最後の晩餐レストラン

最後の晩餐

ああっ。これで。終りなのか。こんな所で人生が終わってしまうなんて。俺、奥田信雄は人生最大の危機に遭っていた。

コンビニの帰り青信号で横断歩道を渡ろうとしたら、信号を無視したトラックに惹かれる何て。

いや、まだ何とか。なる。動け身体。ダメだ。頭は動くのに。これまでか。

ドン。ああっ。目の前が真っ暗に。人って痛すぎると痛みを感じないんだな。

しばらく、真っ暗で何も見えなかったがしばらくすると、周りが明るくなった。

ハツ。この展開、異世界転生系そのものだ。もしかして、俺、女神様からチートスキルもらってウハウハライフが送れる感じ。マジか。俺勇者になれる感じ。それで、美人な女達に囲まれて最高のハーレム気付いちゃう感じ。生まれてからずっと、さえない生活を送り、俺自身が最高に輝け、幸せに暮らせる理想郷を求めて続けた。俺の苦労が遂に報われるのか。


俺は期待を込めて辺りを見回した。すると、な壁にメニューの紙がお札の様にびっしりと貼られ、カウンターの通路を挟んだ横の畳の部屋にテーブルが二つ置かれた和風の居酒屋と言うか俺が普段行く居酒屋そのものの風景があった。

どう言う事だ。あれは夢だったのか。そうか。俺はいつもの様に、ここで酔い潰れて夢を見てたんだそうに違いない。

俺がそう思った。その時、身長157センチぐらいの小柄な体で赤髪のショートヘアでオデコに黄色いツノ一本頭の左側に青いツノが一本、右側に赤いツノが生え、計3本の角が生えた明らかに人間ではない人間の少女の様な何が給食のおばちゃんの様な格好してこちらにむかってくる。

彼女はマネキンの様な感情の一切ない顔で俺に料理を出してきた。

これ食べろです。


出されたのは賀茂なす田楽だった。

何だ。この料理はいつもの居酒屋で出される料理じゅないぞ。新しい。お通しなのか。

気がつけば箸がナスを口に運んでいた。

これは。この味は。

俺の故郷の味だ。

その時、俺の頭にまだ幸せだった時の記憶が蘇った。

全く。酷い。親達だよ。子供を残して勝手に家を開けて。ご飯すら用意しないなんてね。

ごめんね。おばあちゃん。いつもご飯食べに急に家に来て。

いいんだよ。こっちこそ。すまないね。私の教育不足で孫にまで迷惑かけちゃって

ほら、たくさんお食べ。子供が遠慮何かしちゃいなけないよ。

今日はノブ君の好きなカモナスの田楽だよ。

京野菜を作っていた祖母の料理は決まって野菜を使った料理だった。

当時、野菜嫌いだった。俺を気づかって食べられる料理を考えて作ってくれたのがこのカモナスの田楽だった。

美味い。美味いよ。

俺は夢中になって出された。料理を食べた。それは、俺が生きている間探し続けたまさに理想郷の味だった。

その後、おばあちゃんはなくなり、一人になった。俺は理想郷を探して続けた。でも、それは間違っていた。

長い間、忘れていたよ。本当に。大切な人は亡くなっても心の中にいると言う事を。そうか。理想郷は探すものではなく作るものだったのか。

ああっ。満足だ。でも、一つ心残りがある。俺はこれまでの人生で。誰かの理想郷の一部に慣れたのだろうか。

その時、身長5メートルはありそうな大男が店の奥から現れこう言った。

最後の食事は楽しんでいただけだでしょうか。また、来世でのご来店をお待ちしています。

その声を聞いた瞬間身体が薄くなり消え始めた。
ちょっと待ってくれ。俺は死ねのか。これから。どうなるんだ。

奥田が完全に消えると。大男は一言こう言った。

死んだらどうなるか。など。神である私も存じません。ただ。私に出来ることは完全に旅立つ前に食事を用意する事だけにございます。

おい。大変だ。人を。人を引いちまったよ。どうしよう。ああっあるああああああああああああああつ。

はい。警察です。そこどいて下さい。野次馬は帰れ。捜査の邪魔だ。

これが今回の被害者か。この様子だと。恐らく即死だろうな。なのに、何て幸せそうな顔してやがんだ。

こうして。一人の男の魂が行き先も分からない場所へと旅立った。