本当の主人公 リメイク版

正君

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八章

69話「Blow」

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「話したい事があるから、学校が終わったら前話してた駐輪場に来てくれたらうれしい」
低く、冷静な龍馬さんの声。

突然だった。
突然の、龍馬さんからの誘い。
僕たち一人一人に電話でそう伝えた龍馬さん。

姉さんは目を見開いて驚き、晶は「少し嫌な予感がする」と言っていた。
朱里は何も言わずに頷いて、智明は僕たちみんなの顔を見比べてから「行こう」と言った。


「龍馬、もう来てたんか。」

晶が手を振る。視線の先には私服の龍馬さんが。
龍馬さんは少し照れくさそうにこう言った。
「まぁ呼んどいて遅れるのは違うしね…。」
「はは、確かにそうだな。」

龍馬さんの言葉に返事をしながら鞄をそっと地面に置く智明。
その横に自分の鞄を置くと、晶があたりを見渡しながらこう言った。
「ええ場所やな…初めて来たけどここに自分の骨埋めたいくらいや!」
「初めてじゃないじゃん…。」
「え?初めてやけど…?」
「なになに、なんか食い違ってる…?」
「来たじゃん!まえ!」
「え…?来たっけ?」

…みんなの会話が遠くに聞こえる。

そして思い出す。
一度家に帰るという智明と、トイレに行きたかった朱里と晶の為に、龍馬さんのマンションの前で待ち合わせることにした事を。

「…明人君、大丈夫?」
ぼーっとしている僕に気付いた朱里がこう話しかけてくる。
「…大丈夫、お前は?」
そう尋ねると、朱里は頷き
「平気だよ…でも、晶の言ってた「嫌な予感」って何なんだろって思っただけ…。」
と言った。

…確かに、晶の勘は結構当たるし…龍馬さんが誰かを呼び出すなんて…ちょっと、意外だから、本当に…何か、駄目な事が起こるかもしれないな。



「いきなりだけどさ、僕って地味だよね?」

…本当に突然だな。

「じ、地味って…?」
姉さんが龍馬さんにそう尋ねる。
すると龍馬さんは頷き、こう続けた。

「身長168、体重59、筋肉もなければ声も間抜けでおまけにこの顔。」

…。

「僕と仲良くしてくれる人たちはみんな智明を見てて、僕の本質になんて微塵も興味なさそうで…仕方ないよね。」

…は?
なんで龍馬さんが自分を卑下する必要があるんだ…?

気付いたらこう言っていた。
「龍馬さんは魅力的ですよ!線が細そうに見えて実は意外と筋肉質で…!声だってかっこよくて顔だって」
「君が僕を好いてくれた理由は僕と僕のお父さんが瓜二つだったからだろ。」

…!

「僕はいつも誰かのおまけで、誰かの代わりで、誰かの、過程でしかなかった。」
「…龍。」
名前を呼ぶ智明。
「僕だって自分の人生の主人公になりたいんだよ。」
「龍」
智明を右手で制止する龍馬さん。
「…龍」

「最初から全部気付いてた。でも馬鹿なふりをしてた。」
「ば、馬鹿なふりって、お前」
「だって、そうじゃないと小説として面白くないでしょ?」
「…龍…」
「龍馬さん…何を…?小説…?」
「もうみんな気付いてるでしょ?なんで馬鹿なふりしてるのさ…。」
「馬鹿なふり…」
龍「ねえ、こうすれば読みやすい?」
智「龍…」
龍「分かりやすく馬鹿な文章書いて、本質に気付きそうなタイミングで馬鹿になったりして…」
龍「なんでそうやって生きてきたと思う?本心がこれだってみんなに知られたら嫌われちゃうからだよ」
龍「みんなって誰か気になる?」
龍「お前だよ、間抜けな顔で口開けてぼーっと目で文字追ってるお前。ブルーライト浴びてぼーっとバカ丸出しで僕たちを見てるお前に言ってんだよ。」
龍「お前らはいいよな、精々2時間くらいありゃ僕らの人生全部見て好きに批評できんだから」
龍「智明は何言ってもかっこいいし、晶さんは弱さを出せば「ギャップ」って言って貰えるし、彩さんは可愛いしミステリアスだから突然暴言を吐いても受け流してもらえる…明人君も可愛いし最悪人を殺したって見逃してもらえる…朱里さんだって頭がよくて美人だから突然発狂したって可愛い、いつものかって言って貰える…でも、僕は?」
龍「智明が居なくて、能力がなければこれに出られすらしない僕は?」
龍「なんも取り柄の無い僕が突然発狂したらどうなる?怖いし意味分かんないって困惑するだろ…?」
龍「だから、僕の人生にお前がいてよかったよ」
龍「智明」


崩れ落ちる龍馬さん。
龍馬さんの目の前に立っている智明。

嬉しそうに笑う龍馬さん。
怒りに満ちた表情の智明。
絶句する朱里。
ただ見つめている晶。
口を押さえてる姉さん。
そして、僕。




…龍馬さんを…殴った…?

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