本当の主人公 リメイク版

正君

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九章

75話「さとし」

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 4月。始まりと終わりの季節。

 龍馬君と智明の喧嘩を目の前で見てから、大体三週間ちょっとが経過した。
 春休み中、心配した明人君が、二人の家に毎日のように傷を治療しに行ったり、執拗に顔を触られることにキレた智明が明人君にデコピンして、それに怒った彩ちゃんが智明君を左手の小指でねじ伏せたりしてた。
 龍馬君はそれを見て笑ってて、晶はそんなみんなを少し離れた場所でじっと見つめていた。

「晶、どうしたの?」

 最近どこか上の空で、ずっと考え事をしている晶が心配になった私は、家に帰り、二人きりになったタイミングで晶にこう尋ねてみることにした。
 すると、晶は、一度大きく息を吐いてから私の方を向き、こう答えた。。

「うちの家の事を4人に言おうか迷ってる」

 家の事…か。

「あの4人の事大好きやし、ずっと一緒に居たいけど…一緒に居れば居るほど、隠し事をするのが難しくなってきて」
「…それならいっそ、言っちゃった方がマシかもって思った?」
頷く晶。

「…あの4人なら分かってくれるよ、難しいかもしれないけど…信じてみよ?」

 そう言いながら晶を抱きしめると、晶は頷き、私の背に手を回した。




「朱里、話って?」

 晶が話をすると決意し、みんなを呼び出す前、ほぼ傷口がふさがってきた智明を個人的に呼び出した。

「智明に…いや、智に聞きたいことがあってさ」
 というと、智明は目を見開きあたりを見渡した。
「あ、朱里…!」
「ごめんごめん!ただ呼んでみたかっただけだから!」
「だからと言って外でその名前を出すなって!!」

 大慌ての智明。かわいい…。
 でもあの噂本当だったんだ…智君が沢田さん家に引き取られたって噂!まさか?ほんとに?また会えたの?って思ったけど、本当に智君が智明だったとはな…。

「…で、聞きたいことって?」

 ?あぁそうだったそうだった。

「来年の三月、私たち、家探すじゃん?」
「うん…そのつもりだけど…」
「じゃあさ?その…一緒に探すよっていう…言葉を、信じれるような材料が欲しいんだけど?」
「材料…?」
「鈍感」

 鈍感で分からず屋の智明。そんな奴の胸倉を掴んでぐっとこっちに引き寄せる。
 困惑してる智明。少しだけ背伸びをした私。
 智明の甘い香水の香り。

「!!!!!!!!!!??????????」
「その反応毎回するつもり?これが日常になるんだから慣れてくれなきゃ困るよ?」
「は、はい…………」


「彩ちゃん、あのさ」

 私を呼び止める声。
 晶ちゃんに呼び出され、龍馬君のマンションの駐輪場に向かっていると、背後から晶ちゃんの声が。
 振り返ると、晶ちゃんが息を切らし、壁に手を付いていた。
 体力ないな…晶ちゃん…。

「どうしたの晶ちゃん…大丈夫?」

 晶ちゃんの横に立ち、背中を撫でながらそう尋ねると、晶ちゃんはケラケラと笑いながら「ごめんな」と謝罪の言葉を口にした。

「どうしたの?何かあった?」

 そう尋ねた瞬間頭によぎるあの夜。
 あの時の話かな、と、思ってしまった。
 しかし、晶ちゃんは私の想像の正反対を行った。

「あのさ…三年になるまで、友達でいてくれて、ありがとうって…言いたくて」
「晶ちゃん…」
「彩ちゃんの、なんか、理想と違うかもしれんけど…うちは生きるからな」
「…うん、何しても…生きてね」

 優しく微笑み、私の髪を撫でる晶ちゃん。

 …?

