真夜中の片隅で、ずっと君の声を探していた

風久 晶

文字の大きさ
上 下
33 / 43
花ひらく星月夜

33.花ひらく星月夜⑦

しおりを挟む
 優が覆い被さってくると、急に緊張が体に走って、唇をぎゅっと引き結んだ。
 腰の下にクッションをあてがわれ、大きく脚を開いて持ち上げられて、俺は思わず腕で顔を覆ってしまう。
 普段はすることのない姿勢になって、あられもない姿を晒している。
 羞恥が身体を突き抜けるように走って、どんな顔をして良いのか分からない。
「葉司……」
 優の昂りの熱さが後孔にぴたりとあてがわれて、息が止まりそうなのを、一生懸命に呼吸を繰り返した。
 優の体もいつもよりひどく熱くて、優に触れられているところから火傷しそうな感覚になる。
「痛かったら止めるから――」
「大……丈夫」
 ぎこちなく微笑うと、優の温かい手が俺の下腹を撫でた。
「葉司が、大好きだよ」
 顔を覆っていた腕をそっと取られて、手を優しく握られた。
「俺も……優が――」
 大好き、と言いたかったけれど、声が震えて言葉に詰まってしまった。
「うん、わかってる」
 優はひどく優しい瞳をしていて、顔を寄せるとキスを落とした。
 その首筋をかき抱いて、唇と唇を何度も重ねて、優の手で昂りを弄られている間に、気持ち良さが高まって、緊張がほどけていく。
 優はその瞬間に、グッと腰を押し進めてきた。
「あ、あっ」
 内股を掌でぐいと押し広げられて、後孔に熱い先端がめり込んで来るのがわかった。
「ゆ、優……」
 本能で逃げようとする腰をつかまれて、指で昂りを上下に扱かれて、でも後孔に入ってくる優は止まらなくて、感覚はバラバラになりそうだった。
 ひきつれるように、押し込まれると苦しくて、なのに優の切羽詰まった顔を見ると、俺の身体がそうさせているのだと感じて、電流が走るように痺れていく。
「う……うっ」
 抑えたいのに、少しずつ侵入されるたびに、声が漏れてしまう。
「ちょっとずつ……入って、るよ……」
 吐息のように囁かれる言葉が、やんわりと心に広がって、体が震える。
 優の苦しげに寄せられた眉、速まった呼吸の音、下肢で感じる優の熱さのすべてが、俺と繋がるためで、俺の体のせいなのだと思うと、ジーンとした痺れが背筋を走っていった。
「う、ん……っ」
 より受け入れるために脚を広げようとしたけど、強張った脚は動かなくて、そこへ優がぐっと入ってきて、思わず咽喉が仰け反った。
「あ、あ、あ……」
 俺はただ溺れるみたいになって、優の肩にぎゅっとしがみついた。
「息して、葉司」
「は――あぅっ」
 はくはくと唇を動かすだけになって、優を受け入れたいのに、初めての衝撃に身体がどこか拒んでいる。
反対の感覚に、バラバラになって引き裂かれそうになる。
「葉司、好きだよ……」
 優は途中まで進めたままで、覆いかぶさると、そっと唇を重ねてきた。
 やわやわと舌で唇を舐めとられ、上顎を舐められると、ぞくりと快感が走った。
「う……んんッ」
「半分まで――入ったよ」
 耳元で優しい声で囁かれ、俺は肩ではあはあと息をしながら固まった。
「は……んぶん……」
 遠くなる意識で見上げると、優は耐えるように唇を引き結んでいて、上気した頬を染めていた。
「今日は――ここで、止めよっか……」
「大……丈夫、大丈夫、優……!」
「そんな泣きそうな顔で言われたら、可愛くて――どうして良いかわかんないよ……」
 貪るようにキスされて、優の昂りが俺の中でビクッと震えている。
 優は少しずつ腰を引いて抜いていった。
「あっ、大丈夫……だから……っ」
「んッ!」
 抜きかけていた優が、ピタリと止まって、ビクビクッと腰を震わせた。
