本当の主人公 リメイク版

正君

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六章

48話「自分らしさ」

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「お風呂どうする?課題やってから入る?」
晩御飯を食べ終わり、みんなで課題をしようかと話し合っていると、朱里さんが時計を指差しながら僕達にこう訪ねた。

…確かに、そろそろ入った方がいいかもしれないな。

「それより…課題やる前にパッと入って…それから課題した方が良いんじゃない?」
僕がそう言うと、彩さんが二回頷いてから
「そうしよ、じゃあチーム分け決めようか!」
と言ってくれた。

チーム分けか…女の子男の子で分かれればいいんじゃないの…?
あー、でも…明人君と僕の事を気遣ったりしてくれてるのかな。

なんて事を考えていると、晶さんが明人君の頭をわしわしと撫でながらこんな事を言い出した。

「明人、うちと入ろっか。」

…大丈夫かな。
まぁ、そんな事を気にするような人には思えないけど…でも、なんか…ちょっと妙な気持ちになってしまうというか…。
でも明人君嫌がるんじゃ…。

「分かった。」
「分かったァ!!??」

い、意外かもしれない。
明人君は晶さんが相手なら大丈夫なんだ…。

「明人大丈夫?晶ちゃんに身体触られたら大声出してね、助けに行くから。」
「そんなことせえへんわ!!!!!」

こういう時「覗くなよ」とか「セクハラするなよ」って注意されて、一番可能性があるって思われるのが男の子の明人君じゃなくて女の子の晶さん…っていうのが…なんというか、らしい感じがするな。

なんて変な事を考えていると、明人君が僕達5人を交互に見ながらこんな事を言った。
「セクハラしたら僕が殴るから大丈夫、ただ…晶相手なら智明とか朱里よりかは気分的にマシってだけ。」

なるほど…ん?

「私は?」
「姉さんと僕昔入ってたじゃん、だからギリギリ大丈夫。」
「僕は?」
「入った瞬間僕が目を潰すので大丈夫です。」
それ明人君が大丈夫じゃないじゃん…。

「私と智明が大丈夫じゃないのは何で?」
「智明と入ったら朱里が嫉妬するし朱里と入ったら智明が嫉妬するだろ。」
「あー……え?それどういう意味?」
「僕が可愛くてかっこ良いのが問題。」
「あー……え?それどういう意味?」








「龍馬君お待たせ!次どうぞ!ごゆっくり!」

壮絶なじゃんけんの結果、トップバッターは晶さんと明人君に、その次は朱里さんと彩さんに決まった。

「智明行こ。」
「おう。」
…久しぶりに、智明と二人きりで過ごす気がする。
まぁ休みの日にたまに出掛けたりはするけど…でも、なんか…こんな狭い場所で二人になるのは久しぶりだ。

……あれ、なんか僕緊張してる?
なんでだ。

「龍、入ろうぜ。」
「うん…。」

……お風呂場は、なんか、綺麗で…シャワーの下にリンスとシャンプーとボディソープ…が置いてある。
よくドラッグストアに売ってるあの青っぽいなんかあの、安いやつ。なんか失礼なこと言ってるな僕。

「……。」

シャワーの音。
手でシャンプーを泡立てる音。
髪の毛を洗う音。

「…なあ、龍、大丈夫か?」
「……大丈夫。」

…なんでこんなに緊張してんの、僕。
昔一緒に入ったことあったじゃん。
なんで?

……なんでだろ。






「めっちゃ広いなここ。」
「……だね。」

…いや、なんか、なんでだ。
なんでこんな…。
今までこんなことしなかった。

広い浴槽で智明に触らないように配慮する…なんてしたこと無かった。
なんで今…。

「…龍、大丈夫か?のぼせた?」
「……違う。」
「…そっか、体調悪いなら早く上がって休めよ?」
「大丈夫…。」

……。

「……。」
「……あ。」

…外から、彩さんの声が聞こえた。
何かを怒ってるみたいな声。

「なんか…彩ちゃん怒ってね?」
「だね…。」
「明人がなんかしたのか?」
「そうかも…。」
「…なあ、変な事言っても良いか?」
「いいよ?」
「俺と彩ちゃんって似てね?」
「へ!!??」

