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蛇足
松田龍馬
しおりを挟む「あ、行っちまった。」
他人事のようにそう呟いてからぐっと伸びをし、大急ぎで廊下を駆ける松田の背中を見る。
「松田!」
名前を呼んでも見向きもせず走る松田。
大事な事を言おうと思ったのに…と思いながらも、松田にまだ私の声が届くはずだ、と信じ、こう叫んでみる。
「絶望しろ!松田龍馬!」
知らない一般人からすれば、何かのゲームの話か、私が松田龍馬を虐めているのか、それとも厨二病だから訳のわからないことを言っていると捉えられるだろう。
それでいい。
私は愚か者でいいんだ。
悪役でいい。
ちょい役でいい。
馬鹿でいい。
これが目を覚ました者の運命であり宿命なのだから。
宿命であり、運命であり、呪いなのだから。
包帯のせいで蒸れたのか、むず痒い首を包帯の上からぽりぽりと掻きながら窓から空を見上げる。
呆れるほど綺麗で、私は何度目かの絶望を迎えてしまった。
すとん、と肩から何か重大な物が落ちるような感覚に慣れてしまったな、とふんわり思った。
風に流される雲を見ながら、人間はあんな風に死に向かうのかな、と思った。
向かっているんだな、と理解してしまった。
綺麗だな、と思った。
死ぬほど、殺したいほど綺麗で鬱陶しいなと思った。
思ってしまった。
この世界の人間よ。全てに絶望しろ。生きて、絶望して、死にたく思いながらも生きろ。うざったく思える程、生きて、生きて、生き抜くのだ。
そうすれば全てが受け入れられる。
誰かの、せいにできる。
そうでしょう。そうなのでしょう。
私の視線の先には、見つめ合っている池崎彩と…晶がいた。
晶の鼻は真っ赤に染まっていて、池崎彩はそんな晶の頬を摘んで怒っているような表情をしている。
何をしているかはこれから先分かっていくだろう。
そう思いながら包帯を解き、首の関節を鳴らしながら廊下を歩く。
弟が帰ってくる。迎えに行ってやらないと。
私に、家族が居てよかった。
私の愛おしい弟。
愛おしくて、何よりも美しい弟。
私の後ろをついて回るひよこのような奴。
私に似て視力が悪くて、眼鏡がないと歩けない弟。
ブラコンだと言われても仕方ない。
愛してる。愛してるんだ。
奪わせたりはしない。決して。
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