白い男1人、人間4人、ギタリスト5人

正君

文字の大きさ
上 下
40 / 60
二部

狂信

しおりを挟む


 ごく普通の町。その町に、魂を悪魔に捧げた者がいると聞き、町は混乱に陥ったが、その者を町の者の手で裁くことで団結した。

 そして、月が昇って日付が変わった時、町の人は誰が悪魔に魂を売った者なのか思い出した。



「あの子だ。」

 金髪に青い瞳、笑顔が可愛らしいと評判だったスノー。しかし、その評判は作られたものだったのだ。



「俺たちが、あの罪人の娘を好きなはずがない。今まで、なぜあれを好きだったのか・・・答えは簡単だ。」

 悪魔に魂を捧げたのは、スノー。それが町の決断で、すぐに町は動いた。男衆を集めて、町のはずれの小屋に向かう。



「こんな不気味な場所に住むやつを、今まで何の疑いもなく接していたとは。」

「それが悪魔の力だろう。」

「だが、気づかなかった罪が問われる。教会に知られる前に・・・いや、神父が来たということはもう知られているのか。」

「しかし、神父様は言っていた。この町のものの手で終わらせろと。なら、今からでも遅くはない。」

 ぎらついた目で、男衆はスノーの家の扉を睨みつけた。そこからは何も言わず、一人の男が、工具を使って扉をこじ開ける。



 むわっと異臭が外に漏れだして、男たちは顔をしかめた。



「さすが、悪魔・・・いや、魔女の小屋と言ったところか。」

「ものすごい匂いだ。この匂いは・・・」

 ランプを持った男が、口を押えて先に進む。すると、声にならない声を上げた。



「これはっ・・・!?」

「どうした?なっ・・・」

 男たちは、目の前に広がる光景を目にして、吐き気がした。その光景は、自分たちがなそうとしたことと変わらないというのに。



 床に散らばる金髪、見開かれてむき出しになっている青い瞳。白い肌は、もう血の気など通っていない、青白く、その胸に赤い血が広がっていた。

 それは、明らかに死んでいるスノーだ。



「あぁ、スノー・・・もう終わりだよ。」

 スノーの死体の横で、心底残念そうに少年がつぶやく。

 あまりの異様な光景に、頭に血が上っていた男衆も顔を青白くさせた。



「今、追いかけるよ。もっと、君を楽しみたかったけど。」

 少年は握りしめていたナイフを持ち上げて、自分の胸に刃を向けた。



「何を・・・」

「やめるんだ!フォグ!」

 少年の背後で、青白く光る青年が叫んだ。その青年に今更気づいた男衆は、声も出せずにその光景を見守った。



「スノー、愛しているよ。」

「フォグっ!」

 青年の言葉など聞こえていないようで、少年は青年を振り返ることもなく、ナイフで自身の胸を貫いた。



 それは、呪われたナイフ。少年の力でも、骨をたやすく突き破り、心臓までその刃を届かせた。絵に装飾されたどくろが、にたりと笑うのを、男衆は見てしまった。







 男衆が気付いた時には、青年は姿を消していた。

 そして、念のために確認した2つの体は、完全に死体だった。



 町は、少年を英雄としてまつり、スノーを魔女としてさらすことにした。そうしなければ、罪に問われると思ったのだ。



 丁重に葬られた少年と野ざらしにされ、見るも無残な姿となったスノーは、当然離れ離れとなり、共に墓に入ることはなかった。



 それを、遠く見守っていた神父は、踵を返して笑った。



「ケタケタケタ!最高だな。最高だ。これからも楽しませてくれよ、かわいいおもちゃたち。」

 新たな契約を果たした神父の姿をした悪魔は、そう上機嫌に笑って消えた。







 悪魔と契約した魂は、悪魔に食われて輪廻の輪を外れる。しかし、2人の魂は別の世界へと転生し、命を繰り返すことになる。



 これは、2人の呪われたゲームの序章だった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。 飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。 ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた—— 「そこに、"何か"がいる……。」 科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。 これは幽霊なのか、それとも——?

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

最後の灯り

つづり
ミステリー
フリーライターの『私』は「霧が濃くなると人が消える」という伝説を追って、北陸の山奥にある村を訪れる――。

幽霊探偵 白峰霊

七鳳
ミステリー
• 目撃情報なし • 連絡手段なし • ただし、依頼すれば必ず事件を解決してくれる 都市伝説のように語られるこの探偵——白峰 霊(しらみね れい)。 依頼人も犯人も、「彼は幽霊である」と信じてしまう。 「証拠? あるよ。僕が幽霊であり、君が僕を生きていると証明できないこと。それこそが証拠だ。」 今日も彼は「幽霊探偵」という看板を掲げながら、巧妙な話術と論理で、人々を“幽霊が事件を解決している”と思い込ませる。

泉田高校放課後事件禄

野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。 田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。 【第32回前期ファンタジア大賞一次選考通過作品を手直しした物になります】

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...