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三章
19話 今頃
しおりを挟む廊下がざわざわと賑わっている。
いつもの比じゃないくらい。
「…?」
なんか…嫌な予感がするな…。
関わらない方がいいと思ったけれど、恐怖心よりも好奇心の方が勝ってしまい、廊下に出てみる事にした。
そして、目の前にいた、ひそひそと話している同じクラスの男の子二人に話しかけてみる。
「ねえ…何があったの?」
「あー、なんか女の事で揉めてるみたい。」
…女の事…?浮気とかそんな感じの話かな?
僕には関係ない話だろうな。
でも…こういうゴシップとか三角関係は智明の大好物だから…教えたら喜んでくれるかな…。
なんて呑気な事を思いつき、
「誰と誰が揉めてるとか…分かる?」
と尋ねてみると、隣の子と目を合わせ少し複雑な表情をした。
「…智明さん、確か…幼馴染だったよね…?」
「……えっ…?」
すると、この子の隣にいた子が、僕の肩を叩き耳にそっと囁いた。
「なんか…いきなり殴りかかったらしいんすよ…親の仇か!ってくらいボッコボコにしてて…」
…あいつ何してんの。
智明の女の話…多分朱里さんの事で何か揉めてるんでしょ?
賢い智明なら…もっとうまいこと出来たはずじゃないの…?
「…教えてくれてありがとう、君、名前は?」
と尋ねると、僕を真っ直ぐ見つめて、自己紹介してくれた。
「澁澤環、こいつは丸岳徹。」
…しぶさわたまきとまるおかてつ…
アニメに出てきそうなくらいかっこいい名前だな…。
…僕も人のこと言えないくらい名前かっこいいけど。
……なんて、言ってる場合じゃない。
ふざけるな、松田龍馬。
すると、徹くんが人混みの方を指差して
「俺ちょっと保健室行って色々貰ってきますね!」
と言いながら、環くんと僕にお辞儀をして保健室に走っていった。
「…環くんは智明と仲良いの?」
と尋ねると、首を振りこう答えた。
「…いや?名前しか知らないよ。」
「…そっか…」
…名前しか…か。
じゃあ…智明に対して悪い印象持っちゃうよね…。
……ちょっと、悲しいな。
根はいい奴なのに。
環くんの隣に立ち、環君の顔を横目で見てみると……顔つきというか…雰囲気が、どことなく智明に似てるような……。
その時、ざわざわ声がいきなり静かになった。
…何だろ。
行こうとすると、環くんが僕の肩を掴みこう言った。
「…今の智明さんを見たらきっと後悔する。」
…後悔……?
……智明が今、どんだけ血を浴びてようが、傷だらけになってようが
「…そんなんで後悔するくらいなら、今頃友達じゃなくなってるよ。」
と言ってから、環くんの手をぽんぽんと叩くと、
「……なら、良いんです」
ふんわりと笑って、人混みの方を指差した。
…環君…やっぱり智明に似てる。
似てるのを理由に何か余計な事を言われたりしないかな…。
余計なお世話だろうけど…損はしないよね…。
「環君も…色々気をつけてね。」
と言いながら環君に向けて手を振ると、手を振り返しながら優しく微笑んでくれた。
「うん、ありがとね……松田君。」
松田君…?
松田じゃなくて龍馬でいいのに…って、僕若干智明化してない…?
…智明…、待ってて。
ぐっと体の中心のあたりに力を入れ、人混みをかき分けながら中心にいる智明を見つけに行く。
…不思議だな、クラス表を見に行くときはこんな勇気なんて出なかったのに。
よし、もうすぐ中心だ…智明の金髪が見
「…………!」
名前を呼ぼうとしても、声が出なかった。
智明は、黒髪の男の子の胸ぐらを掴み、
幼馴染の僕でさえも見たことないくらい怖い顔をしていた。
「と……むぐっ…!」
また名前を呼ぼうとすると、口を塞がれ、無理やり智明から遠ざけられてしまった。
「…今あいつの名前呼んだらお前がターゲットになんぞ。」
…晶さん。
「すまん、苦しかったよな。」
「…晶さん……智明…何があったの?」
僕の口を塞いだ事を謝りながら、僕腕を掴み、どこかへ連れて行く晶さんを見ると、腕や脚、よく見たら首のあたりにも包帯が巻かれていた。
「……怪我してるの…?」
「せやで……智明はな、うちのせいであんな荒れてるんや。」
……晶さんのせいって…?
「晶さん…それどういう意味…?」
と、早歩きで歩いている晶さんに尋ねたその時、廊下にいる環くんと目が合った。
環くんは、晶さんを見た瞬間目を見開き、
「…晶……?」と小さな声で呟いていた。
……知り合い…?
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