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六章
45話「旅行行こうぜ!」
しおりを挟む「なぁ朱里!旅行とか行きたくない?行こうぜ!」
…突然だな。晶は。いつも。
期末テストが終わってもうすぐ夏休み。
晶がお父さんに「テストめっちゃ点数良かった!」と自慢したのは知ってる。
お友達達と勉強した結果だと知って、晶大好きなお父さんが大泣きしてたのも知ってる。
その結果「晶ちゃん良かったな!おっちゃんがご褒美やるわ!ここで友達と泊まり!!」と、一週間くらいお父さんの知り合いの知り合いが小さな民家を貸してくれる事になったのも知ってる。
誘う人が私達しか居ないのも知ってる。
見張りがあろうことか冴木君と宮神という事も知ってる。
まぁ確かに冴木君と宮神が晶の推しCPなのは知ってるけど、でも…でも……じゃん。
「何故私と冴木が…。」
ほら宮神が困ってる!綺麗な顔歪ませて困惑してる!!
「いいじゃないですか!たまには!ね!」
冴木君は相変わらず能天気だし…ねえ…?相性悪いんじゃないの…?
「ねえ、やっぱ冴木と山ノ江とかの方が良かったよ!!あの子だったら荷物とか持てるし筋肉かっこいいから龍馬君喜ぶよ!?それに宮神はお仕事忙しいでしょ!?ね!?」
「いーやーやー!うちは冴木とミヤがいーーいーー!!」
「ごねるな!!!みっともないでしょ!!!」
冴木君と宮神の腕を引いて唸る晶に、私と晶の顔色を窺ってる宮神さんと、私に向けて「今回だけなんで…」と頼む冴木君。
「…お父さんは?なんて?」
「お父さんは「ミヤやったら安心や~連れて行き~!」って言うてた。」
「…まぁ、お父様はそう仰って当然でしょうね。」
わ…宮神が断れないショックで何かを諦めた顔してる…。
美形は諦めた顔も綺麗だな…。
「ごめんね…今度の休みは一人で過ごせるように私からお願いしておくから…。」
どこか遠くを見つめている宮神にそう言うと、何回か頷いてから「ありがとうございます。」とお礼を言ってくれた。
「でも!こんな顔してますけどさっきまで武文さん「楽しみだ」って言ってましたよ。」
「そっか……へ?武文?冴木ミヤのことそう呼んでんの?」
「え?あっ」
「ぶっ殺すぞ冴木ィ!!!!!!!!」
「と、いうことで旅行に行こうという話になりました。」
「すまん晶、微塵も意味が分からん。」
「「ということで」じゃないよ晶さん…。」
「七月の中盤から夏休み始まるやん?」
「こいつ微塵も話聞いてねえな。」
「諦めろ智明、この馬鹿に人の話を最後まで聞く脳はない。」
「やから8月の頭から一週間くらい一緒に旅行できたらええな~って思ったんやけどどう待って明人さっきめっちゃ酷い事言わんかった?」
晶の話では…知り合いの知り合いが民家を貸してくれたんだっけ…?
なんか…関係遠くね…?
なんて一人で考えていると、姉さんが僕の顔を見て
「明人は行きたい?明人が行くなら行こうかなって思ってたんだけど…。」
と言いながらこっそり龍馬さんと晶を指差した。
…え…?僕が行くなら…行く…?
「仲良しやな~!ええやんええやん!あっきーどうする??」
相変わらず晶は能天気だし…。
「明人君一緒に行かない?どうせならみんなで行った方が楽しいと思うんだ。」
龍馬さんは優しい上に可愛いし…。
…どうしよう。
夏休みか…課題山ほどあるけど…一週間出来なくてもそれ以外で何とかすればいいし…絵も画材持ってけばそれなりに描けるかな…?
最悪メモ帳とペンを買えばいいし…いやそれなら持ってったほうが金使わなくて済むか…あ、ついでに課題も持っていくか?でも僕だけ持ってって浮きたくないし、かと言って今「あっちで課題出来るかな」とか言ったら空気読めないとか思われそうだしそれに風呂は?誰と入るんだ?
