上 下
5 / 114
第一章 学園

1-4. カウンシル執務室での尋問②

しおりを挟む
 スミレ色の優しい瞳が、ユウリの前に香り立つティーカップを置きながら覗き込んできて、彼女は何故か頰が熱くなるのを感じて焦る。

「マルセル小国第一王子レヴィ=ブリュールと申します。カウンシルの秘書をしています」

 レヴィが軽く会釈すると、淡藤色の長髪を気怠そうにかき上げながら、細身の男が続ける。

「パリア王国第一皇子リュカ= メイユール。面倒くさーーーーーい書記をやらされてるんだよねぇ」
「ほぼ自動筆記魔法を使ってサボってる奴が、何をいう」
「あのねー、魔力は食うんだよ、自動でも」

 突っ込まれて、片手をひらひらさせながらリュカは言い返す。
 くすり、と笑みを漏らした途端に、紺と濃緑の二対の瞳から冷たい視線を浴びせられ、ユウリは縮こまるようにして二人を見上げた。

「ノーラン王国第一王子ロッシ=スチュアート。会計だ」
「ユージン= バストホルム、ガイア王国第二王子、学園カウンシル副会長」

 銀縁の眼鏡を押し上げながら、無感情な声音で言い放ったロッシに続き、機械的に付け加えたユージンに、ユウリは氷点下に放り出された気分になった。この二人のポーカーフェイスと鋭い眼光は、正直いって苦手だ。

(あれ、ということは)

 長椅子に足を投げ出して座り、大きな欠伸をしている人物。無造作な銀の髪の下にみえる、陶器の様な肌と整った顔立ち。しかし、その銀の双眸は常に眠たそうだ。

「彼は、フィニーランド第一王子ヨルン = ブルムクヴィスト。学園カウンシル会長です」

 レヴィの紹介に、ユウリは多少なりとも驚きを隠せない。
 最強の魔力と最高の頭脳を持つ者のみが務められる、超特生の頂点とも言えるカウンシル会長職。

(もっと怖い感じの人かと思ってた)

 それこそユージンの様な人物像を勝手に想像していたユウリは、ヨルンの醸し出す穏やかな雰囲気に飲み込まれそうになる。
 凝視するユウリの気付いて緩い笑顔を向けるヨルンに、彼女ははっと居住まいを正した。
 今自分が、各国の王子達及びに学園の最高執務役員達に囲まれているのだ、という事実を理解して、声が強張る。

「ユウリ= ティエンルと申します。トラン村から来ました」
「トラン? あの、辺境の? それにしては、珍しい瞳の色だよね」

 リュカのコメントに、曖昧に笑って返す。嘘は言っていない。

 瞳と髪の色は、地域によってある一定の法則を持っている。
 王国で言えば、ガイアは紺、パリアは紫、ノーランは深緑、そしてフィニーランドは銀の色を持つものがほとんどである。その他、小国にも一般的な色というものが存在し、ユウリの育ったトラン村も例外なく茶色の瞳が共通だった。
 だが、ユウリの瞳と髪は、黒檀を思わせる艶やかな漆黒だ。

「よく、言われます。正確には、幼少の時トラン村の村長に拾われたので、出身は不明なんです。この苗字も、名前しかわからなかった私に、村長がご自分の名前をつけてくれて」

 四年前、トラン村のはずれで泣いていたユウリを見つけたのは、村の青年だったのだが、その容姿から警戒されたのか、半刻後その村の村長が警備団を伴って現れた。
 彼は、泣きじゃくって言葉もままならない彼女を連れ帰り、美味しい食事と暖かいベッドを用意してくれ、そのまま今日までユウリを自分の子供のように育ててくれたのだ。
 学園入学に関しても、進学を反対する村人達を説得して、ユウリの背中を押してくれたのは、彼だけだった。

 正直なところ、彼女は保護以前のことをあまり思い出せない。
 両親を喪くしたという哀しみと、独りぼっちになってしまったという絶望は、今もなお彼女を胸を苛んでいるが、トラン村まで辿り着いたのかは、全くもって解らないのである。

「それは、大変でしたね」

 五人の王子達とは違う、柔らかな、ともすれば緩慢な声に、そこにいた全員が振り向いた。
 いつの間にか、執務室入り口に佇む人物。

「学園長!」

 五人がほぼ同時に発した言葉に、この学園の最高権力者は、深く被ったフードの下から柔らかな微笑みを返すのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼女からスタートした侯爵令嬢は騎士団参謀に溺愛される~神獣は私を選んだようです~

