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二部
うんち
しおりを挟む恋人ができて一年経った。
恋人のおかげで、生まれて初めて同性の友達ができた。
その子は私に遊び方を教えてくれた。
悪い遊びじゃなくて、どれだけ無駄な時間を過ごせるかを競ったような、そんな遊び。
彼女は私にこう言った。
「うんちみたいな時間潰し教えたげるね」と。
彼女の言ううんちみたいな時間潰しは、ゲームセンターで破産したり、アニメショップで何を買おうか2時間悩んで結局何も買わなかったり、好きなキャラクターのグッズを横に並べて写真を撮ったりする事だった。
それ以外にも、ゲームセンターで、アーケードゲームを日が暮れるまで続けたり、コンビニを5~6件巡ってくじを引ける場所を探したり、顔だけの丸い人形を重ねて置く場所を、自分の部屋の中から必死で探したり、好きなアイドルのMVを0.25倍速で再生して、恐らく彼女の好きな人が物凄い顔で止まる度に「これは違う!事故だ!事故画で笑うのは10代前半で終わった!」と画面を覆い隠したりしていた。
その遊びの延長に、アイドルのコンテンツを見て「この人と結婚する」なんて、恋人が居るにも関わらず冗談として言ったり、好きな人達のグッズを並べて本人不在の誕生日会をする遊びがあった。
彼女は「これが私の本職だよ(怒)」なんて眉間にシワを寄せながら言ってて、その姿が楽しそうに見えたから、私も彼女と一緒になって遊んだ。
人生で初めての経験だった。
同性の友達が破産して泣いている姿を見るのは。
交通費なら出すよと言っても、無視して5時間の距離を歩いた人を見たのも。
私も一緒に歩きたくなったのも、初めてだった。
足を痛めて泣いたのも、初めてだった。
とても、はちゃめちゃに嬉しかった。
彼女を見下す馬糞が現れた。
それは悲しくも、私の両親だった。
家族の事は尊敬していた。だけど、彼女を、否定された。
欲に忠実に生きて、目の前の幸せを一つ一つ噛み締めて生きている彼女を、否定された。
太陽よりも暖かく、海よりも広い心を持つ彼女を、否定されたのだ。
馬糞だなんて、そんな親不孝なことを言ったのも、これが初めてだった。
そんなある日、隠れ家という存在を知った。
そこは、私を尊敬してくれる神足さんという女の子が見つけた場所だった。
行こうか、迷った。
親の顔、恋人の顔、色んな人の顔が浮かんでは、消えていった。
「雲母坂さんがいるなら、行きます、資金も、私が出します」
「ご両親にはなんて言うつもり?」
彼女はそう言った。
なんて言おうか、大体、五分くらい悩んだ。悩んでしまった。
すると、彼女は、私を怒ってくれた。
「あのね御陵ちゃん、ご両親の事は大切にしなきゃダメだよ」
彼女は、いつも正しかった。
いつだって、私を、導いて、教えて、大切にしてくれた。
大事なお姉ちゃんみたいだった。
「きらら、今度あそこでイベントやるらしい」
「なにそれ、みっちゃんそれマジ!?ソースは?」
「公式サイト」
「わー…え、例の人来る?」
「……来ない、けど例の人の彼氏は来る」
「彼氏!?ダメだよオタクに殺される!」
「ごめん、でも本人も言ってたから」
「それもそうか、行こ行こ」
「うん」
「チケットが当たったら」
「行こう、チケットが当たったら」
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