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もう一度外へ
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じいやたちは町の人が持ってきてくれた水で手を洗い、地面にこぼれた血も洗い流す。そしてそれが終わると私に声をかけてきた。
「姫様、ではもう一度森へ参りましょうかの」
「……今日はもう森は……せめて林にしましょう……」
万が一またベーアが出たらと考えると、どうしても二の足を踏んでしまう。だけどじいやは私の思惑に気付くことなく「では小さな林を巡りましょうか」と爽やかな笑顔で答えた。
ここでスイレンはお勉強タイムに、タデとヒイラギはブルーノさんのお弟子さんにせがまれブルーノさんのお宅へと行ってしまった。
町の入り口に着くとペーターさんが椅子に腰掛けていたけれど「今日は少し……疲れてしまった……」と言っていて、私と多分同じ気持ちのようだ。でも心配はしてくれ、町が見える範囲に行って来なさいと送り出してくれた。
じいやとテクテクと街道を歩く。道端にも木は生えているし、数本から数十本単位の小さな林はいたる所にある。その林に足を踏み入れ地面を見れば、雑草に混じり芽吹いた木の芽や若い苗を見つけることができた。土ごと掘り出し、乾燥しないよう袋に入れて荷車に積む。その作業を繰り返し、ある程度集まったところで一休みする。
まだ空いている荷台のスペースに腰掛け、じいやと何を話すでもなくぼーっと風景を眺めていると、蝶やトンボが空を飛んだり地面ではアリなどの小さな生き物が必死に生きている。
「……やっぱり生き物のいる景色はいいね。じいや、いつかこんな風にヒーズル国を豊かな場所にするね」
「はい。楽しみにしておりますよ」
じいやは私を疑うことなくニコニコと肯定する。ふと風向きが変わった時に、一瞬馴染みのある匂いを感じた。堆肥などとはまた違う微妙な独特の臭さ。その匂いの元を探そうと風上に向かって歩くと、林の向こうに黄色い花が見える。そう菜の花だ!
「里に咲くナーですな……私たちはこの臭さが苦手でして……」
「え!?大丈夫、臭いのなんて慣れよ慣れ!これは持って帰るわ!」
「えぇ!?まさか国に植えるのでは……?」
「そのまさかだけど、そんなに苦手なら少し離れた場所に植えるわ!」
じいやはえぇ~……と本当にゲンナリとしていたけど、私は構わず掘り出す。そしてその周りには日本のどこにでも見られるクローバーも生えていた。これは使える!と思った私はそれも根ごと採取する。クローバーも森の中には生えていなかったようでじいやに質問された。
「この草は食べられるのですか?」
「まず食べることはないわね。食べようと思えば食べられるらしいけど毒を持っているとも聞いたことがあるし。ただ、これを植えると土が豊かになるわよ」
「ほう?興味深いですな。土をですか」
ある程度欲しい物は採取できたしあとは町に戻ろう。そして町に戻りながらじいやと会話を楽しむ。
「そういえばこの世界の人たちってどんな遊びをするの?」
「遊び……ですか?」
「うん。子どもたちを見ていると走り回ったりしているだけだし、大人たちは会話をしているだけにしか見えないんだけど」
そうなのだ。町の中で人々を観察していると、子どもたちは所謂鬼ごっこくらいしか遊んでいるのを見ないし、大人たちも話しているだけで、何かを見て楽しんだり頭や体を使って楽しんでいるのを見なかったんだ。
「それが普通でありますが、姫様の住んでいた場所はどんなことをしていたのですか?」
「え!?他に遊びがないの!?そんなことってある!?……私がいた世界は時間と暇さえあれば遊びに趣味に全力よ?……ねぇじいや?簡単に作れて、子どもが遊べる道具を作ったら売れるかしら?」
「そんなに簡単に作れるのですか?売ってみなければ分かりませんが、私もお手伝いしますのでやってみましょうか?」