「晶ちゃん…首になんか」
「あ!?あーあーあーーーー後がつっかえてるから交代!!」
「え!?はぐらかした!!ずるい女!!」
 晶ちゃんはどこか照れくさそうに私に手を振り、物陰で私たちを見ていた誰かに小声で何かを言ってから立ち去った。

「彩さん」

 …物陰で私たちを見ていた誰かは、龍馬君だった

「り、龍馬君…」

 …

 沈黙。

「これから僕彩さんに告白するね」
「は!?」
「え?ダメだった!?」
「別にいいけどなんか脈略無くない?なんか…もっとさ…前後に複線を…」
「いいから聞いて!!」
「わ、分かった…」

 汗で滲む掌。

「最初ね、僕にとっての彩さんは、不思議な存在だった」

「うん」

「何を考えてるのか分かんなかったけど…そんなの抜きで考えるとさ…単純に…僕、彩さんと夢で会えるのが楽しかったし、嬉しかったんだ」

「…うん」

「彩さんが襲われる夢を見たとき、怖くて、失いたくないって思った」

「…」

「ずっと、彩さんが、怪物から僕を守ってくれてたみたいで」

「…違う、違うんだよ、龍馬君」

「違ってもいい」

「…え?」

「何か、下衆な思いがあったとしても…むしろあった方がいい!僕いっぱい間違えて…これから先ミス繰り返してどんな事件起こすか分かんないよ!!」

「えぇ…?」

「彩さんの全部、僕のために、許させて」

「…は、はい」

「その返事ちょっとおかしくない?」

「いいから続き」

「はい」

「…」

「どこまで話したっけ?」

「全部許させて…ってとこ」

「あー…いい言葉だよね」

「…」

「ごめん、続けるよ…」

「…」

「僕、彩さんの春になりたい」

「…春?」

「春だけじゃなくて、太陽とか光とか希望とか…ポジティブな何かになりたいんだ」

「…」

「色で言うと青より黄色、みたいな」

「私のワンピースの色に引っ張られてない?」

「そうだったっけ?あ、黄色だったね、確かに!」

「話戻そう?…なんでポジティブな何かになりたいの…?」

「…僕にとっての、彩さんが、そうだから」

「もうなってるよ」

「じゃあ、彩さんの…人生に、登場させて?」

「…何の役?」

「彼氏として」

「それが告白…?」

「うん…まあ…徹夜したけど…良いのが浮かばなくてほぼアドリブだけど…」

「…うん、登場してほしい」

「彼氏として?」

「うん…だいすき」

「僕も大好きだよ、あのね…ゴールデンウィーク」

「?」

「去年できなかった分、いっぱいデートしようね」

「…うん、する」







 ノック15回。うるさいと怒られる。
「合言葉は」
「開けゴマ」
「不正解」
「山」
「川、不正解」
「隣の客は」
「よく柿食う客だ、不正解」
「カナダラマバサ」
「アヂャチャカタパハ、不正解」
「今履いてるパンツの色は?」
「透明、不正解」
「おぉ、ブラの色は?」
「ベージュ、不正解」
「うちの事どれくらい好き?」
「大好き…!不正解」

 はは、ほんま可愛いやつ。

「…名前言わなあかんの?」
「一個秘密教えてくれたらそれでいいよ」
「そしたら…あんたのこと全部教えてくれんの?」
「うん」
「…言うよ?うち…………」
「……………………え…それマジ?」




 誰もいない高校に不法侵入したうちが、同じく不法侵入していた詩寂と楽しいガールズトークを終わらせ、ウキウキ状態のまま龍馬のマンションに向かうと…目の前に、大親友明人が。

「晶」
「どした?」
「…おまえの、作戦、計画、完遂、できなかった」

 明人…。

「そこは普通「失恋した」言うとこやろが!!」
「あきら…」

 抱きついてくる明人。
 背中を撫でると、うちの肩あたりに頭をぐりぐりと押し付けてきた。

「…それでよかったんか?」
「自分にそう言い聞かせてる」
「…」
「それに…大学主催の絵画コンクールに応募して学長賞貰って「来年入学しませんか」って誘われたし」
「は!!!???それはよ言えや!!!赤飯炊かな!!!!」
「そうなるから言いたくなかったんだよ」



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