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第二章 前途多難な学園生活
2-10. 幼馴染
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思えば、最初からレヴィの言動はどこかおかしかった。
ナディアを伴って入室したユウリが、ユージンに『いつの間にゲストなぞ呼べるほど偉くなった』という辛辣な嫌味とともに睨まれているのを見て、レヴィはあんぐりを口を開け、驚愕の表情を浮かべた。
そのらしからぬ反応に、ロッシからいつものことだろうと言われ『カップが足りなくなるかと思いまして』とよく分からないことを言いながら、すぐにキッチンへと引き上げていく。
ユウリが今にもユージンに噛みつきそうなナディアを抑えていると、がしゃんとトレイごと揺らしてお茶を零したレヴィが、小さく舌打ちをしたように聞こえた。
あの、どんなに理不尽に働かされてもいつも穏やかで常に微笑んでいるレヴィが、舌打ちを。
ユウリは、ユージンが僅かに目を見開いたのを初めて見た。ヴァネッサですら『執務室舌打ち禁止令』のことも忘れて、青ざめているように見える。
人数分の紅茶を置いて、レヴィはもう一度キッチンへ引っ込んだ。
「みなさん、どうしたんですか?」
静まり返ってしまった執務室に、ナディアの無邪気な声が響く。
初めに持ち直したのは、流石というかユージンだった。
「それで、何故お前はここへ入れた」
「それは、リュカさんが」
代わりに答えようとしたユウリはジロリと睨まれて、リュカに助けを求めるも、彼はキッチンの方を見たまま硬直している。
そんな微妙な空気を意にも介さず、ナディアは、彼女の出来る最大級の笑顔をカウンシルメンバーに向けて、優雅にお辞儀した。
「上級Aクラス所属のナディア= ベランジェと申します。本日はリュカ様にお招き頂き、ユウリの大親友として、こうして彼女がいつもお世話になっている皆様にお会いできて光栄ですわ」
「ほう」
何だか色々間違っているが、ユージンの反応を見るに、ユウリは彼からの拳骨は免れたらしい。
「本当でしたら、同郷の友人にお願いすればよかったのですが、彼はとても忙しそうで」
「え、ナディア、カウンシル塔に知り合いが居たの?」
「ええ。レヴィ様は私の幼馴染なの」
「ああ、レヴィさんが」
(ん?)
「ええええええぇぇぇっぇぇええええ!? 私、そんなことひとっことも聞いてないよ!?!?」
驚きの声を上げるユウリに、ナディアは可愛らしく首を傾げて微笑んでいて、ずっと長椅子で寝ていたヨルンまで起き上がって、皆彼女に視線を集めた。
「うふふふ。誰かさんから泣いて口止めされてしまって」
「俺、泣いてないよね」
ボソリと低い呟きが聞こえて、ユウリはその声の主を見つめてあわあわしている。
「レヴィさん、今、俺って」
「おや、ユウリさん、何か聞こえましたか?」
キッチンからこぼしたお茶の替えを持ってきたレヴィに、笑っていない瞳で微笑まれて、ユウリは再度固まった。
「まぁレヴィ様、ユウリを怖がらせないでちょうだい」
「君、絶対来ないって約束したのはなんだったの」
「ユウリの危機に、そんな約束守っていられるわけないでしょ」
「はぁぁぁ最悪」
(レ、レヴィさんのキャラが崩壊してる……)
多分、誰もがユウリと同じことを思っているのではないだろうか。皆言葉を発しない。
レヴィはトレイからカップをとり、それを一気に呷ると、ふうと一息ついた。
「申し訳ありませんでした。 僕からきちんと説明します」
いつもの調子に戻ったレヴィによると、ナディアはマルセル王宮騎士団長の娘で、彼と一歳違いという年の近さも合間って、幼い頃は姉弟のように育った幼馴染なのだという。
あまりに一緒に育ちすぎて、今でこそナディアはレヴィに敬称をつけているが、今更態度や接し方は変えられないらしい。
あまり素を見られたくないレヴィは、ナディアからユウリと友達なったと聞かされて、絶対に執務室には来てくれるなと念を押していたという。
「それを、こんなにも早く破られるとは思いませんでしたけど」
「ま、まぁ良かったんじゃないの。私もレヴィ様の意外な一面を見れて……ひっ」
ヴァネッサは途中で喉を引きつらせて、愛想笑いをしながら、ソファに腰掛けた。ユウリが見た、あの笑っていない瞳で黙らせられたのだろう。
ヨルンが、へえ、そんな顔も出来たんだ、と笑っている。
「僕の言い訳はこれで終わりです。皆さん、ナディアも、お茶が冷めないうちにどうぞ」
「そうだね。じゃ、ナディアちゃんは俺の隣」
「絶対に嫌ですわ、リュカ様」
「……おい、あまり寄るな」
レヴィの目は相変わらず笑っていないが、ロッシの隣に落ち着いたナディアを見て、友人として彼女がカウンシルの皆に受け入れられたことに、ユウリはほっとした。
安心してヨルンの隣に座ってカップに手を伸ばした瞬間、彼女の脳天に衝撃が走る。
涙目で見上げたユウリに、もう一度拳骨を落として、ユージンは冷たく言い放った。
「お前は今日の課題があるだろう、始めるぞ」
「はい……」
