カルバート

角田智史

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 月

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 少し寒い。
 外に出れば月。
 黒く整然としたうろこ雲を照らす。37度の移ろいゆく季節でもやはり人肌恋しさを覚える。
 まだ4カ月弱。僕の中では最低でも半年と読んでいたものが、やはり、それよりも早く、彼の天才的な感覚でこの時を迎える。

 僕はスナックの女の子とよくご飯を食べにいくようになっていった。

 いわゆる同伴である。

 最初はまきだけだった。通っていくにつれて他の女の子とも仲良くなり、1人行き、2人行き、冗談で
 「何これ?全員制覇すればいいの?」
 と言っていたが、気づけば僕自身がやっきになっていて、見事に完遂した。全員制覇したはいいがそれだけでは留まらない。頻繁に誘われるようにもなった。その流れで、MKに入った女の子の同伴処女を奪う事が、僕のもう一つの仕事と言っても過言ではなくなっていた。
 気が付けば週に3日程度、ご飯だけならまだしもアフターまで行く事もたまにあった。びっくりする程財布は軽くなっていくが、日、1日、1日、濃厚な生活となり、嫌いではない。
 まきの名前の頭文字を取って「MK」という店だった。僕のみならず先輩の古賀さんと良くつるんで店に出入りした。それぞれ別行動で一緒になる時もあれば、仕事終わりに2人で、という時もある。代わる代わる、僕と古賀さんでほぼ毎日MKに顔を出していたのではないだろうか。

 この週もまた、月曜日、そして水曜日は会社の飲み会、そして木曜日と週3のペースだった。
 木曜日はりこと焼き鳥屋に行った。というのも、水曜日はMKに行った後、アフターでりこ達と3時まで飲んでいたのだが、翌日のラインの悪乗りが過ぎて〔今日も?〕と送信してしまい、これに至る。
 りこはまだ若いが子供が3人いる。歌が上手く、良く笑い、盛り上げるのが上手い。ただ一緒にご飯となると、落ち着いた雰囲気で、更に持前の低い声でぼそぼそと喋るのであった。25という年齢にしては38の僕と平然と話ができる。

 昨日3時まで飲んでいたせいで、酒もご飯も進まずにMKに向かった。
 店に入ると中年のお客さんが一人、その男も間もなく出ていった。僕は店の女の子3人とハイボールを飲みながら、りこが入れたカラオケを歌っていた。
 なかなかこの3人も、僕を客として思っていないようだった。僕も眠気がしていたが、3人共お疲れモードで時は過ぎていった。
 23時頃に僕がぼそりと言った。
 「帰ろかな…」
 りこも眠そうにカウンターの横にしゃがみこんでいた。
 「ねえ、さとし何時まで開ける?」
 ママの親友のここみは僕に聞いてくる始末だった。
 「俺に聞くな。」
 と僕が返した挙句、結局23時半閉店で僕は帰路についた。
 
 僕はりこと一つ、大事な約束をしていたのだった。
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