カルバート

角田智史

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 嘘

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 嘘をつくにはコツがある。
 手前で止める事だ。本当に隠したい事実があるなら、その手前で安心させてしまえばいい。

 しばらくして真理恵からのLINEは全く返ってこなくなった。そして、店にも出てきていない様子だった。当然のように、山之内、そして課長も連絡がつくはずもなく、ママレードへの足は遠のいていった。
 僕からすれば所詮、夜の女の子と一客、友達でもなんでもなく、良くある話だと自分を納得させていた。ただ、少し仲良くなってきたなと思った矢先だったので、寂しい気持ちにはなった。

 ある時、ママレードにバイトで入っている子と山之内と3人で飲む事になった。
 3人揃って飲み物が来るその前に、その子が言ってきた。
 「真理恵ちゃんと連絡取れます?」
 「いや…、ん?君も?」
 話を聞けば、オーナーさえも連絡がつかない、との事だった。
 「えー?電話とかせんの?家とか知らんの?」
 「電話も出ないし、家はオーナーも知らないんじゃないですかね。」

 その時、僕は初めて、心配になった。
 スナックの女の子と一客だから連絡が取れないわけではなかったのだ。
 口を開けば警察沙汰で、男からは首を絞められる。そんなような女が誰とも連絡がつかない、となれば心配になって当然だろう。ド田舎の同郷の繋がりがある後輩という感覚もあった。
 よくママレードで一緒になっていた客に〔真理恵大丈夫なん?〕と僕はLINEを入れたのだった。
 その返事は〔大丈夫だと思います〕といったものだったが、巷の噂で彼が真理恵の彼氏だと聞いていた。その彼と2人で飲みに行った事もあったが、その時は主に仕事の話をしていて、その話題に触れられなかった。その時も3人で飲みに行こうと誘ったのだったが、2人の話合いなのか、結局彼と2人になったのだった。
 真理恵は誰かに聞かれる度に、
 「彼氏はいません!」
 と、公言していたが、12月24日にママレードで真理恵と話した時に
 「彼氏がいたら今日働いてないですよ!」
 という言葉には妙に納得させられていた。
 正直、僕は彼と真理恵がそういう関係ならば純粋に応援しようと思っていたのだった。
 後に彼は、真理恵と連絡がつかないその事について、
 「アイツ病気っすよ。」
 と言っていた。

 僕はLINEが返ってこない真理恵の虜になっていた。
 彼から聞いたのか、一度、LINEが返ってきた。とりあえずは生きていて安心したのだった。

 それから、僕は既読にならないLINEをちょこちょこ送っていた。それはご飯の誘いだった。
 3カ月程経って、真理恵から返信がきた。
 誘っていたご飯に行きましょうというものだった。

 僕は、何もかも捨てて、最優先でそれを考えたのだった。
 今、すぐにでも会いたい、そう頭ではなく、体が浮足立っていた。3カ月ぶりにLINEが来た当日、2人で飲みに出る事になった。
 当時、土曜日に家を出て飲みに出るのは、なかなか難しい事だった。僕は「破天荒から誘われた」といって何か言いたげな嫁を後目に家を出たのだった。
 
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