カルバート

角田智史

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 真理恵にくびったけ 2

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 ピンク色のそのビルの1Fにママレードはあった。
 中に入ると、白いカウンター。その淵は、薄い緑に塗られていた。

 例えどんなに可愛い子でも、私は妻子持ちであり、関係の発展なんてさらさら考える事はなく、ただ単に真理恵に好意を寄せている、というのも語弊があるが、当然、一線を引いた上での話で、それがあろうとなかろうと、僕は通常通りに生活が送れるし、それを重要視するようなものではなかった。
 ただ通っていく中でやはり少し、真理恵にとっても僕は他の客よりは好かれているんだろうと思う事がたまにあった。

 山之内が一度、真理恵と3人でご飯を食べに行こうという提案をした。
 僕は真理恵がいいなら、と賛同はしたのだったが、ノリで作った3人のグループLINEに真理恵が入ってきたのはその話をした一日だけだった。
 「どうせなら休みの日にゆっくり飲みたいです。」
 という真理恵の希望の日で、日取りは決めてはいたが、店までは決めておらず、さて本当に実現するかどうかは、微妙なところだった。
 もともと真理恵のLINEの返信は極端に遅い事もあり、たまに1週間開けたり、時には何秒かでの返信で、突然会話が終わる事も珍しくなく、そんな中で僕は真理恵と連絡を取っていた。
 〔山之内さんにはこの事は言ってないので秘密でお願いします!〕
 そういった内容のLINEはよくある事で、今思い返すと、僕は山之内と会社で喋る時も、ママレードで3人の時も、どこか常に何かを隠した状態で会話していた。

 喫煙所でその日が来るまで、山之内と話していた。当日真理恵が来るだろうか、と。個別にそれぞれ真理恵にLINEしていたが、山之内に返信しなくとも僕には時折返している事には、彼は薄々感づいていたようで、僕はしらを切っていたが、
 「俺にはしずちゃんがいるから、真理恵との連絡は任せた。」
 と言われ、真理恵に山之内の被害が及ばない事を、内心安心していた。

 僕は真理恵と2人で飲みに行きたかった。

 ただ、怖かった。
 2人で飲みに行こうと真理恵を誘う事が。

 真理恵の反応が怖かった事もある。そして山之内のあの、スイッチが入った時の何も寄せ付けない、暴走機関車になってしまう事もまた、怖かった。
 ただどうしても、3人で飲みに行くという話の流れの中で、真理恵に迷惑はかけたくないな、と思った僕、そして本当に真理恵はその3人で飲みに行く事に抵抗がないんだろうかと疑念を抱いていた僕は、その日の前日に真理恵にLINEした。
 〔もう山之内さん抜きで行く?〕
 そう送ってしまった僕はハラハラドキドキしていたが、真理恵からはすぐに返信が来た。
 〔そうしましょう!山之内さん抜きで!〕
 そう返ってきた僕は、嬉しかった。また山之内の事を考えると、ニヤニヤが止まらなかった。

 しずかが山之内に言っていたらしい。

 「綱吉は同伴の聖地」

 真理恵もまた同じ事を言っていた。
 僕は綱吉に、予約の電話をかけたのだった。
 
 
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