをしようとするとお母様にそう言われた。ハコベさんとナズナさんは先程の水に浸けたチョーマを確認し「もう良さそう」と言っている。
私はお言葉に甘えることにして、ハコベさんとナズナさんと共にチョーマの糸作りを見せてもらった。
「本当はもっと育った大きなものを使うんだけど」
ハコベさんはそう言って、バケツの中にあったチョーマを取り出し根元の方を傷付け皮を剥ぐ。意外にも使うのは表皮だけで茎の真ん中の部分は使わないそうだ。
まな板のような平らの板にその表皮を乗せ、刃物で一番外側の表皮をこそぎ落としていくと美しい光沢のある繊維となる。
「あとは干すだけよ。簡単でしょ?」
株自体が小さいこともあったが、オッヒョイの木を加工するよりも簡単なチョーマに驚く。
ハコベさんは手際よく全ての表皮をこそぎ落とし、ナズナさんは繊維を集めて干してくれた。量が少ないのでこれはすぐに乾いてくれるだろう。
「ねぇ、これが乾いたらもらってもいいかしら?」
私が二人に問いかけると、二人は「もちろん」と笑顔で答えてくれた。すっかり植物の繊維にハマった私は次の工程が楽しみで仕方がない。
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