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一部
脇おにぎり
しおりを挟む恋をした花屋は、キモかった。
物凄く、物凄く気持ち悪かった。
花屋は毎日その人の事を考え、仕事も手につかず付きまとい、その人のSNSアカウントを特定し始めた。
フォローするわけでもなく、アカウントが知られているにも関わらず、大好きなその人が呟いている言葉全てを記録し、その人が欲しがっている物全てを買い、渡すのかと思いきや何故か花屋本人の私物にし、その人の前でこれ見よがしに使用し、花屋の持ち物を借りたがっているその人へ貸してから、返ってきた物を食べていた。
花屋は言う。
「あの人を私の一部にしたかった」
そう、気持ち悪いのである。
物凄く気持ちが悪いのである。
異物を食したせいで何度も病院へ運ばれ何度も何度も胃洗浄を受けたが花屋はピンピンとしていた。
本当に気持ちが悪い。
「こんなの書かないでくれ!」
そう叫ぶ花屋。
「「そう叫ぶ花屋。」じゃなくて…!私があの人の私物を食べてるなんて事日誌に書くな!」
日報を小説っぽく三人称視点で書くの楽しそうじゃね~?って言ったのは花屋の好きな人じゃん。
「直接言え!!」
そう言いながら出ていく花屋。
「出ていかせるな!こら!もう書くのやめなさい!」
「あっ!」
…ノート取り上げられた。
かなしいな。
日報が書かれたノートをパラパラと読んでいる花屋さんを見ていると、ふと僕の背後に人が立っていることに気付いた。
「パン屋?」
「うん」
「花屋さんの好きな人知ってる?」
「うん」
「本人にバレてないと思う?」
「ううん」
……やはり。
花屋、天才ぶってるが余す事無く馬鹿である。
「ちょっと、僕の大切な花屋を罵らないでくれるかな」
そんな時…後ろから話しかけてくる…傷の男。
「ちょっとさ!心読むなら「心読むよー!」って言ってからにしてっていつも言ってるじゃん!」
「オンオフはできるけどするとは言ってないからね」
「もー!プライバシーの侵害!」
「私の好きな人についてこんな長文を書いてるお前にだけは言われたくないよ」
花屋さんに日報で頭をぽふりと叩かれる僕。
やはり秀才花屋、口から出る言葉は大体ド正論である。
何も言い返せず黙る僕。
「なにしてんの?」
野良。僕の友達。
僕と同じタイミングで隠れ家に仲間入りした大事な友達。
「花屋の好きな人知ってる?」
そう尋ねると首を横に振り、花屋さんが持っている日報を奪った。
「あっ」
「『我天啓を得たり』?これ書いたの誰?」
「カルマさんじゃないの?」
「あ、それ僕」
「ダメだよパン屋くん、あんな人から影響受けちゃ」
みんなの会話が遠くに聞こえる。
花屋の好きな人について色々、考えてしまう。
「花屋花屋」
「なんだ馬鹿宿屋」
「お店屋さん同士仲良くしようよ」
「そうですよ、ここにパン屋もいますよ?三人で…ほら、ね?」
「パン屋はいいけど、仲が悪くなるきっかけを作った宿屋には言われたくない」
…またもや正論で黙る僕。
「……」
パン屋も同様、答えは沈黙というわけか。
……
ただの言い訳にしか聞こえないだろうし、花屋さんには理解されなくていいんだけどさ。
傷さんには…言っておくね。
僕、花屋さんが病院に運ばれるの嫌だ。
花屋さんが叶わない恋をして苦しんでるのも嫌。
書いた理由はさ、花屋さんの好きな人はもう察しているだろうし、どんなことをされても花屋さんを「気持ち悪い」って言って避けたりもしないだろうから書いたんだ。
物食べる癖、直接言ってもやめなかったから…文字にして、自分の行動を自分で読んでみたら「ダメなことしてる」って…分かってくれるかと思って。
傷さんは僕にしか聞こえない声でこう言った。
「確かに、花屋には理解できないかもね」
頭を軽く撫でられる。
……もっといい方法あったかな。
「食べる事に関しては花屋の好きな人も心配してるだろうし僕も嫌だからやめて欲しいけど…」
……うん
「僕は、花屋にあの人を諦めて欲しいと思わないよ?あの人への想いを片想いで終わらせたいって言ったのは花屋だからね」
でも、花屋さんはいつもあの人の後ろ姿を見て…悲しそうにしてるから…。
「じゃあ日報は僕がなんとか処理してあげるから…宿屋は花屋のそばで「気持ち悪い」って言ったことのお詫びしなさい、いいね?」
……ごめんなさい。
二人でこそこそ話していた時、僕の友達である野良が花屋の肩を軽く叩きこう言った。
「花屋、宿屋は花屋が可愛くてからかいたかったし、思いは無駄にしちゃいけない、どうにか良い感じになって欲しいって思って書いたんだよ」
「なんでそんなに過保護なんだ」
「その証拠に…ほら、消せるように鉛筆で書いてるでしょ?」
「だからなんだよ」
怪訝な顔をし、野良が指差している場所を見つめる花屋。
すると、野良はノートの一部を指で押さえ
「これを消したら…ほら?「恋をした○○は」になった」
と言った。
……?
「だからなんだ」
「で、隠れたここに僕の名前をいれたら…キモいのが僕になるよ?」
「いやそれはさすがに…待って私の事キモいって言った?」
「花屋でいい」
「花屋にしておこ」
「あはは、僕もそれが良いと思う、野良には似合わない」
「待って私ディスられて終わり?誰か私にも似合わないって言ってよ、傷さん、宿屋、野良?パン屋?ねえ」
「……」
「言ってよ!!!!」
傷さんと僕と花屋さんで会議した結果、応急処置として切り取ることにし、カッターで切り取ってから証拠を隠滅しようとした時……
「あっ」
傷さんの手から、離れた。
僕が書いた…花屋の片想いについて書きなぐった紙が。
「…?なにこれ…なんでカッター持ってるの…?」
……あっ
やばい、みつかった
よりにもよって花屋の好きな人が拾った
「あ」
「あ」
「あ」
「あ」
「あ」
読みながら眉間に皺を寄せている。
「なんかうまいこといかないかな」
小声で話す野良
「うまいことってなに」
「あの人は勘が良いから読まれたら察してしまう」
「花屋……?」
「素直に好きだと言ってドン引きされてくる」
「花屋!待て!早まるな!」
「あの」
「ねえ花屋、これって事実?」
「あの」
「うん」
「アリスさん」
「なに?」
「わ」
「わ?」
「わ、わ」
「わ……?」
「わ」
「……」
「脇でおにぎり作ってください」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……なんで?」
…やはり花屋、気持ち悪い上に馬鹿である。
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