 俺の肩にがくりと頭をもたせかけた。
「ちょっと……ちょっと、だけ……動いて良い……?」
 掠れた声がセクシーで、追い詰められたような濡れた瞳に目を奪われて、俺は小さく頷いた。
「あっ」
 優は急に俺の腰を両手でつかむと、浅いところを突き出した。
「葉司……ッ!」
「う……あぁッ」
 いつも指で気持ち良くされているところを、優の昂りで擦られて、痛いのか、熱いのか、気持ち良いのか、もうわからない。
 優の全部は入っていないんだろうけど、それでも体の中はいっぱいになって、ただ揺すぶられるたびに、喘ぎが止められない。
「優……優っ!」
「も……う……っ」
「あ、あ、あぁッ」
 浅く突かれるたびに体が動いて、目の前には感じきった優の紅潮した顔があって、体中がジンジンと熱くなっていく。
「葉……司……ッ!あッ!」
 優の蠢きが速まったと思うと、ピタリと止まって、それから体の内奥で、優がビクビクッと震えるのを感じた。
 ドクドクと迸りの熱さを後孔で感じて、自分の心臓まで跳ね上がりそうだった。
「あ……優――」
「葉司……っ」
 イッたんだ――
 そう感じると、ブワッと嵐が吹いたみたいに、優への愛しさでいっぱいになった。
「優――優……」
 俺の中でイッたんだ――
 幸福感で溢れて、愛しさでどうして良いかわからなくなった。
「葉司……」
 呼吸を乱したままの優が、俺の前髪をかき上げて、まだ熱を持ったままの瞳で、じっと俺を見つめた。
 どちらからともなく、指と指をからめて握り合った。
 優はそっと腰を引いて、ゆっくりと抜き出した。
最後にずるりと引き抜かれて、ぐいっと痛みが走って、思わずぎゅっと目をつぶった。
 乱れた呼吸を戻せずに、開いた脚も閉じることができずに、ただ肩ではぁはぁと喘いだ。
「大丈夫?葉司」
 うん、と答えたつもりが、声にならなかった。
 幸福さと苦しさがないまぜになって、気が付くと涙がこぼれていて、慌てて掌で隠した。
「葉司……葉司」
 もう優は入っていないのに、後孔にはまざまざと感覚だけが残っていて、心が不安定に揺れている。
 今までに感じたことのない、フワフワとした浮遊感と、心からこぼれ落ちるような不安さと、体に残っている感覚で混乱している。
 抱きしめて欲しい衝動が襲ってきて、手を伸ばしかけた。
 だけど、鬱陶しがられたらという恐れに腕が強張って、宙で止まった。
 それを優の手がすくい上げて、そっと俺の手を握った。
 俺の手の甲に何度もくちづけながら、優が囁いた。
「あのさ、葉司」
「ん……」
 手にくちづけられていると、うっとりとしてきて、夢半ばに答えた。
「絶対、気持ちいいと思うから。ちょっとだけ頑張って」
「え……?」
 手を伸ばした優が、半分萎えてしまった俺の中心部を撫でるようにして、それから下のほうへと身を沈めていった。
 俺の開いたままの下肢へと優は顔を寄せて――
 掌で包んだ昂りに唇を寄せて、そこへ何度かキスをした。
「えっ――」
 俺はビックリして目を見開いた。
「いやだって……」
 俺がハッとして身を起こそうとすると、さっきまで優が入っていた感覚が残っている後孔に、優の指が入ってきて、浅いところを撫でるように押した。
「あ……う……ッ」
 体がもう覚えてしまった快楽を拾って、鼓動が速くなる。
 俺はずり上がって逃げようとしたけど、優の指の動きが強まって、ただ喘ぐしかなくなった。
「葉司、どこにも行かないで。俺と気持ちいいことしよ?ほら、全部俺がしてるんだよ?」
 低く囁かれながら、昂りを擦られ、後孔に指を突き入れられて、ぎゅうっと収縮した。
「あ……あ……ゆ、う……っ」
 目の前が霞んでいって、体が熱くなって、意識がぼんやりとしていく。
「うん」
