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二章
14話 笑える
しおりを挟む教室から、複数の人の声が聞こえた。
当たり前といえば当たり前なんだけど、不自然にガヤガヤしてる。
……何かあったのかな。
と思い、そっと教室を覗くと、明人君の周りを見覚えのある女の子達が囲んでいた。
「あんたさ?智明に守ってもらったからって調子乗ってんでしょ。」
と、明人君の前髪を掴みキレる、いじめの主犯格の女の子。
…智明は…そっか、今日バイトか…
本当陰湿だな、もう。
…止めに行こう。
微力だしヘタレだけど…僕も明人君の救いになりたい。
「ちょっと…!何し…。」
教室に足を踏み入れると、クラスメイトの一人が僕の前に立ちはだかり
「おいおい!邪魔する気ー?」
と、半笑いで止めてきた。
…なんなの、誰この人…。
「…明人君をいじめる必要ないでしょ?」
クラスメイトの顔をじっと見て言っても
「あんなのいじめじゃねえって!」と躱される。
……あれがいじめじゃない?
明人君の前髪を強く掴んで罵るのがいじめじゃない?
どう考えてもあれはいじめでしょ…本当胸糞悪い…。
…くそ…。
……そうだ、あの能力って使おうと思えば使えるのかな。
「…僻みとか嫉妬でいじめるなんて下衆がやることだよ。」
と、目に力を入れて言ってみても、少しだけ驚いてから
「何…手品?カラコン?へー、上手だねー!」
と馬鹿にされてしまった。
…クソが、空気の読めねぇ馬鹿だな。
「…どいて、明人君に意地悪する必要なんてない!」
無理矢理通ろうとしても、そいつに邪魔をされて通れない。
「明人君…!!」
名前を呼ぶと、明人君が恐る恐る、僕の方へ顔を向けてくれたんだけど…。
その彼の頬が、びっしょりと濡れていた。
…泣い…てる…。
「あき…と…君……。」
…僕が…もうちょっと…智明みたいに力があれば…。
……。
「はいはい仲良しだねー!おら早く帰れよ!」
ショックで軽い放心状態になっていたせいで、ろくに受け身が取れず、思い切り廊下に倒れ込んでしまった。
「ぐっ…!」
腰思いっきり打っちゃった…。
……いや、僕よりも明人君の方を優先しなきゃ。
…目を光らせるのがダメなら…。
……そつだ、他の夢を使おう。
と思い、少し前に彩さんが見せてくれた夢を思い出す。
何か、何か……明人君の助けになれる夢を…。
智明みたいに軽く躱して…2度と手を出させないようにする…そんな感じの…強い人の夢…。
必死に脳を回転させていると、ふと、一片の報いのアリスの顔が浮かんだ。
あの、冷酷な執事を。
……そうか、アリスになればいいんだ。
明人君もアリスが好きだって言ってたし、ちょうどいい。
そう決意し、そっと立ち上がると、全身にじわじわと怒りが満ちていくのを、腰の痛みや喜怒哀楽までもが脳の隅に溶けて消えていくのを感じた。
アリスは、こんな感覚をいつも味わっていたんだな。
「んだよ、しつけえな…早く帰れって!!」
僕の身体を突き飛ばそうと伸ばされた右手の手首を掴み、ぐいっと僕の方へ引き寄せてから、少し背伸びをして、そいつの耳元にそっと囁く。
「……どけよ、モブが」
「………っ…!!」
クラスメイトを掻き分け、明人君の方に向かう。
「りゅうま…さん…りが……ござい…ます……。」
すると、明人君が僕が来たことに気付いた途端、更に涙を流してしまった。
…明人君…怖かったね。
僕が来たからもう大丈夫だよ。
「…帰ろっか、明人君。」
微笑んでから明人君の髪と頬を撫でると、涙を拭いながら小さく頷いてくれた。
その時の僕は気付かなかった。
いや、気付くはずもなかった。
涙を拭いながら、何回も頷き、
僕に「ありがとうございます」と何回も呟く
明人君の頬が、ニタリと歪んでいることに。
20XX年 4月25日 水曜日
今日は夢にまた怪物が出てきた。
今度は、おっきいビル街に
怪物を見て、人が叫びながら逃げていた。
小さい子が怪我をして、お母さんの名前を呼んでいたのが印象的だった。
すると、怪物が僕を見て、僕めがけて襲いかかってきた。
僕は怪物から逃げる為に色んな所を走った。
フェンスとか、ビルとビルの間を飛び越えたり…
正直、結構楽しかった。
これこそ夢って感じだよね。
まぁ、最後はビルから落ちて終わったけど。
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