白い男1人、人間4人、ギタリスト5人

正君

文字の大きさ
上 下
39 / 60
二部

うんち

しおりを挟む
 なんだか悔しくて涙目になりながら食事を進める。
 はぁ……なんでこんなことに……。
 溜め息が出る。

「優希? どうしたんだ?」
 手を止めて溜め息をつく俺に気がついたのか、藤條が心配そうな顔で覗き込んできた。
 いや、原因はお前だから。
 藤條を見て、再び溜め息が出る。
「?……さて、そろそろ行かないとな。ちょっと今日は遅くなった」
 首を傾げる藤條だったが、急に立ち上がるとそう言って俺に手を差し出す。
 遅くなったのもお前のせいだろがーっ!
 頭にきて、俺は藤條を無視して席を立つ。
「あ……ごちそう様でした……」
 席を立ってから思い出して、橘さんに声をかける。
 あれ? そういえば、他にメイドとか――コイツの家族は?
 ふと気になって周りを見たが、俺達3人しかいない。
 なんだろう……この感じ。
「優希、ほら、用意しなきゃ」
 ぼんやりしている俺に藤條が話し掛けてくる。
「あ……うん」
 生返事をしながら俺は藤條の後に続いた。



 ☆☆☆



「どうぞ」
 橘さんが車のドアを開け、にこやかに俺を見ている。
「…………」

 なんだこれ。
 いや、なんとなく想像はしたけど……これなんだっけ? ベンツ?
 車で送り迎えかー!
 この坊ちゃんがっ!
 目の前の、シルバーの高級車に俺はなんだか腹が立っていた。
 いや、車で送ってもらえるなんて体験したことないし、ちょっとした感動でもあるんだけどさ。
 なんとなく、ムカつく。

「優希」
 俺がむくれていると、藤條が俺の手を掴んで車に乗り込む。
 俺は歩いてく……って言おうかとも思ったけど、コイツの家から学校までどれだけあるか分からない。
 まぁ、今日は乗ってやろうじゃねぇか。

 ゆっくりと車は進む。
 ここどこなんだろう。
 俺は車の窓からじっと外を眺めていた。
 あまり見たことないような景色。
 いや、知ってるかもしれない。
 不思議な感覚だ。

 車に乗って10分。
 俺はずっと外を眺めていた。
 藤條も特に話し掛けてもこなかった。

「優希」
 しかし、ぼんやりと外を眺めていたら、急に声を掛けられて横を見る。

「んんっ!?」

 ぬわーっ!
 バカーっ!
 横を見た瞬間にキスされた。
 ちょっと待てーっ!
 バシバシと藤條の胸を叩く。
「いたっ、痛いって、優希っ」
 数秒間ほどくっついていた藤條の唇がやっと離れて、顔をしかめながら声を上げる。
「うるせぇっ! 何すんだっ! このっ、変態っ!」
 俺は涙目になりながら思い切り睨み付けた。
「……変態って……」
 藤條はがっくりとうな垂れていた。
 当たり前だ。お前なんか変態以外の何者でもないわっ。
 落ち込んでいる藤條を無視して再び窓の外を眺めた。
「あっ!」
 気が付くと、もう学校の校門近くまで来ていた。
 校門の100メートルくらい手前に車は止まる。
 そして、橘さんは車から降りると後部座席のドアを開ける。
「どうぞ」
 俺はすぐに車外へと降りる。
「橘さんっ、ありがとうっ」
 橘さんにお礼を言うと、藤條が降りてくる前に俺は走り出した。
 コイツと一緒に登校だなんてごめんだっ。
 後ろから俺を呼ぶ声が聞こえたけど、無視だ無視。
 あんな変態野郎。

 必死に校門まで走り続ける。
「はぁ……はぁ……」
 大した距離じゃなかったけど、妙に息切れした。
 目の前の見慣れた学校。
 ここは俺の知ってる学校なんだろうか……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。 飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。 ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた—— 「そこに、"何か"がいる……。」 科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。 これは幽霊なのか、それとも——?

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

最後の灯り

つづり
ミステリー
フリーライターの『私』は「霧が濃くなると人が消える」という伝説を追って、北陸の山奥にある村を訪れる――。

幽霊探偵 白峰霊

七鳳
ミステリー
• 目撃情報なし • 連絡手段なし • ただし、依頼すれば必ず事件を解決してくれる 都市伝説のように語られるこの探偵——白峰 霊(しらみね れい)。 依頼人も犯人も、「彼は幽霊である」と信じてしまう。 「証拠? あるよ。僕が幽霊であり、君が僕を生きていると証明できないこと。それこそが証拠だ。」 今日も彼は「幽霊探偵」という看板を掲げながら、巧妙な話術と論理で、人々を“幽霊が事件を解決している”と思い込ませる。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

泉田高校放課後事件禄

野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。 田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。 【第32回前期ファンタジア大賞一次選考通過作品を手直しした物になります】

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...