…しまった、大声が出た。

「おお、そんなに似てないか?」
身体の方向を変えて僕の方を向く智明。
お湯が大きく揺れてバシャリと音を立てた。

「似てない…と思う。」
「俺の推理を聞いてから判断してくれよ。」
「最近弁護士のゲームにハマってるからってそれを僕に押し付けないで。」
「いいからいいから!」

濡れた髪をかき上げ、ニコニコと微笑む智明。

「まず俺には華奈が居て、彩ちゃんには明人がいるな?それにあとー…ほら、意外と仕切りたがり!」
「智明は意外じゃないよ…。」
「マジか……んー…。」

唇を尖らせて悩む智明。

…無理だ。
無理。
なんで無理か分かった。
行き道の車で朱里さんと明人君がずっとBLトークしてたからその余韻が残ってるんだ。

「でも面倒見良いとこは似てね?」
「そこは似てるかも」
「なんでそんな棒読みなんだよ。」

……。

「そういえばさ、晶がこの前…」
「僕もう上がる!!」
「え、なんで。」
「なんでもない!!お前ムカつく!!!」
「ええ……?」










「彩ちゃん?明人君を怒る前にまず自分の事!髪全然乾かせてないよ?私がやったげるね。」
「あ…ありがとう…。」

彩ちゃんの髪を撫でる。
ケアしてない筈なのにサラサラで羨ましい。
染めてないからツヤツヤなのかな。
私は染めちゃったから嫌でも痛んじゃうのかな。

なんて事を考えながらドライヤーで彩ちゃんの髪を乾かす。
いい匂い。
そういえば彩ちゃんシャンプー持ってきてたな。
いつもの彩ちゃんの香りがする。
柑橘系の香りのシャンプー。

そういえばなんかの記事で読んだっけ?髪に良いシャンプーがありますよ、っていう…記事。
それで紹介してたシャンプーなのかな。
確かその最高のシャンプー「柑橘系の香り」って書いてたな。
それ使ってるのかな?だとしたらこのツヤツヤも納得できるかも?

…なんでこんな良いシャンプー使ってるのかな。
まぁ普通に髪の毛綺麗だったらテンション上がるもんね。
それとも大好きな龍馬君のため?

……ああ
待って
私、最低だ
何言ってんだろ

「…乾かせたよ。」
「ありがとう…!凄い!見て見て明人!私いつも乾かした後髪の毛広がるじゃん!全然広がってない!」
「だから僕がいつも言ってんだろ、ちゃんと髪の流れ意識して乾かせって。」
「今納得した、納得!」

……彩ちゃんは褒め方にイヤらしさ0で。
ぜーんぶ本心で言ってくれてて。
私とは大違いで。

……
「みんなごめん、ちょっとトイレ行って来るね。」
「うん、行ってらっしゃい!」







気持ち悪くなってきた
私が女だからなのか、何なのかは分からないけど
女として見られるのに疲れてしまった
お風呂に入った時、彩ちゃんに綺麗だと言われた
無理に痩せようとしている私を気遣っての言葉なんだろうけど
嬉しかったんだけど
何なんだろ、この気持ち
女でいるのが嫌なわけじゃなくて、疲れてしまった

生理キモくて面倒だし
一回何も食わないダイエットしたら来なくなって「ラッキー」とか思って
食生活戻った時また来て
めっちゃ重くて
めっちゃ吐いて
婦人科行ったらみんなにチラチラ見られて売女って顔されて

最悪
生理は軽くなった
けどキモさは変わらない

こんなんだったらもうこんな臓器無くなってくれていいよ
子供なんてほしくないし
智明とは結ばれたいけど子供なんてほしくないし

セックスの事なんて考えたくもないし
まあ一回考えたことはあるけどね
たのしかった
面白くてドキドキした
晶と彩ちゃんと「智明はこんな感じかな」なんて言って盛り上がったりもした