ユウリの可愛らしい頭をなんだと思ってるの!と暴れるナディアを、レヴィは疲れ切った表情で羽交い締めにしていた。
ナディアを伴って入室したユウリが、ユージンに『いつの間にゲストなぞ呼べるほど偉くなった』という辛辣な嫌味とともに睨まれているのを見て、レヴィはあんぐりを口を開け、驚愕の表情を浮かべた。
そのらしからぬ反応に、ロッシからいつものことだろうと言われ『カップが足りなくなるかと思いまして』とよく分からないことを言いながら、すぐにキッチンへと引き上げていく。
ユウリが今にもユージンに噛みつきそうなナディアを抑えていると、がしゃんとトレイごと揺らしてお茶を零したレヴィが、小さく舌打ちをしたように聞こえた。
あの、どんなに理不尽に働かされてもいつも穏やかで常に微笑んでいるレヴィが、舌打ちを。
ユウリは、ユージンが僅かに目を見開いたのを初めて見た。ヴァネッサですら『執務室舌打ち禁止令』のことも忘れて、青ざめているように見える。
人数分の紅茶を置いて、レヴィはもう一度キッチンへ引っ込んだ。
「みなさん、どうしたんですか?」
静まり返ってしまった執務室に、ナディアの無邪気な声が響く。
初めに持ち直したのは、流石というかユージンだった。
「それで、何故お前はここへ入れた」
「それは、リュカさんが」
代わりに答えようとしたユウリはジロリと睨まれて、リュカに助けを求めるも、彼はキッチンの方を見たまま硬直している。
そんな微妙な空気を意にも介さず、ナディアは、彼女の出来る最大級の笑顔をカウンシルメンバーに向けて、優雅にお辞儀した。
「上級Aクラス所属のナディア= ベランジェと申します。本日はリュカ様にお招き頂き、ユウリの大親友として、こうして彼女がいつもお世話になっている皆様にお会いできて光栄ですわ」
「ほう」
何だか色々間違っているが、ユージンの反応を見るに、ユウリは彼からの拳骨は免れたらしい。
「本当でしたら、同郷の友人にお願いすればよかったのですが、彼はとても忙しそうで」
「え、ナディア、カウンシル塔に知り合いが居たの?」
「ええ。レヴィ様は私の幼馴染なの」
「ああ、レヴィさんが」
(ん?)
「ええええええぇぇぇっぇぇええええ!? 私、そんなことひとっことも聞いてないよ!?!?」
驚きの声を上げるユウリに、ナディアは可愛らしく首を傾げて微笑んでいて、ずっと長椅子で寝ていたヨルンまで起き上がって、皆彼女に視線を集めた。
「うふふふ。誰かさんから泣いて口止めされてしまって」
「俺、泣いてないよね」
ボソリと低い呟きが聞こえて、ユウリはその声の主を見つめてあわあわしている。
「レヴィさん、今、俺って」
「おや、ユウリさん、何か聞こえましたか?」
キッチンからこぼしたお茶の替えを持ってきたレヴィに、笑っていない瞳で微笑まれて、ユウリは再度固まった。
「まぁレヴィ様、ユウリを怖がらせないでちょうだい」
「君、絶対来ないって約束したのはなんだったの」
「ユウリの危機に、そんな約束守っていられるわけないでしょ」
「はぁぁぁ最悪」
(レ、レヴィさんのキャラが崩壊してる……)
多分、誰もがユウリと同じことを思っているのではないだろうか。皆言葉を発しない。
レヴィはトレイからカップをとり、それを一気に呷ると、ふうと一息ついた。
「申し訳ありませんでした。 僕からきちんと説明します」
いつもの調子に戻ったレヴィによると、ナディアはマルセル王宮騎士団長の娘で、彼と一歳違いという年の近さも合間って、幼い頃は姉弟のように育った幼馴染なのだという。
あまりに一緒に育ちすぎて、今でこそナディアはレヴィに敬称をつけているが、今更態度や接し方は変えられないらしい。
あまり素を見られたくないレヴィは、ナディアからユウリと友達なったと聞かされて、絶対に執務室には来てくれるなと念を押していたという。
「それを、こんなにも早く破られるとは思いませんでしたけど」
「ま、まぁ良かったんじゃないの。私もレヴィ様の意外な一面を見れて……ひっ」
ヴァネッサは途中で喉を引きつらせて、愛想笑いをしながら、ソファに腰掛けた。ユウリが見た、あの笑っていない瞳で黙らせられたのだろう。
ヨルンが、へえ、そんな顔も出来たんだ、と笑っている。
「僕の言い訳はこれで終わりです。皆さん、ナディアも、お茶が冷めないうちにどうぞ」
「そうだね。じゃ、ナディアちゃんは俺の隣」
「絶対に嫌ですわ、リュカ様」
「……おい、あまり寄るな」
レヴィの目は相変わらず笑っていないが、ロッシの隣に落ち着いたナディアを見て、友人として彼女がカウンシルの皆に受け入れられたことに、ユウリはほっとした。
安心してヨルンの隣に座ってカップに手を伸ばした瞬間、彼女の脳天に衝撃が走る。
涙目で見上げたユウリに、もう一度拳骨を落として、ユージンは冷たく言い放った。
「お前は今日の課題があるだろう、始めるぞ」
「はい……」
ユウリの可愛らしい頭をなんだと思ってるの!と暴れるナディアを、レヴィは疲れ切った表情で羽交い締めにしていた。
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