暗渠 〜禁忌の廻流〜

角田智史

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 久方ぶりに会う割には、さほどの高揚感も無かった。
 それはそもそもが連絡を取り合っていたという事もあるかもしれないが、昼は昼で当然仕事の感覚が強く仕事と全く関係がない世間話を長時間できるような人間でもなく、ドアを開けた瞬間に、もう1人女性がいて彼女が何かの打ち合わせをしているんだろうという雰囲気であった為、尚の事僕はどうすればいいのか分からず、なまじっか敬語混じりの半端な営業と現況の確認に留まった。
 大きく変わったという印象はほとんどなく、そのまま、年齢を重ねたなというそんな印象だった。僕の方もそれはそう、もう20年も経っているのだから、当然彼女の目にはそんな風に映ったであろう。

 「けーた、いい男になるとよ。」

 そんな事を別れ際に言われた記憶は、鮮明とまではいかないが、ハッキリと覚えていて、僕はあれから果たしていい男になっていっただろうか、そんな事を考えながら開けたドアではあったが、全てを吹き飛ばすように笑ってくれていた彼女の笑顔は、20年前と比べると何か節度を覚えたような、我慢しているような、そんな反応であって、お互いにもう1人いた女性の手前、気を遣いながら当たり障りのない会話を繰り広げていったのである。

 僕は彼女がこちらへ来ると知ってから、ずっと、彼女を誘っていた。
 20年ぶりの再会はもとより、やはりすっと何か気にかけてくれる、気にかけている存在であって、「歓迎会」そんな名目でこちらの事は詳しくない彼女を誘うのは至極当然の事であった。
 改装が始まってから徐々にベールに包まれていた店の事もある程度把握されてきて、〔もう少ししたら落ち着くから〕そう言っていた彼女から、
 
 〔今日は街に出てないの?〕
 
 そんなLINEがきたのは、今日は飲まない、と心に決めた金曜日だった。
 その次の日に実家に帰る事にしていた僕は、飲み屋の女の子からの誘いも断り、真っすぐに家に帰っていた。そんじょそこらに転がっているようなお誘いでは、決して街に出ようだなんて思わなかった。それプラス、日々車を停めている公園の無料駐車場にいよいよ張り紙がされていた事もあって、約半年ぶりに自転車で往復した後の話で、空気の抜けた自転車で、もう一度街に出ていく事、そもそもが、嫁子供が寝静まったこの時間にスッと家を出る事は、経験がないわけではないが、2、3回目の事で、僕の中では非常にハードルが高い事であって、そう簡単に出れるはずがない、そう思う心は、彼女の前だと、20年前のその時から、そして20年のその月日が、僕を何も考えられなくしてしまって、僕は通常の2倍程は筋力のかかる自転車のペダルを汗をかきながら寝間着のままで街へ向かっていったのである。
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