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つまらない話し

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 男は言った。
「明日は文化祭だね、女さん。」
 女は答えた。
「そうだね、男くん。」「文化祭と言えばクラスの出し物だね。男くんのクラスは何をやるの?」

「ぼくのクラスでは、お化け屋敷をやることになっているんだ。みんな忙しなく、準備を進めているよ。」

「そうなんだ、楽しそうだね。」

「うん、文化祭は準備してるときが一番楽しいからね、みんな楽しそうにしているよ。」

「みんな?     まるで他人事のように語るね。男くんもクラスの一員でしょ。男くんは楽しくないの?」

「ぼくは、」
 自分への問答
 お化け屋敷の小道具を作るのは楽しかったか?
                              いいえ
 買い出しに行くのは楽しかったか?
                             いいえ
 血糊を撒き散らすのは楽しかったか?
                             いいえ
 女子の機嫌を取るのは楽しかったか?
                             いいえ
 友達と協力するのは楽しかったか?
                             いいえ
 文化祭の準備をするのは楽しかったか?
                             いいえ
以上より証明完了
「まったく楽しめなかったよ。」

「そうなんだ、男くんには必要な感情が少し足りないみたいだね。」

「違うよ女さん、ぼくには、必要のない感情なんだ。」

「感情はあるだけ持っておいた方がいいんじゃないかな。」

「ぼくは、それを否定するよ。確かに、楽しいやら嬉しいやらの正の感情は一般的には、あった方がいいかもしれないね。でもね、もし、最初から持っていなかったら?負の感情やあるいは何も感じない状態が一般化していたら?どう?ぼくは、負の感情のなかで、どれが一番幸せな状態かどれが一番不幸な状態なのかを選定すると思うんだよ。つまりね、負の感情しか知らなくても、幸福にはなれるのに、また正の感情を知っていても不幸になってしまうのに。わざわざ、楽しいやら嬉しいやらの感情を欲するのは、贅沢だって言いたいんだよ。」

「必死だね、男くん。」

「ごめんなさい、女さんつい熱が入ってしまったよ。」

「いいよ、許してあげます。  男くんは、なんでそんな風に考えたの?」

「そんな風にって?」

「わたし、必要な感情は正の感情なんて言ってないよ。感情は調和が大事なんだよ。お箸は1本だけならただの木の棒だし。片方だけの靴ならケンケンしながら歩かなきゃいけないよ。負の感情と正の感情はお互いがお互いを必要としてるんだよ。」

「模範解答だね、女さん。」

「ありがと。」

「本当は、思ってないクセに。」

「感謝しちゃダメ?」

「違うそっちじゃないよ。」 

「うん?」

女さんとぼくは、駅に向かって歩いていた。それぞれの家に帰るために。

「女さんってよく笑うよね。」

「突然だね、男くん。それがどうかしたの?」

「いいや、なんでもないよ。」

「女さんってよく嘘をつくよね。」

「ひどいよ。最低だね男くん。」

「思ってないクセに。よく笑うのは作り笑いだし、文化祭の準備が楽しそうってもの嘘だろ。」

「男くんナンセンスだね。」

「というと?」

「嘘は本当かどうかわからないから魅力的なんだよ。それを暴こうとするなんて愚の骨頂だね。」

「嘘をついてたことは認めるんだ。語るに落ちたね。」

「うん。愚かな男くんと話してると、本当のことを言いたくなる。そういう性質を持っているんだよ。」

「そうなんだ、今知ったよ。でもなんで話したくなるんだろうね?愚かなぼくに詳しく教えてくれよ。」

「男くんは足りないものが多すぎるんだよ。他の人が当たり前にもってるものがね圧倒的に足りないんだよ。わたしは、足りない穴を埋めたくなるんだ、虫食いのパズルを完成させたくなるように、テストの回答用紙の白を鉛筆の黒色で塗りつぶしたくなるみたいに男くんがわたしをそうやって煽るからわたしは、まんまとのせられてしまうわけです。」

「ぼくのことそんな風に思ってたんだ、ひどいよ。最低だね女さん。」

「そんなこと、思ってないクセに。」
ぼくたちは数分間、笑いあってみた、たぶん嘘じゃない。

「明日一緒にお化け屋敷入ろうね男くん。」

「わかった。」
駅につき電車に乗り、車窓から景色を覗く、配色は茶色に緑、青といった具合の退屈な田舎の風景。
「少し散歩しよう女さん。」

「よろこんで。」

「中学生だった頃を思い出すね女さん。」

「うん。」 

「まだ覚えてる?ぼくたちの約束。」

「もちろんだよ。」
 
「ぼくたちは、あの日共犯者になり、みんなの敵になった。二人でしあわせになろうね。」

「うん。」

「じゃあ、また明日学校で。」

「さようなら、男くん。」

「さよなら、女さん。」


もしぼくたちを悪意が取り囲んで身動きが取れなくなったら善意を主張するのはやめよう。もっと強い悪意にぼくたちがなれば小さな悪を支配することができるよ。もしぼくたち二人なら、自転車に2人乗りできるし、公園ベンチを一人より多く埋めることができるよ。今はまだ平和だけど、ぼくにはぬるま湯に感じてしまうよ。でも、今は、まだ浸かってるだけでいいや。女さんが、望むままにしたいんだ。
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