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一部

火傷の原因

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「クロエ、今日の分のお仕事終わった?もう予定無い?」

家族のクロエの肩をぽんぽんと叩いてからこう話しかけると、クロエはイヤホンを外してから数回頷いた。
「もう予定無いけど…今日久しぶりに隠れ家行く?」
やはり私の家族、以心伝心くらい簡単に出来ちゃうんだね。
「うん、一緒に行こ」

と言うと、クロエは「ちょっと待って」と言いながら携帯を操作し、音楽を止めてからイヤホンをくるくると自分の指に巻き付けた。

「雪、日傘はある?」
「用意したよ」
「流石、出来る女、モテモテ」
「ふふ……やめてってそういうこと言うの…」

珍しくクロエにからかわれ、妙に照れ臭くなった私がぐっと顔を逸らすと、クロエは笑い、私の頭を撫でてから鞄を準備し始めた。

…クロエ。
……私が貴方の心を分かるように、貴方も私の心を分かってしまうのかな。
痛む頭と胸。

過去を思い出していたその時鳴り響く無機質なインターホン。

「?」
「私見てくる、クロエは準備してて」
「分かった、雪の分も僕がやっておこうか?」
「ありがとう、お願いね」

笑顔のクロエ。
中毒症状の手の震えが少しずつ収まってきたクロエ。
大好きな家族。

家族。

嫌な、予感がする。
何故私が今更あの人のことを思い出したのか。
寒気がする。





「__!やっと会えた…!」
「…今更何の用…」

私の目の前に立つ男。
昔私と付き合い、私を色々不幸な目に遭わせてきた男。
彼の顔を見た瞬間、火傷の跡がじんわりと痛んだ。

「君とまた会いたくて!ずっと探してて!まさか引っ越したとは…」
「やり直そうとか言うつもり?」

目を見開く彼。

「…誰かから聞いた?」
「誰が貴方の話なんか…」
「でも、君はずっと」
「何?」
「…寂しいんじゃ、ないかって」

彼のこういうところが嫌いだったな、と思い出した。
本心は別にあるのに。
直球に言えばいいのに。
「君を傷つけたくない」なんてエゴで、妙な言い回しで煙に巻こうとするこの人の、こういうところが嫌い。
大嫌いだった。

「共通の知り合いが「あいつしばらく恋人居ないよ」とか言ってたの聞いてまた会いに来たわけ?自分に未練あるって思い込んで?」
と言うと、彼はバツが悪そうに頷いた。
「…あのさ、私家族と二人暮らしして、カウンセリング通って、友達に支えてもらってやっと貴方を忘れられたの、分かる?」
「でも君は」
「でもじゃない、貴方が…」

言おうとした。
あのワードを。
でも胸の奥が痛んだ。
ぐっと。

じんわりと滲む涙。
汗ばむ手。

「…__…」
「…貴方があの時あんなことしなきゃ…私は、私達は幸せに生きていけたんだよ」
「……」
「家族三人で幸せに生きれたはずなんだよ」
「でも」
「「でも」じゃないでしょ…あの時貴方が「責任取れない」「重い」なんて言って逃げなきゃ今頃三人で過ごせてたんだよ?それ分かってる?分かってないでしょ?」

涙が流れた。
軽くなった身体を思い出した。
頼んでおいて病院に来なかったこの人を思い出した。

「…あんまりさ、私のイメージと合わないだろうし、貴方の好きな私で居るために言わなかったワードがあるんだけど、この際言わせて」
「……」
「次またここに来たらあんたの事ぶっ殺してやるから」






 
「雪、準備できたよ…さっき来てたの誰?」
「セールスだった!準備ありがと!行こ?」
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