カルバート

角田智史

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 真理恵にくびったけ 6

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 それから真理恵からの返信は途絶え、1週間後にまた返ってきたのだった。
 〔今度の月曜日か、火曜日どうですか?〕
 と。それは、ラウンジの様子が見たいという真理恵の要望だった。おそらくはそこで、働こうとしているんだろうと思った。
 返信が遅い事に動じなくなっていた僕は、月曜日に行こうかと返信した。
 〔ご飯も行くやろ?〕
 〔ご飯もっ!行きましょう!〕
 僕は、串カツ屋に行こうと思っていた。元々、真理恵と綱吉に行く時も、それ以降もずっと、串カツ屋は候補に挙げていたのだった。界隈に2店舗しかない。一店舗は老舗で、もう一店舗は最近オープンしたばかりであった。
 僕が串カツ屋に誘う女の子は限られていた。まきとしか行っていなかった。今の嫁と最初に行ったご飯屋が串カツ屋であったからである。

 まきと同伴に行き始めた頃、次の店の話をしている時、その老舗の名前が挙がったが、僕は当時、連絡のつかなった真理恵の顔が浮かんでいた。ただしかし、もう金輪際連絡も取れないんじゃないか、そう悲観していた僕は、まきと老舗の串カツ屋へ行く事を自分に許したのだった。

 月曜日、老舗は店休日と知っていた僕は、オープンした串カツ屋へ行こうと言った。ここもまきとしか行った事が無かった。
 例によって僕は、誰にも言わず、真理恵との約束を取り付けた。
 僕はそれから、情報収集もした。真理恵の子が無事生まれたのかどうか。おそらくは生まれているんだろうという結論に至った。そして、以前ママレードでよく一緒になっていた客が父親であろう事も、頭によぎっていた。それは、日中に2人、コンビニに入る姿を見ていたからだった。方向からして、おそらく不動産屋に用事があって、その帰りだろうという事も。
 推測でしかなかったが、僕は出産祝いを渡そうと思った。どこぞの馬の骨ならば、渡す義理もないが、父親も知った仲でよく飲みで一緒になっていたからだった。この情報が間違えてても、それでも別にいいと思った。何しろ1年ぶりに会うのである。

 多少の緊張と、楽しみな気持ちが混ざり合っていた。
 1年ぶり、という事は、彼女の容姿だったり性格、それが大幅に変わっている可能性もあった。ただ、僕もあのいてもたってもいられなくなっていたあの頃とは、変わっていた。若い女の子に、慣れすぎてしまっていた。
 待ち合わせ時間前に〔場所が分からくてタクシー拾いました〕という真理恵からのLINEもきたが、僕は僕で、直前まで仕事をして、ギリギリの時間に店に到着した。

 「お久しぶりでーす。」
 そう言って頭を斜めに傾げて会釈した真理恵は、1年前とさほど変わりはなく、僕は妙に安心したのだった。
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