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ナチュール 2
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僕は緊張していた。
いつもMKで会っているとは言え、これは仕事であった。話を聞いてくれるというだけであって、決して契約に至るわけではない。更には2人に気づかれないように10時にサロンに行かなければならない。
しょっちゅうではないが、僕ももちろん支社長の支配下にあり、「どこ行くと?」といつ声を掛けられるか分からない状況にあった。
朝、それぞれの課の人間が混じり合いながら会話をしていたその時、
「行ってきます。」
と上手く切り抜けて会社を出る事ができた。
近くのコンビニに車を停めてサロンへ歩いた。
「おはよー。」
と言って僕はドアを開けた。ドアを開けると階段のみが見える。そこを上っていくと左手にもう一枚ドアがあり、そこを開けると店舗となるので、一階からの呼びかけには気が付かないだろう。
2階のドアを開けて、僕はもう一度言った。
「おはよー。」
夜の姿とはまた違う、まきがいる。紺の制服を身にまとっている。それはそれで悪くない。
「おはよ。」
まきは言った。もちろん僕がどういう話をしに来たかは分かっていて、だからこそ少し気まずくもあった。
人がいい。
頼み込めば、受諾してくれる。
そんなの人の良さが、まきにはある。
これとは別に、僕はガン保険の契約も貰っていた。まきは体に良いと言われる乳酸菌のネットワークビジネスにも携わっていた。
「ガンにならんもん。」
という一言目で分かる通り、健康になる為の、予防の為の、という商売をしている。更には他社の医療保険に入っている事もあり、僕が扱うガン保険に加入するメリットは更々なかった。
だからこそ、僕は欲しかった。
営業冥利に尽きるのだ。
「付き合いで入って。」
という言葉を皮切りに、時間を作って欲しいと頼みこんだ。最終的には同伴という形でご飯を食べに行ったのだった。そして、そこでも僕は自分からその話題に触れなかった。
「めっちゃ言ってくるやん、どうしたと?」
とまきが言った時から、初めて言葉を発する。
それでも僕は、やはり積極的には話していかない。
人はものを買う時、理由を求める。
自分自身にだ。
相手の立場に立って理由付けができれば、自然とものは売れていく。
ただ、今回に関しては理由付けがあまりにも薄く、厳しいながらも「僕に免じてお願い」という形しか取れなかった。
「ノルマみたいなものがあるのは確かだし、もしまきがお客さんになってくれたら、俺だけじゃなくて支社長とかも連れてこれるし…。それに、今はこそこそLINEするくらいしか連絡取れないけど、お客さんになれば「お客さんに呼ばれた」って言って堂々と飲みにでれるやん。」
といったなんだか言い訳めいた事をつらつらと並べた。
それから会社の事情だとか、個人実績の仕組みなんかを少し説明してそんなに時間をかける事なく、まきは
「いいよっ。」
と言ってくれたのだった。
誰にでもこんなにはいかないというのは言葉にせずとも分かっていたし、実はこちらも誰にでも声を掛けられるわけでもない。信用はもちろん、月々2千円程度の商品だとしても、家族構成や周辺の情報、大体の相手のお財布事情まで加味して考えなければならない。
そう、お客さんはこちらが選ぶのだ。
受け入れてくれると男は喜ぶ。
まきにはそういった魅力もあった。
いつもMKで会っているとは言え、これは仕事であった。話を聞いてくれるというだけであって、決して契約に至るわけではない。更には2人に気づかれないように10時にサロンに行かなければならない。
しょっちゅうではないが、僕ももちろん支社長の支配下にあり、「どこ行くと?」といつ声を掛けられるか分からない状況にあった。
朝、それぞれの課の人間が混じり合いながら会話をしていたその時、
「行ってきます。」
と上手く切り抜けて会社を出る事ができた。
近くのコンビニに車を停めてサロンへ歩いた。
「おはよー。」
と言って僕はドアを開けた。ドアを開けると階段のみが見える。そこを上っていくと左手にもう一枚ドアがあり、そこを開けると店舗となるので、一階からの呼びかけには気が付かないだろう。
2階のドアを開けて、僕はもう一度言った。
「おはよー。」
夜の姿とはまた違う、まきがいる。紺の制服を身にまとっている。それはそれで悪くない。
「おはよ。」
まきは言った。もちろん僕がどういう話をしに来たかは分かっていて、だからこそ少し気まずくもあった。
人がいい。
頼み込めば、受諾してくれる。
そんなの人の良さが、まきにはある。
これとは別に、僕はガン保険の契約も貰っていた。まきは体に良いと言われる乳酸菌のネットワークビジネスにも携わっていた。
「ガンにならんもん。」
という一言目で分かる通り、健康になる為の、予防の為の、という商売をしている。更には他社の医療保険に入っている事もあり、僕が扱うガン保険に加入するメリットは更々なかった。
だからこそ、僕は欲しかった。
営業冥利に尽きるのだ。
「付き合いで入って。」
という言葉を皮切りに、時間を作って欲しいと頼みこんだ。最終的には同伴という形でご飯を食べに行ったのだった。そして、そこでも僕は自分からその話題に触れなかった。
「めっちゃ言ってくるやん、どうしたと?」
とまきが言った時から、初めて言葉を発する。
それでも僕は、やはり積極的には話していかない。
人はものを買う時、理由を求める。
自分自身にだ。
相手の立場に立って理由付けができれば、自然とものは売れていく。
ただ、今回に関しては理由付けがあまりにも薄く、厳しいながらも「僕に免じてお願い」という形しか取れなかった。
「ノルマみたいなものがあるのは確かだし、もしまきがお客さんになってくれたら、俺だけじゃなくて支社長とかも連れてこれるし…。それに、今はこそこそLINEするくらいしか連絡取れないけど、お客さんになれば「お客さんに呼ばれた」って言って堂々と飲みにでれるやん。」
といったなんだか言い訳めいた事をつらつらと並べた。
それから会社の事情だとか、個人実績の仕組みなんかを少し説明してそんなに時間をかける事なく、まきは
「いいよっ。」
と言ってくれたのだった。
誰にでもこんなにはいかないというのは言葉にせずとも分かっていたし、実はこちらも誰にでも声を掛けられるわけでもない。信用はもちろん、月々2千円程度の商品だとしても、家族構成や周辺の情報、大体の相手のお財布事情まで加味して考えなければならない。
そう、お客さんはこちらが選ぶのだ。
受け入れてくれると男は喜ぶ。
まきにはそういった魅力もあった。
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