貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

文字の大きさ
上 下
51 / 366

森の手直し

しおりを挟む
  広場から充分離れた場所に森を作ったつもりでいたけれど、実際に森になっていく様を見ていると意外と距離が近かったことに気付く。どうしたものかと悩んでいるとじいやに声をかけられた。

「どうされました?何か不具合でも?」

「うん……広場から距離をとったつもりだったけど、近いなぁって思って。私ね、こんな風に想像してたの」

  じいやの他にも民が周りに集う。小石を拾い地面に『回』の字を書き外側の『ロ』と内側の『ロ』の部分に木を植え、外側と内側の間を道路として使用したら良いと思っていたと伝える。けれどこれを書いて説明しているうちにまた違う思いが沸き起こる。いつかジェイソンさんやリトールの町の人、そして国境が完成したらテックノン王国のニコライさんたちを招待したい。そんな思いに駆られる。
  だけどこの土地の不思議な力をおいそれと言うわけには行かない。なので森と共に外壁も建て、街に入るとヒーズル王国民以外は畑の方に行けないように出来ないかと呟く。

「ふむ……要塞のようにしたいのですかな?」

「うん……万が一シャイアーク国に何かされたら……って不安もあって……」

「要塞であれば、私がシャイアーク国の城にて指導していた頃の記憶がありますぞ。森の民とは全く違う建築に興味を示しまして、よく観察をしておりました」

「……それに森の回廊を組み合わせたらどうかしら?あの山からこの付近までは真っすぐの道だけど、要塞が近くなったら森の中を曲がりくねるとか……」

  山から今いる場所まで指で示す。そしてジグザグに指を動かした。

「ふーむ……そうなると私たちの移動も困難になりますぞ?まずは森を増やしてみてはいかがでしょう?森の中に道を作るのは私たちにとっては難しくありませんし」

  それもそうかと頷く。まずは森を広げるべきか。今出来ている小さな森をどうするか悩んだけれど、もし要塞を作るなら壁の中に緑が無いのは寂しいとの意見をもらい、これはこのまま残してさらに北側に新たな森を作ることに決定した。

  広場から結構離れた場所に何人も集結し作業を開始する。前回一緒に森作りをしたヒイラギと私とでチームを分けた。それぞれが少し離れた場所で作業開始だ。参加してくれた民たちは久しぶりの新鮮な土の感触や香りを喜び、汚れるのも構わず楽しそうに作業をしてくれる。
  今回は前回よりもかなりの土と苗木を採取してきたおかげで、森のベッドがたくさん出来た。苗木の中に日本で言う『ヤマイモ』とか『自然薯』と呼ばれる、森の民たちには『モリノイモ』と呼ばれるツル性のイモもあり、それも丁寧に植え付けていく。私は完成した森のベッドに、拾ってきたたくさんのドングーリを埋める。これも芽が出たら新たな森の一部になるだろう。

「あれ?そうだ。ナズナさーん!」

  当然ヒイラギチームに入っているヒイラギの奥さんのナズナさんを呼びながら近くに走り寄る。

「どうしたの?」

「あのね、香草を採取したんでしょ?」

「あ、忘れてた!」

  ナズナさんは作業に夢中ですっかり忘れていたようで目を丸くしている。

「やっぱり!それでね、この小さな森は成長するのに数日かかるから、もう出来ている森に植えたらどうかしら?お料理に使ったりするなら近いほうがいいわよね?」

「そうね。じゃあ私たちは香草を植えましょうか」

  まだ続く森作りを男性陣に任せ、私とナズナさん、他の女性陣は最初に作った森へと移動する。荷車から麻袋を降ろし中を見て驚く。確かに香草だらけだけど、圧倒的に日本のあちこちで見ることができるフキの数が多い。さらに別の麻袋を開けて度肝を抜かれた。無理やりギュウギュウに押し込まれたそれはフキの中でも大型の『秋田フキ』や『ラワンフキ』と呼ばれるあれが一株だけ、よく茎が折れなかったなと思うほど見事に押し込まれていた。

「フキばっかり!」

  驚いて声を上げる私にナズナさんは涼しい顔をして言う。

「私たちは『フゥキ』って呼んでたのよ」

「いや、美味しいけどもみんなこれが好きなの?」

  山に行けば小さなフキは取り放題だったので美樹の家では定番の山菜だった。あの独特の風味は油炒めや煮物にしても美味しい。だけどナズナさんは予想の斜め上を行く答えをくれた。

「うん。食べるのも好きだけど、葉っぱでお尻を拭くのよ。もう固いトウモロコーンの葉っぱはイヤなの!」

  女性陣を見ると全員が真顔で頷いている。確かに『フキ』の語源の一つに尻拭きから転じたと言われるものもあるけれど。さすがの美樹ですら葉っぱでお尻を拭いたことはないので、実は今私も使い心地について興味津々だ。
  フキことフゥキは地下茎を伸ばして繁殖するので、麻袋の中に根っこと地下茎を上手く丸めて入れていた。それを取り出し植えていく。そして香草も少しずつまとめて植えていく。前回の土の中に種があったのか、自然と生えている香草もあってそれを見つけると嬉しさがこみ上げる。

「……香草が上手く増えたら畑に植えられないかしら?」

「それはいい考えだわ!」

  私の提案にお料理好きの女性陣は嬉しそうにはしゃいだ。

  その後作業を続けていた私たちのところに様子を見に来たじいやはフゥキを見て「尻が!尻拭きが!」と誰よりも泣いて喜んでいた。もしかして痔なのかしら……と失礼なことを考えた私だった。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

転生無双の金属支配者《メタルマスター》

芍薬甘草湯
ファンタジー
 異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。  成長したアウルムは冒険の旅へ。  そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。 (ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)  お時間ありましたら読んでやってください。  感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。 同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269 も良かったら読んでみてくださいませ。

処理中です...