ドキドキして、メモ帳に残したりもした
最低など下ネタが並んだ文字を見て嫌悪感に襲われたりした

でも智明なら笑って許してくれるのかななんて

でも痩せるのは智明のためじゃない
もう二度と来ないように殺してやりたくて
栄養が足りなくて、点滴で補給しなきゃいけなくなるくらい不健康になりたくて



晶に、なりたくて



意味もなく涙が流れた。
元々私の涙に意味なんてなかったなって思った途端また頬に伝った。
涙が。
涙。

体の栄養素全部流れてる
ミイラになりそう
なりたい
死にたい
死にたいよ
私だって愚痴くらい言うし下ネタだって言うし
中一ん時に一回セックスしたし
あとオナニーだってする
女だから、とかそんなんじゃないし
この年だからとか盛んな時期とかそんなんじゃない
普通の人間なんだからそれくらいするよ
私がこんなんで幻滅されたって構わない
余計な奴が近付いて来ないようにする為なら何回だって下ネタ連呼してやるよ
普通にトイレだって行くし見た目で人を判断したりもするし好きなアーティストのアンチを何十個も持ってるアカウントで何回も運営に報告したりするし裏垢で嫌いな奴を名指しで批判したりもする
自撮りだって撮るし胸だって足だって撮ったし送ったことだってある
たまに面倒で風呂に入れない日だってある
深夜にごはん食べたりもするし死にたいって思ったりもすれば怒鳴ることもあるし思い通りにならなかったら暴れたりもする
死にたいよ?死にたい
毎日死にたいって思ってる
あーでもこんなこと言ったらどうせ文句言われるんだろうなーー
「生きたくても生きれない人の気持ち考えて」って
「メンヘラマジで嫌いなんだよな」って
嫌いならもう話しかけてくんなよウザイんだけど
死にたいって思う事が法律に反するなら私は今頃犯罪者で死刑囚になって今頃死ねてるね
よかったよかった
マジで
クソが
地獄に堕ちろ
全人類地獄に堕ちろ
一回でも私を見下した奴らみんな死んでしまえ
死ねよ
ほんと死んで
死ねってマジで

どうせ誰も助けてくんない
こんな私の事なんて
みんな見放す
私が髪切ったら
私がメイクやめたら
私が体型に拘らなくなれば
学校サボったら
私がみんなの思う私じゃなくなったら
みんな私を避けるようになる
どうせ

あきら
でも
あきらはちがう










ねえ晶


「……どした。」

外からこんな声が聞こえた。
優しいのか、怖いのか分からない子の声。

「明人君……?」
「なんか気になって……どした。」

…いや、明人君は優しい子だな。本当。

「ちょっと…その、色々。」
「…体調悪い?」
「それは大丈夫…。」
「……智明の事?」
「違うよ…まぁ、最終的には…そこに行き着くけど…直接の悩みじゃないから。」
「じゃあ何?」
「……。」

…明人君を、困らせちゃうかな。

「気にせずに言って、僕お前に関心無いから。」
……何それ。
…………何、それ。





「…あの、ね、私、何も食べたくないって思う時があるんだ。」

気付いたら、口から言葉が滑り落ちていた。

「うん。」
トイレのドアにもたれかかっているのか、さっきよりも声が近くなってる。

「……それを、智明の…ためだと、思われたくない。」
「お前が拒食症になるのがなんで智明の為になる?」
「…痩せて、綺麗になるためだって思われそうで。」
「……あぁ…。」

…私と同じような気分になっているのか、悲しんでくれているのか、呆れているのかは分からないけど…さっきよりも声のトーンを落としている明人君。

「…あと、もう一個悩みがあってね。」
「……うん。」
「…私、景色見た時、頭で一回考えてから…綺麗って言うんだ。」
「……それが?」
「…本能で、綺麗って…思えないような、冷たい人間な気が、して…私は普通の人間だって、思えなくて。」
「…そっか。」
「それに私…私ね……?」
「……うん。」
「……何回か、しようとしたことがあって。」
「?何……って、ごめん…それか。」
「でも毎回晶に見つかって怒られて。」
「…そうなんだ。」
「…うん。」

……絶対に困らせた。
絶対に。
ごめんね、面倒な女で。

「もう帰っても良いよ」「ごめんね」と言いかけた時、明人君がこんな事を言ってくれた。

「僕は怒らないよ、お前がいなくなると晶とか姉さんが寂しがるけど…お前の人生だから、どこで終わらせるのもお前の自由だと思う。」
「……明人君…。」
「それに僕も寂しいだろうから…お前が死んだら僕毎日見に行ってやるし、毎日花供えるし、毎日…ケーキとか、お前が食べれなかった物色々置きに行くよ。」
「……食べれないの、嫌だな。」

