カルバート

角田智史

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 嘘 2

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 自分が自分でない、そんな感覚に陥りながらも、僕は真理恵と連絡を取り合った。
 〔あんまり人に見られない方がいいやろーから迎えにいこか?〕
 〔お迎え嬉しいです。お願いします!〕

 一度、課長と真理恵と3人でスノボに行こうと盛り上がった事がある。その際に待ち合わせで指定してきたのがコンビニだった。朝6時という待ち合わせの時間だったが、前日ママレードに行った山之内は、真理恵は寝ないで行くらしいよ、という情報も得ていた。結局、当日は連絡つかずのドタキャンで、お詫びのLINEはきたが、それに対する僕の返信が既読になったのは2週間後だった。
 そのコンビニに18時に待ち合わせとなった。
 先にコンビニについて真理恵を待った。言いたい事は山程あったのだ。ただそれよりも真理恵と会えるその嬉しさの方が勝っていた。
 〔着きました!どっちですか?〕
 とLINEがきて
 〔こっち側〕と返したが、どうも分からないらしく、僕は車を降りて迎えに行った。
 少し頭を傾けるような、いつもの会釈をした真理恵に僕は手招きをして、さっさと車に乗り込んだ。真理恵は助手席と後部座席を交互に指差して、どっちに乗るか聞いてきたが、僕の指示を待たずに後部座席に乗り込んだ。
 僕は車を走らせた。
 「お久しぶりです。もお~ほんとにすみませんっ。」
 後ろからの声に僕は答えた。
 「まあ…俺はいんだけど、オーナーにも連絡してないってのはちょっとねえ…。」
 「はい。すみません。」
 素直に謝る言葉を出してくる真理恵は、可愛く感じた。
 「どこ行く?あんま人に見られん方がいいやろ?」
 「どこでも大丈夫です!」
 真理恵はそう言ったが、ここは狭い街だった。彼女の人間関係をそれ程知っているわけではないが、オーナーに見られる事、真理恵の知り合いからオーナーに話が伝わる事、僕としては山之内に知られる事は懸念材料だった。
 僕は飲み屋街ではなく、駅近くに車を停めた。
 駅近にもいくつか居酒屋があり、僕はほとんど行った事がなかった。飲み屋街でヒヤヒヤしながら飲むよりかはマシだと思ったのだった。少しだけ歩いて、空いている店に入った。
 変わらず、真理恵はビールを頼んだ。少しずつ、少しずつ、真理恵は喋っていった。
 僕は、どうしても責め切れなかった。
 「最初はほんとにゆずきちゃんが可愛くて、それでゆずきちゃんに頼まれてママレードを始めたんですけど…お客さんに出すお菓子とかも私が買ってるんですよ。感染症の時期だからって売り上げが下がってる事も、ゆずきちゃんは分かってくれなくて。ゆずきちゃんは女を出してお客さんを掴むけど、私は絶対にそれはしないし、店の女の子もゆずきちゃんが好きじゃないと対応が全然違うんですよ。」
 終始、真理恵はオーナーであるゆずきの愚痴を重ねていった。
 僕はオーナーの立場も良く分かった。けれども、それを真理恵に言う事はしなかった。
 そして、一緒に住んでいた弟が遠くへ行ってしまった事も聞いた。
 もろもろの事が重なり、そうなった。そういう理解を僕の中でしようとしたのだ。
 
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