上 下
23 / 366

もう一度外へ

しおりを挟む
  じいやたちは町の人が持ってきてくれた水で手を洗い、地面にこぼれた血も洗い流す。そしてそれが終わると私に声をかけてきた。

「姫様、ではもう一度森へ参りましょうかの」

「……今日はもう森は……せめて林にしましょう……」

  万が一またベーアが出たらと考えると、どうしても二の足を踏んでしまう。だけどじいやは私の思惑に気付くことなく「では小さな林を巡りましょうか」と爽やかな笑顔で答えた。
  ここでスイレンはお勉強タイムに、タデとヒイラギはブルーノさんのお弟子さんにせがまれブルーノさんのお宅へと行ってしまった。
  町の入り口に着くとペーターさんが椅子に腰掛けていたけれど「今日は少し……疲れてしまった……」と言っていて、私と多分同じ気持ちのようだ。でも心配はしてくれ、町が見える範囲に行って来なさいと送り出してくれた。

  じいやとテクテクと街道を歩く。道端にも木は生えているし、数本から数十本単位の小さな林はいたる所にある。その林に足を踏み入れ地面を見れば、雑草に混じり芽吹いた木の芽や若い苗を見つけることができた。土ごと掘り出し、乾燥しないよう袋に入れて荷車に積む。その作業を繰り返し、ある程度集まったところで一休みする。

  まだ空いている荷台のスペースに腰掛け、じいやと何を話すでもなくぼーっと風景を眺めていると、蝶やトンボが空を飛んだり地面ではアリなどの小さな生き物が必死に生きている。

「……やっぱり生き物のいる景色はいいね。じいや、いつかこんな風にヒーズル国を豊かな場所にするね」

「はい。楽しみにしておりますよ」

  じいやは私を疑うことなくニコニコと肯定する。ふと風向きが変わった時に、一瞬馴染みのある匂いを感じた。堆肥などとはまた違う微妙な独特の臭さ。その匂いの元を探そうと風上に向かって歩くと、林の向こうに黄色い花が見える。そう菜の花だ!

「里に咲くナーですな……私たちはこの臭さが苦手でして……」

「え!?大丈夫、臭いのなんて慣れよ慣れ!これは持って帰るわ!」

「えぇ!?まさか国に植えるのでは……?」

「そのまさかだけど、そんなに苦手なら少し離れた場所に植えるわ!」

  じいやはえぇ~……と本当にゲンナリとしていたけど、私は構わず掘り出す。そしてその周りには日本のどこにでも見られるクローバーも生えていた。これは使える!と思った私はそれも根ごと採取する。クローバーも森の中には生えていなかったようでじいやに質問された。

「この草は食べられるのですか?」

「まず食べることはないわね。食べようと思えば食べられるらしいけど毒を持っているとも聞いたことがあるし。ただ、これを植えると土が豊かになるわよ」

「ほう?興味深いですな。土をですか」

  ある程度欲しい物は採取できたしあとは町に戻ろう。そして町に戻りながらじいやと会話を楽しむ。

「そういえばこの世界の人たちってどんな遊びをするの?」

「遊び……ですか?」

「うん。子どもたちを見ていると走り回ったりしているだけだし、大人たちは会話をしているだけにしか見えないんだけど」

  そうなのだ。町の中で人々を観察していると、子どもたちは所謂鬼ごっこくらいしか遊んでいるのを見ないし、大人たちも話しているだけで、何かを見て楽しんだり頭や体を使って楽しんでいるのを見なかったんだ。

「それが普通でありますが、姫様の住んでいた場所はどんなことをしていたのですか?」

「え!?他に遊びがないの!?そんなことってある!?……私がいた世界は時間と暇さえあれば遊びに趣味に全力よ?……ねぇじいや?簡単に作れて、子どもが遊べる道具を作ったら売れるかしら?」

「そんなに簡単に作れるのですか?売ってみなければ分かりませんが、私もお手伝いしますのでやってみましょうか?」

  安く道具を買って、簡単に作れて、そして楽しんでもらいつつ売れるもの……あれを作ってみようか……。自分にこんな商売人魂があったことに驚きつつも、今お金が手に入ればもっとヒーズル国に食べ物を持ち帰れると私はニヤリとしたのだった。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

役立たず王子のおいしい経営術~幸せレシピでもふもふ国家再建します!!~

延野 正行
ファンタジー
第七王子ルヴィンは王族で唯一7つのギフトを授かりながら、謙虚に過ごしていた。 ある時、国王の代わりに受けた呪いによって【料理】のギフトしか使えなくなる。 人心は離れ、国王からも見限られたルヴィンの前に現れたのは、獣人国の女王だった。 「君は今日から女王陛下《ボク》の料理番だ」 温かく迎えられるルヴィンだったが、獣人国は軍事力こそ最強でも、周辺国からは馬鹿にされるほど未開の国だった。 しかし【料理】のギフトを極めたルヴィンは、能力を使い『農業のレシピ』『牧畜のレシピ』『おもてなしのレシピ』を生み出し、獣人国を一流の国へと導いていく。 「僕には見えます。この国が大陸一の国になっていくレシピが!」 これは獣人国のちいさな料理番が、地元食材を使った料理をふるい、もふもふ女王を支え、大国へと成長させていく物語である。 旧タイトル 「役立たずと言われた王子、最強のもふもふ国家を再建する~ハズレスキル【料理】のレシピは実は万能でした~」

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

転生キッズの魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...