カルバート

角田智史

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 さき 7

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 さきは最初から、一年後に、都会へ出ると言っていた。姉さんのところに行くようだった。
 ただ、一年後と言っていた事が、今年の夏になり、そして7月になり、6月末になりと、聞く度に段々と短くなり、結局、6月末を待たずにMKを去る事となったのだった。
 さきの最後の日には、もちろん僕はMKに行こうと思っていたのだったが、
 〔きょーきてよ〕
 と、さきからもLINEがきて、僕はMKに向かった。またも古賀さんがきていて、僕は古賀さんの右隣に座った。その日が最後だという事は、誰にでも言ってるわけではないようだった。
 そこで見るさきは、今までで一番楽しそうにしていた。当初、なかなか自分を出せていなかった女の子達とも徐々に仲良くなっていた。何より、ぎらついた男関係にさき自身が疲れていたのは十分に見てとれていた。そこからの解放はさきにとっても、僕にとっても喜ばしい事だった。
 最後だからと、ここみは気を遣って、さきを僕の横に座らせた。高いシャンパンも開けさせられた。

 カウンターの下で手を握った。
 「すごく大事にしてくれたしね…、さとし君は今も大好き。でもさとし君好きって言ってくれんもん。」
 さきは最後の最後まで、どうしようもない事を言ってくれた。

 MKのドアを開けて、僕が帰る時、さきとここみが見送りにきた。
 僕は廊下で、両手を広げた。
 さきは駆け寄ってきて、僕はそれを抱きしめた。
 それを嬉しそうに見ていたここみは
 「チューしろ!チューしろ!」
 とけしかけてきたのだった。

 酔っていた事と、さきとの最後、それがあって、この僕らの全てを古賀さんが見ていたのを僕らは全く気に留めてなかったのである。まるでそこに居なかったかのように。

 次に古賀さんと飲んだ時に、
 「こないだ酔ってたよね!?」
 と言われ、ハッとしたが、さきから何もかもを聞いていた僕と、僕とさきの事を何も知らない古賀さん。

 あの最後の瞬間を汚されたくなくて
 「酔ってましたね。」
 と一言、無表情に返して、僕はそれ以上、その話題に触れる事を許さなかった。
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