白い男1人、人間4人、ギタリスト5人

正君

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一部

男郎花

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少女は、美人だった。
皆が憧れ羨望し渇望するルックスを持った少女は、自らが少女であることを恥じていた。
自分みたいな人間が女の子だなんて、と何かへ遠慮していた。

リップを塗る同い年の友達を見て妙な気分にもなっていたのだ。
しかし「貴方も使う?」と聞かれ、遠慮する理由が浮かばなかった彼女は自らを潔癖症だと偽り日々を過ごしていた。


そんな時、彼女に好きな人が出来た。
しかし少女の切ない初恋は淡く消え、手元に残ったのは彼を想って買った色付きのリップだった。

女の子になろうとした。
けれど彼女には合わなかった。
どうしても、似合わなかったのだ。

そんな時、憧れの存在が出来た。
名は一口。男4人組バンドのベーシストだった。

ベースの腕は勿論、低い声に不健康そうな色味の唇、そしてどぎついアイシャドウ。
一口は凛々しくもあり儚くもあり、彼は少女がなりたい姿そのものだったのだ。
彼らのライブに通い、一口に認知され、彼に憧れてベースを始め、素晴らしく楽しい日々を送っていた少女。

しか、一口は脱退した。
脱退理由はメンバーやファン全員に重大な嘘をついていたから。

少女はぼんやりとした脱退理由に困惑し、色んなサイトや色んな文献を読んだ。
読み漁った。
その結果、少女は、気付いてしまった。
一口の身体は女性なのではないかと。

この事に気付いたのは少女だけだった。

みんな察しが悪いなと思いながらも、誰にも気付かれてはいけないと、一口を守りたいような、なりたい自分を見つけたような、そんな気分になった少女は興奮していた。
悦に浸っていた。





「こんにちは、新入りのおみな……」
姉に連れてこられた薄暗い寂れたバーでそう呟く少女。
顔を上げると、目の前には一口にそっくりな人間が居た。

困惑した。
一口も同様、困惑していた。
「何故ファンがいる」と。
しかしそれを言おうとしてやめた。
一口はこの場所では素の自分で居たからだ。

少女は、我慢出来なかった。

「」
気付いたらそう呟いていた。慌てて口を押さえる少女。

一口は口を塞ぐ手を掴み、潤む瞳で少女へこう伝えた。
「俺は女じゃないんだ」と。

言い訳だと思った。
しかし一口の体つきや喉仏を見た少女は、困惑した。
それと同時に思い出した。
そういえばバンドの時、一口は日によって服装がコロコロ変わっていたな、と。




数年後、隠れ家は賑わい、一口と少女の部類は人間へと変化した。

先輩、後輩と呼び合う二人は、端から見るとまるで兄弟のような、姉妹のような雰囲気を感じる。




過去は、多分これで合ってると思う。
いや、これで合ってる。
未成年の頃の事はちゃんと覚えてる。

いろいろ書きたい事が山ほどあるけど手の震えがきつくてもう文字を書けそうにない。
姉の雪が心配してるからそろそろ終わります。
ありがとうございました。
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