カルバート

角田智史

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 幕章

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 山之内も、正造も、真理恵も、そしてさきも。

 僕の心をずっとずっと離さなかったこの濃いキャラ達はもう、僕の前から忽然と姿を消した。
 僕の成長にはきっとそれが必要で、彼らが僕の前に現れてくれたんだと思う。
 濃いキャラに囲まれて、日々、濃い生活を送る事ができた。そういった意味ではそれぞれ1人1人に人一倍、感謝している。

 僕の中の延岡での3年と少しの生活。
 その全てが、これに詰まっていて、それを僕自身が締めくくろうとしている事。
 職場でずっと大きな案件、難しい案件に立ち向かい、どこかでいつも仕事の事が頭から離れなかった。そんな状態が普通だった。それが今、ほとんど無くなっている事。
 
 若いスナックのママのガン保険を取る事。
 ずっと気にかけていた真理恵がMKに勤めた事。
 夜のかわいい女の子と関係を持つ事。
 18年ぶりのかおりとの再会。
 それらの念願が次々と叶っていった事。
 営業としての全国表彰。
 私生活での限界。

 そんな中で立っている異動の噂。

 もろもろの出来事,その全てが、それに向かって走っているような気がして、ならないのである。

 次のステップ。
 新たな旅路。

 これを完結させる事こそが、僕自身の次のステップに必要な事だったのではないか。

 鉛筆からキーボードへ、ノートからスクリーンへ、投稿サイトへの投稿、初めての試みが、僕には新鮮で、何より楽しみで、実際に楽しかった。思いの他、筆が進む部分も、そうでない部分もあって、それはそれで僕自身の振り返りとして、自身の中での驚きでもあった。冒頭で書いたその通りだった。
 前作を超えるボリュームと、エピソード、面白さで書き綴れた事は僕の中で大きな自信となった。




 また君に会う事があるだろうか。
 君はいつもそうやって僕を試す。
 僕にとってそれは確かに、楽しい事、そうなのかもしれない。
 けれど、それに至るには、どれだけ、心を痛めつけられるだろう。
 どれだけの事を飲み込んで、どれだけの事をしょい込まなければならないだろう。
 僕はそうならない事を願いながら、そうなる事を切に、望んでいるんだ。

 また会う日まで。
 
 そう単純に言う事は簡単かもしれない。

 ただ、僕の中では、また会う事は苦しくて嬉しく、もう会えない事は嬉しくて寂しい。

 僕の中で地下水が流れ続ける限り、それはずっと繰り返されていく。

 
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