 優は一度答えて、それから優の唇が赤く開いて、俺の昂りを包んだ。
「あ……ッ!」
 身を起こして逃げようとしたけど、優の舌に先端を舐められて、ズキッと衝撃が走った。
「優……!あぁッ」
 舌で先端を舐められながら、唇で昂りを扱かれると、腰から力が抜けていく。
 優の舌が蠢いて、ズキンと電流みたいに腰から重い快感が突き抜けて、ぶるっと身震いした。
 上目遣いで俺の反応を見ながら、真剣でいてやさしい眼差しを見ると、俺は捉われたみたいに優から目を離せなくなった。
「優が……こんな……んッ」
「ここ、気持ちいい?」
 先端の回りをぐるりと舐められて、強く吸われて、急激にズキズキと甘い疼痛が駆け抜けていった。
「うっ……あぁっ!あっ」
 優はさらに強く吸い上げて、後孔の指を押すようにして刺激した。
「だ、だめ……ッ!ほんと、もう……ッ!あぁッ」
 どんどんと意識は、体ごと高みへと押し上げられて、もっと強くして欲しいような、追い詰めて欲しいような、切羽詰まった感覚でいっぱいになった。
「や、やめ……ほんと、もう……ひッ」
 優の肩を押しやろうとして、自分に力が入ってないのがわかる。
 優は後孔から指をずるりと引き抜くと、俺の腕を押さえて、咽喉の深みまで、昂りを飲み込んだ。
 優のどの行動も、すべてが快感に転換されてしまって、もうどうしようもなかった。
 内股がびくびくと痙攣してきて、恥も捨てて優に懇願した。
「もう、出ちゃう……から……ッ!優、だめ――離し……てッ!ひ……っ」
 優は逆に唇で俺の昂りを出し入れして、その光景と、下肢から背骨から頭にまで広がった痛いような熱さとで、訳がわからなくなった。
「う……あぁッ!」
 意識の遠くで、自分の腰が何度もビクビクと震えて、我慢できずに吐精してしまったのを感じた。
 そのたびに甘い疼きが走って、朦朧としてしまう。
「んっ」
 優は唇を離していなくて、俺のを口に含んだまま目を閉じていた。
「あ……あ……」
 甘く高い緊張から解き放たれると、呆然としてしまって、体に力が入らなかった。
 その時だった。
 優は俺から口を離して顔を上げると、ごくりと咽喉を鳴らした。
「え……」
 最初はわからなかったけど、そのうち優が俺の射精したのを飲んでしまったのだとわかって、カッと頭が熱くなるのと同時に、どうして良いかわからなくなった。
「ゆ、優……出して……」
 泣きそうになって言うと、優は赤い舌で唇を舐めた。
「無理。もう飲んじゃったし」
「な、何で……」
「だって、葉司の舐めて、飲みたかったんだもん。美味しかったし、すげぇ可愛かった」
 俺は動揺で視線を彷徨わせた。
「気持ちよくなれたよね?俺とだったら、大丈夫だったよね?」
「う……ん」
 今日は涙腺がどうにかしてしまったみたいで、また涙があふれて落ちた。
 優に抱きしめられて、その温かさに包まれて、瞳を閉じた。
「葉司とキスした日も、初めてした日も、今日のこともずっと忘れない。色んなこと、思い出すよ。もっといっぱい忘れられないこと、これからも俺としてくれる?」
「うん……」
 緊張から気が緩まったのと、優の肌の安らぎに、知らないうちに、意識は急激にぼんやりと霞んでいった。
「ゆ……う……」
「うん」
 優の胸に頭をもたせかけて、ふわりとした温もりと匂いに包まれて、ただ頭から背中をあやすように撫でられている。
 ここは安心できる場所で、愛しさで結ばれた場所なんだと、心に沁み入っていく。
「葉司――」
 俺は返事をしたつもりだったけど、安らかな眠りの中へと誘われていった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

処理中です...