桜もふ
恋愛
家族を事故で亡くしたルルナ・エメルロ侯爵令嬢は男爵家である叔父家族に引き取られたが、何をするにも平手打ちやムチ打ち、物を投げつけられる暴力・暴言の【虐待】だ。衣服も与えて貰えず、食事は食べ残しの少ないスープと一欠片のパンだけだった。私の味方はお兄様の従魔であった女神様の眷属の【マロン】だけだが、そのマロンは私の従魔に。 そして5歳になり、スキル鑑定でゴミ以下のスキルだと判断された私は王宮の広間で大勢の貴族連中に笑われ罵倒の嵐の中、男爵家の叔父夫婦に【侯爵家】を乗っ取られ私は、縁切りされ平民へと堕とされた。 頭空っぽアホ第2王子には婚約破棄された挙句に、国王に【無一文】で国外追放を命じられ、放り出された後、頭を打った衝撃で前世(地球)の記憶が蘇り【賢者】【草集め】【特殊想像生成】のスキルを使い国境を目指すが、ある日たどり着いた街で、優しい人達に出会い。ギルマスの養女になり、私が3人組に誘拐された時に神獣のスオウに再開することに! そして、今日も周りのみんなから溺愛されながら、日銭を稼ぐ為に頑張ります! エメルロ一族には重大な秘密があり……。 そして、隣国の騎士団参謀(元ローバル国の第1王子)との甘々な恋愛は至福のひとときなのです。ギルマス(パパ)に邪魔されながら楽しい日々を過ごします。

どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい

海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。 その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。 赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。 だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。 私のHPは限界です!! なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。 しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ! でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!! そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような? ♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟ 皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います! この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m

どうせ去るなら爪痕を。

ぽんぽこ狸
恋愛
 実家が没落してしまい、婚約者の屋敷で生活の面倒を見てもらっているエミーリエは、日の当たらない角部屋から義妹に当たる無邪気な少女ロッテを見つめていた。  彼女は婚約者エトヴィンの歳の離れた兄妹で、末っ子の彼女は家族から溺愛されていた。  ロッテが自信を持てるようにと、ロッテ以上の技術を持っているものをエミーリエは禁止されている。なので彼女が興味のない仕事だけに精を出す日々が続いている。  そしていつか結婚して自分が子供を持つ日を夢に見ていた。  跡継ぎを産むことが出来れば、自分もきっとこの家の一員として尊重してもらえる。そう考えていた。  しかし儚くその夢は崩れて、婚約破棄を言い渡され、愛人としてならばこの屋敷にいることだけは許してやるとエトヴィンに宣言されてしまう。  希望が持てなくなったエミーリエは、この場所を去ることを決意するが長年、いろいろなものを奪われてきたからにはその爪痕を残して去ろうと考えたのだった。

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

どくりんご
恋愛
 公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。  ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?  悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?  王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!  でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!  強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。 HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*) 恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)

あなたが運命の相手、なのですか?

gacchi
恋愛
運命の相手以外の異性は身内であっても弾いてしまう。そんな体質をもった『運命の乙女』と呼ばれる公爵令嬢のアンジェ。運命の乙女の相手は賢王になると言われ、その言い伝えのせいで第二王子につきまとわられ迷惑している。そんな時に第二王子の側近の侯爵子息ジョーゼルが訪ねてきた。「断るにしてももう少し何とかできないだろうか?」そんなことを言うくらいならジョーゼル様が第二王子を何とかしてほしいのですけど?

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

【完結】婚約者と幼馴染があまりにも仲良しなので喜んで身を引きます。

天歌
恋愛
「あーーん!ダンテェ!ちょっと聞いてよっ!」 甘えた声でそう言いながら来たかと思えば、私の婚約者ダンテに寄り添うこの女性は、ダンテの幼馴染アリエラ様。 「ちょ、ちょっとアリエラ…。シャティアが見ているぞ」 ダンテはアリエラ様を軽く手で制止しつつも、私の方をチラチラと見ながら満更でも無いようだ。 「あ、シャティア様もいたんですね〜。そんな事よりもダンテッ…あのね…」 この距離で私が見えなければ医者を全力でお勧めしたい。 そして完全に2人の世界に入っていく婚約者とその幼馴染…。 いつもこうなのだ。 いつも私がダンテと過ごしていると必ずと言って良いほどアリエラ様が現れ2人の世界へ旅立たれる。 私も想い合う2人を引き離すような悪女ではありませんよ? 喜んで、身を引かせていただきます! 短編予定です。 設定緩いかもしれません。お許しください。 感想欄、返す自信が無く閉じています

婚約破棄なんて貴方に言われる筋合いがないっ!

さこの
恋愛
何をしても大体は出来る。 努力するけど見苦しい姿は見せません。 それが可愛げがないと学園で開かれたパーティーで婚約を破棄されるレア ボンクラ婚約者に付き合うのも面倒だから、承知します!

処理中です...