一人でなんて入れないだろうし待ってトイレは?ここ何か月かは気分的に男子トイレに入れなくて外では全然行ってなくて…ていうか学校のトイレがクソみたいに汚いのが問題の始まりなんだよなー掃除したくないのか汚いのが嫌なのか掃除当番のやつサボりまくってるしこの前なんか「今日トイレ掃除だ~ラッキー!」とか言い出すバカもいてああもうなんか腹立ってきたな「ちょっと男子~!?」って言いながら男子トイレに突入してやろうかな…そういえば高校で思い出したけど学食で新しく出たゼリークソ不味いらしいけどどれくらい不味いんだろう…ちょっと気になるな…あれ待って僕何考えてたっけ?
「ねぇ晶…明人君何考えてるのかな…。」
「分からん…三分くらい黙ったままやな…大丈夫かな…。」
あぁあぁ思い出した思い出した!夏休みだ!
とりあえず「行きたいけど不安な事が沢山あって悩む」って言えばいけるかな、よし、これで行
「あ…明人君大丈夫?ほっぺにちゅーしようか…?」
「行きた待ってなんて言いました!!!!!!!!!!??????????」
「俺明人のこんなでかい声初めて聞いた。」
「うちも。」
「…で、明人君?明人君はどうしたい?」
…取り乱した。
ていうか…この髪長い女凄いな…大声出したのに全然驚いてない…名前なんだっけ?忘れた。ごめん。
…僕が、どうしたいか…か。
トイレに行きたくない?風呂は一人がいい…?課題?絵?
……うわ、ただのわがままじゃん…全部…。
…。
「…ねえさん。」
「ん?どうしたの?」
「…泊まる時、姉さんと」
「うん。」
「…同じ部屋にしてくれるなら、行く。」
「じゃあ詳細はまた送るわ!しばしお待ちを!」
「うん!また今度ね!」
帰り道。
僕の隣を歩く姉さんの横顔を見ていると、僕が見ている事に気付いたのか、姉さんが優しい声でこう問いかけてきた。
「明人、旅行楽しみ?」
…楽しみか…って、そりゃあ…。
「…うん、僕旅行とか行った事無いから…楽しみ。」
ニコニコと微笑んでいる姉さんにそう言うと、少しだけ考えてから一度手を叩き、懐かしむような表情でこう呟いた。
「あーそういえば…小学校の修学旅行インフルになって行けなかったね…。」
「うん…姉さんと沖縄行きたかった。」
「その頃は学校違ったじゃん…。」
「いや、姉さんの小学校と行く場所も時期も被ってた覚えがある。」
「本当?」
「うん、だから行きたかった。」
「可愛い事言うなぁ…。」
「その頃は姉さんの事大好きだったから…。」
「今は?」
「……いや、今はそんな話じゃないじゃん。」
「確かに。ごめん。余計な事言った。」
……。
「…ねぇ、姉さん?僕があの時、さ?」
「うん。」
「「行かない」って言ったら…本当に姉さんも行かないつもりだったの?」
「?うん。」
「…なんで。」
「また発作が出たとき一人だったら困るでしょ?」
「……確かに…困る…かも。」
「それに…もう明人が居ない旅行なんてしたくない。」
「……うん。」
「…あれ…?」
「龍?どした?電話誰も出ないのか?」
「うん…お父さんもお母さんも出なくて…仕事が忙しいのかな。」
「あー…そうかもな。」
「どうしよう…一週間なら大丈夫かな?」
「大丈夫だと思うけど?もし怒られそうになったら俺も一緒に謝りに行くよ。」
「智明…ありがとう…。」
「一応俺からも連絡しておこうか?俺の言葉なら龍のお父さんお母さんも文句言えないだろ。」
「お願いできる…?ほんとに色々ありがとね、智明。」
「おう、気にすんな。」
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