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解体ショー
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街道を戻り町の入り口が見えてくると、入り口には町の人が溢れかえっていた。
「戻って来たぞ!」
誰かがそう叫べば、心配してくれていた町の人たちが一斉にこちらに走り寄って来た。
「大丈夫でし……えぇ!?」
先頭を走っていた青年が驚き立ち止まる。つられて他の人も立ち止まり、なんだどうしたと軽く騒ぎになったけど荷車に乗せられた熊、もといベーアを見て全員が口を開けて驚いている。
「いやぁそこそこ良い大きさですな。これから解体をしますので、道具をお借りしてもよろしいですかな?まさかベーアを狩るとは思わず持ってきていないのですよ」
終始ご機嫌のじいやに町の人は口を開けて頷くだけだ。そして広場で解体をやろうということになり、私たちは民族大移動の如く広場へと向かった。そこにはブルーノさんに連れられたスイレンも来ていて、私はとにかく心配された。
「カレン!大丈夫だったの!?怪我はない!?危険な獣が出たんでしょ!?」
「……何がなんだか分からないうちにじいやがアッサリ倒したの」
「……え?」
スイレンも理解できないらしく半笑いだ。
「ベンジャミン様は『稀代の森の民』と呼ばれた御方だ。力も肝の座り方も人とは違う。……はずだったのだが、モクレンもまた同じような男でなぁ。モクレンは『類まれな森の民』と呼ばれていた」
タデの言葉に私とスイレンは目を丸くして驚いた。私たちにとっては普通の父親だからだ。にわかには信じられないけれど、いつかお父様の狩りの姿を見れるかしら?
「血抜きはして参りましたので、今回は吊るさずこのまま寝かせて解体を始めます」
着々と解体の準備を進めていたじいやはみんなに聞こえるように声を張り上げた。スイレンは解体を知らないので、何が起きるのかと不安そうにしている。
「スイレン。私たちは命をいただき、それを食べ生きているの。昨日この町でいただいたお肉があったでしょう?あれも元はこのような獣なの。今からこの獣を食べられる肉にするのよ。少し気持ち悪くなるかもしれないけれど、命をいただくとはこういうことだと分かってほしいから、できれば目を逸らさずにね」
そうスイレンに言って手を握った。スイレンは私の手を握り返し「分かった」と呟いた。
「では、森の恵みに感謝して」
じいやは胸の前で手と手を合わせ祈る。そして借りた道具を使い腹を割く。まずは腹から毛皮を剝いでいくようだ。
私は生前、近くに猟師がいたので解体は何回か見たことがある。だけどスイレンにはやはり刺激が強いようで嘔吐いて涙目になりながらも必死にその作業を見ていた。
やはり森の民は解体に手慣れているのか、じいやが何も言わなくてもタデとヒイラギは補助しつつ簡単に皮を剥ぎ終わった。町の人たちも口々に「素晴らしい」「無駄がない」と褒め称える。この先の工程を知っている私は先にスイレンに告げる。
「スイレン。今から内臓を取り出すわ。見た目もすごいことになるし、臭いも強くなると思う。どうしても無理だったら私にしがみついて見ないようにね」
「……ううん、僕だって森の民の子孫だ。頑張って見る」
スイレンの意外な答えに驚きつつも解体を見る。皮と内臓の間にある脂肪の層に切れ目を入れると内臓が露わになる。スイレンの体が強ばるのが分かり、町の小さな子は泣き出す子もいた。てきぱきと内臓を取り出す様は、私が見てきたどの猟師よりも見事な手さばきだった。
この世界でも熊の胆嚢は貴重な物らしく、大きなそれを取り出した時は歓声が上がった。関節にナイフを入れそれぞれの部位を外すのも簡単にやってのけるが、あれは熟練の技のおかげだろう。
「ふぅ~!こんなものですかな!」
じいやは腕で額の汗を拭いながら立ち上がる。町の人たちは「こんなにいい毛皮はなかなか手に入らないぞ」と大興奮だ。そして肉屋と思われる人が現れ、肉を細かく切り分けて全部の家に届くようにするとお店に肉を持って走って行った。その人を見届けようと振り返るじいやと目が合う。
「カカカカ、カレン様!?スイレン様!?見ておられたのですか!?」
すっかり私たちの存在を忘れていたじいやは叫び、その声でタデもヒイラギも我に返ったようで「まだ見せるのは早かったんじゃ……」と焦っている。
「私は見慣れているから平気。スイレン、大丈夫?」
「僕、ちゃんと見た。いつか僕も出来るように。じいや、タデ、ヒイラギ。今度……狩りを教えてね」
