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MK 4
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年に一度のビアガーデン、何もなければ、ただ楽しく飲めれば、それで良かった。むしろ正造の久々の契約をお祝いするムードすらあった。二次会をMKにする事は全く、難しい事ではなかった。好きな人ならば二次会に行くし、社内の人間も頼み込めば、行ってくれる人の方が多かった。上司から誘われるわけでもなく、1営業担当が言う事なので、断りづらいという事もなく、タイミングとしてもそれは妥当であった。週開けの月曜日にナチュールの工事を控えていたのだ。
そのビアガーデンで僕は業務課長に言われたのだった。
「角田さん、申し訳ないけど、正造から直接誘われてないから、二次会はもう行きませんわ。」
元々、アルコールを飲まない人間だったが、僕が意図した事は結局伝わる事なく、むしろやはり、「誘われなかった」という失礼な行為をしてしまった事もあって、僕はぐうの音も出なかった。支社長への報告が当日になってしまった事、それで頭がいっぱいで課長まで頭が回らなかった。
ビアガーデンが行われているホテルから、MKまで少し距離があった。一本の橋を渡らなければならない。
ビアガーデンを出て歩きながら、正造は言ってきた。
「マジで腹痛いっす。マジで腹痛いっす。」
元々支社長は「食え食え」という世界観が好きである。この日も正造を前にして肉をひたすら焼いては正造の皿へトングで移していた。途中から正造は喫煙所でも「腹が痛い」と言い出していたのだった。
結局、MKのドアを最初に開けたのは僕だった。
入った途端にここみから言われたのだった。
「さとし、何人?」
「…ん?」
僕は店に入ってくる人数を数えていった。本来これは正造の仕事であって、僕がするべき事ではなかった。古賀さんも入ってきて
「え?アイツ人数言ってねーと?」
と言って呆れ果てていた。後にまきに聞いた話だと。〔今からいきます〕というLINEだけで人数報告はなかったらしい。腹が痛い、それならそれでまた、「角田さん、すみません、ちょっとお腹痛いんで悪いんですけど先に入っててくれませんか?」とか、いくらでも緩衝材は造る事はできた。
彼はただ、突如として消えて、後からMKに入ってきたのだった。
彼にとっては、いつもと違うMKだったろう。
暫く時間が経った後、やはり彼は歌い出したが、それに対してのいつもの黄色い声も、社内からの称賛の声もなく、戸惑いを隠しきれていなかった。こんな会の時には、当然のように、社内の人間同士でもろもろずっと喋っている。なかなか歌に走る事もない。正造の歌は場違いなものでしかなかった。
途中まきが
「お店からでーす。」
と言ってシャンパンを開けてくれた。素直に嬉しい気持ちと、おっさん達は焼酎の方が…という気持ちが入り混じったが、嬉しい気持ちの方が勝っていた。
これは後に、古賀さんからのものだったと打ち明けられる。
ワンセットの時間が過ぎて、僕らは一旦、MKを出た。だいぶ人間は減ったが、僕と日向の所長、そして正造はまたMKへの階段を上っていった。
正造は、最近MKに新しく入ったスタッフのなつみという女の子をずっと横につけて話していた。僕は日向所長とりことの絡みを楽しみながら見ていた。
そのビアガーデンで僕は業務課長に言われたのだった。
「角田さん、申し訳ないけど、正造から直接誘われてないから、二次会はもう行きませんわ。」
元々、アルコールを飲まない人間だったが、僕が意図した事は結局伝わる事なく、むしろやはり、「誘われなかった」という失礼な行為をしてしまった事もあって、僕はぐうの音も出なかった。支社長への報告が当日になってしまった事、それで頭がいっぱいで課長まで頭が回らなかった。
ビアガーデンが行われているホテルから、MKまで少し距離があった。一本の橋を渡らなければならない。
ビアガーデンを出て歩きながら、正造は言ってきた。
「マジで腹痛いっす。マジで腹痛いっす。」
元々支社長は「食え食え」という世界観が好きである。この日も正造を前にして肉をひたすら焼いては正造の皿へトングで移していた。途中から正造は喫煙所でも「腹が痛い」と言い出していたのだった。
結局、MKのドアを最初に開けたのは僕だった。
入った途端にここみから言われたのだった。
「さとし、何人?」
「…ん?」
僕は店に入ってくる人数を数えていった。本来これは正造の仕事であって、僕がするべき事ではなかった。古賀さんも入ってきて
「え?アイツ人数言ってねーと?」
と言って呆れ果てていた。後にまきに聞いた話だと。〔今からいきます〕というLINEだけで人数報告はなかったらしい。腹が痛い、それならそれでまた、「角田さん、すみません、ちょっとお腹痛いんで悪いんですけど先に入っててくれませんか?」とか、いくらでも緩衝材は造る事はできた。
彼はただ、突如として消えて、後からMKに入ってきたのだった。
彼にとっては、いつもと違うMKだったろう。
暫く時間が経った後、やはり彼は歌い出したが、それに対してのいつもの黄色い声も、社内からの称賛の声もなく、戸惑いを隠しきれていなかった。こんな会の時には、当然のように、社内の人間同士でもろもろずっと喋っている。なかなか歌に走る事もない。正造の歌は場違いなものでしかなかった。
途中まきが
「お店からでーす。」
と言ってシャンパンを開けてくれた。素直に嬉しい気持ちと、おっさん達は焼酎の方が…という気持ちが入り混じったが、嬉しい気持ちの方が勝っていた。
これは後に、古賀さんからのものだったと打ち明けられる。
ワンセットの時間が過ぎて、僕らは一旦、MKを出た。だいぶ人間は減ったが、僕と日向の所長、そして正造はまたMKへの階段を上っていった。
正造は、最近MKに新しく入ったスタッフのなつみという女の子をずっと横につけて話していた。僕は日向所長とりことの絡みを楽しみながら見ていた。
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