涙が口の中に流れ込んできた。
声が震えて、泣いてるってバレてるだろうな、いや、もう最初っからバレてるか。
……なら、もう、いい…か。気にしなくても。

「食べれないの嫌ならさ、今のうちに食べればいいじゃん。」
「……?」
「だって、どうせお前いつか死ぬんだろ?なら「へー?良いんですね?私死にますよ~死んでやる~」くらいの精神でいれるじゃん。」
「そっ、か…ありがとう、ありがとね…明人君……」
「うん…それに、景色とかを無理矢理綺麗って言わなくて良い、普通に「あの山の形ちんこみたい」とか「あそこにあるの邪魔じゃね?」とか、夜景見て「こん中でセックスしてるとこあるかな」とか言っていい。」
「…うん。」
「それに…誰かが綺麗になるのは誰かのためとか思うのは仕方ないと思う。」
「……なんで?」
「だってさ?「こうだ」って決めつけて言ったら…なんか老害みたいでキモいじゃん。」
「……。」
「「「女が綺麗になるのは男の為」って言う奴はおかしい」って言うのもおかしいじゃん、その為に綺麗になった人達をディスることになる。」
「…うん。」
「だから、何が言いたいかっていうと。」
「……。」
「…お前は、何もおかしくないよ。」
「……明人君…。」
「好きな人が居て、身体の事で悩んで、色々困る事も沢山あるし死にたいって思ったりもする…普通の女子高生。」
「…うん。」
「だから、朱里は…大丈夫だよ。」
「…やっと、名前呼んでくれたね。明人君。」









「…もう起きてんのか。」
ふと思い立って、日の出を見に行くことにした。
自然豊かなここだったら良い景色が見れるんじゃないかと思って。
音を立てないように抜け出して外に出たら、なんか、昔に戻ったみたいで嬉しかった。

すると、同じ事を思ったのか既にそこには晶が居た。

「…晶も見たかったのか?」
「まあな…朝日好きやねん、うち。」
「俺も好き。」

昔から好きだった。
怖くて寝れなかった時、ふと外から光が差している事に気付いてこっそり抜け出した。
そして朝日を見て…いつか、こうやって光が差して、暖かい結末を迎えられたら良いなと…子供ながらに思ったっけ。

「…なんかさ、洗われる感じがするの分かる?」
晶がぼそりとこう呟いた。
……洗われる感じ…か。

「ちょっと分かるかも。」
「うん、なんか…全部を肯定してくれてるような…冷たいけど暖かい感じが…ほんまに始まりって感じがして…いつでも初めて見たような感覚になるっていうか…。」

……へえ。

「お前、なかなかポエミーな事言うんだな。」
いつもの「うっさいわ!」とか「黙れや!」とか騒いでる晶からは想像もつかないような暖かい言葉に驚き、そう伝えると晶が俺の方を見てこう言った。

「…うちらしくないやろ?」
………。
……らしさ、か。

どこか寂しそうに、悔しそうにそう呟く晶が…見てて辛くなった。
まるで昔の俺を見ているような、そんな感じで。

「…らしさなんて当てにならねえよ。」
「……え?」
「俺は、好きに生きて、あとからついてくるものが「らしさ」なんだと思う。」
「……。」
「晶は…誰にどう思われるか気にして生きてきたんだろ?」
「……うん。」
「…誰にどう思われるか気にしまくって生きてきた俺らにはあんまり響かないかもしれないけど。」
「……。」
「…晶らしさなんて誰にも分からねえよ、だから、分かって貰えるように好きに生きればいいんだ。」

……なんて、クサすぎたか。

「……ありがとう、ちょっと…頑張ってみるよ。」
「おう、頑張れ!」

ぎこちなく微笑む晶の肩を叩き、二人で朝日を見てみる。

「……綺麗だよな。」
「うん…初日の出も見に行きたいな。」
「いいなそれ…じゃあ年末は予定開けとくわ。」
「朱里にも確認取ろっか。」
「どうせなら6人で見に行こうぜ?」
「ええなそれ…シジャクとパラも誘いたい。」
「いいじゃん、みんなで行こうぜ。」




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