そう強がって言ってはいるけど、顔面蒼白で涙目のスイレンに私たちは苦笑いしたのだった。
「戻って来たぞ!」
誰かがそう叫べば、心配してくれていた町の人たちが一斉にこちらに走り寄って来た。
「大丈夫でし……えぇ!?」
先頭を走っていた青年が驚き立ち止まる。つられて他の人も立ち止まり、なんだどうしたと軽く騒ぎになったけど荷車に乗せられた熊、もといベーアを見て全員が口を開けて驚いている。
「いやぁそこそこ良い大きさですな。これから解体をしますので、道具をお借りしてもよろしいですかな?まさかベーアを狩るとは思わず持ってきていないのですよ」
終始ご機嫌のじいやに町の人は口を開けて頷くだけだ。そして広場で解体をやろうということになり、私たちは民族大移動の如く広場へと向かった。そこにはブルーノさんに連れられたスイレンも来ていて、私はとにかく心配された。
「カレン!大丈夫だったの!?怪我はない!?危険な獣が出たんでしょ!?」
「……何がなんだか分からないうちにじいやがアッサリ倒したの」
「……え?」
スイレンも理解できないらしく半笑いだ。
「ベンジャミン様は『稀代の森の民』と呼ばれた御方だ。力も肝の座り方も人とは違う。……はずだったのだが、モクレンもまた同じような男でなぁ。モクレンは『類まれな森の民』と呼ばれていた」
タデの言葉に私とスイレンは目を丸くして驚いた。私たちにとっては普通の父親だからだ。にわかには信じられないけれど、いつかお父様の狩りの姿を見れるかしら?
「血抜きはして参りましたので、今回は吊るさずこのまま寝かせて解体を始めます」
着々と解体の準備を進めていたじいやはみんなに聞こえるように声を張り上げた。スイレンは解体を知らないので、何が起きるのかと不安そうにしている。
「スイレン。私たちは命をいただき、それを食べ生きているの。昨日この町でいただいたお肉があったでしょう?あれも元はこのような獣なの。今からこの獣を食べられる肉にするのよ。少し気持ち悪くなるかもしれないけれど、命をいただくとはこういうことだと分かってほしいから、できれば目を逸らさずにね」
そうスイレンに言って手を握った。スイレンは私の手を握り返し「分かった」と呟いた。
「では、森の恵みに感謝して」
じいやは胸の前で手と手を合わせ祈る。そして借りた道具を使い腹を割く。まずは腹から毛皮を剝いでいくようだ。
私は生前、近くに猟師がいたので解体は何回か見たことがある。だけどスイレンにはやはり刺激が強いようで嘔吐いて涙目になりながらも必死にその作業を見ていた。
やはり森の民は解体に手慣れているのか、じいやが何も言わなくてもタデとヒイラギは補助しつつ簡単に皮を剥ぎ終わった。町の人たちも口々に「素晴らしい」「無駄がない」と褒め称える。この先の工程を知っている私は先にスイレンに告げる。
「スイレン。今から内臓を取り出すわ。見た目もすごいことになるし、臭いも強くなると思う。どうしても無理だったら私にしがみついて見ないようにね」
「……ううん、僕だって森の民の子孫だ。頑張って見る」
スイレンの意外な答えに驚きつつも解体を見る。皮と内臓の間にある脂肪の層に切れ目を入れると内臓が露わになる。スイレンの体が強ばるのが分かり、町の小さな子は泣き出す子もいた。てきぱきと内臓を取り出す様は、私が見てきたどの猟師よりも見事な手さばきだった。
この世界でも熊の胆嚢は貴重な物らしく、大きなそれを取り出した時は歓声が上がった。関節にナイフを入れそれぞれの部位を外すのも簡単にやってのけるが、あれは熟練の技のおかげだろう。
「ふぅ~!こんなものですかな!」
じいやは腕で額の汗を拭いながら立ち上がる。町の人たちは「こんなにいい毛皮はなかなか手に入らないぞ」と大興奮だ。そして肉屋と思われる人が現れ、肉を細かく切り分けて全部の家に届くようにするとお店に肉を持って走って行った。その人を見届けようと振り返るじいやと目が合う。
「カカカカ、カレン様!?スイレン様!?見ておられたのですか!?」
すっかり私たちの存在を忘れていたじいやは叫び、その声でタデもヒイラギも我に返ったようで「まだ見せるのは早かったんじゃ……」と焦っている。
「私は見慣れているから平気。スイレン、大丈夫?」
「僕、ちゃんと見た。いつか僕も出来るように。じいや、タデ、ヒイラギ。今度……狩りを教えてね」
そう強がって言ってはいるけど、顔面蒼白で涙目のスイレンに私たちは苦笑いしたのだった。
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