安く道具を買って、簡単に作れて、そして楽しんでもらいつつ売れるもの……あれを作ってみようか……。自分にこんな商売人魂があったことに驚きつつも、今お金が手に入ればもっとヒーズル国に食べ物を持ち帰れると私はニヤリとしたのだった。
「姫様、ではもう一度森へ参りましょうかの」
「……今日はもう森は……せめて林にしましょう……」
万が一またベーアが出たらと考えると、どうしても二の足を踏んでしまう。だけどじいやは私の思惑に気付くことなく「では小さな林を巡りましょうか」と爽やかな笑顔で答えた。
ここでスイレンはお勉強タイムに、タデとヒイラギはブルーノさんのお弟子さんにせがまれブルーノさんのお宅へと行ってしまった。
町の入り口に着くとペーターさんが椅子に腰掛けていたけれど「今日は少し……疲れてしまった……」と言っていて、私と多分同じ気持ちのようだ。でも心配はしてくれ、町が見える範囲に行って来なさいと送り出してくれた。
じいやとテクテクと街道を歩く。道端にも木は生えているし、数本から数十本単位の小さな林はいたる所にある。その林に足を踏み入れ地面を見れば、雑草に混じり芽吹いた木の芽や若い苗を見つけることができた。土ごと掘り出し、乾燥しないよう袋に入れて荷車に積む。その作業を繰り返し、ある程度集まったところで一休みする。
まだ空いている荷台のスペースに腰掛け、じいやと何を話すでもなくぼーっと風景を眺めていると、蝶やトンボが空を飛んだり地面ではアリなどの小さな生き物が必死に生きている。
「……やっぱり生き物のいる景色はいいね。じいや、いつかこんな風にヒーズル国を豊かな場所にするね」
「はい。楽しみにしておりますよ」
じいやは私を疑うことなくニコニコと肯定する。ふと風向きが変わった時に、一瞬馴染みのある匂いを感じた。堆肥などとはまた違う微妙な独特の臭さ。その匂いの元を探そうと風上に向かって歩くと、林の向こうに黄色い花が見える。そう菜の花だ!
「里に咲くナーですな……私たちはこの臭さが苦手でして……」
「え!?大丈夫、臭いのなんて慣れよ慣れ!これは持って帰るわ!」
「えぇ!?まさか国に植えるのでは……?」
「そのまさかだけど、そんなに苦手なら少し離れた場所に植えるわ!」
じいやはえぇ~……と本当にゲンナリとしていたけど、私は構わず掘り出す。そしてその周りには日本のどこにでも見られるクローバーも生えていた。これは使える!と思った私はそれも根ごと採取する。クローバーも森の中には生えていなかったようでじいやに質問された。
「この草は食べられるのですか?」
「まず食べることはないわね。食べようと思えば食べられるらしいけど毒を持っているとも聞いたことがあるし。ただ、これを植えると土が豊かになるわよ」
「ほう?興味深いですな。土をですか」
ある程度欲しい物は採取できたしあとは町に戻ろう。そして町に戻りながらじいやと会話を楽しむ。
「そういえばこの世界の人たちってどんな遊びをするの?」
「遊び……ですか?」
「うん。子どもたちを見ていると走り回ったりしているだけだし、大人たちは会話をしているだけにしか見えないんだけど」
そうなのだ。町の中で人々を観察していると、子どもたちは所謂鬼ごっこくらいしか遊んでいるのを見ないし、大人たちも話しているだけで、何かを見て楽しんだり頭や体を使って楽しんでいるのを見なかったんだ。
「それが普通でありますが、姫様の住んでいた場所はどんなことをしていたのですか?」
「え!?他に遊びがないの!?そんなことってある!?……私がいた世界は時間と暇さえあれば遊びに趣味に全力よ?……ねぇじいや?簡単に作れて、子どもが遊べる道具を作ったら売れるかしら?」
「そんなに簡単に作れるのですか?売ってみなければ分かりませんが、私もお手伝いしますのでやってみましょうか?」
安く道具を買って、簡単に作れて、そして楽しんでもらいつつ売れるもの……あれを作ってみようか……。自分にこんな商売人魂があったことに驚きつつも、今お金が手に入ればもっとヒーズル国に食べ物を持ち帰れると私はニヤリとしたのだった。
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