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水の掟

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くっ。私の技が破れる何て。私にはこれしかないのに。

結局、私は何者にもなれないのか。

その時、アークエリスの脳内にある記憶が蘇った。

数千年前、一族のもの以外は天界の神々のチカラを使ったとしても決してたどり着けない秘境中の秘境天界の何処かにあるといわれるマリヌスアークの村でアークエリスは育った。村では長老とアークエリスしかいなかった。

アークエリスの脳内に懐かしい故郷の風景が浮かび上がって来た。洞窟の中の湖の上に浮かぶ巨大な浮き草の上にある家、青い髪以外は全身透明でまるでクラゲの様なプルブルした身体をした懐かしい長老の姿。

アークエリスの脳内に自分の運命の分岐点となったシーンが蘇り始めた。

水の一族の長老は頭を抱えこう言った。

お前は何で。姿、形を変えられないんだい。私達水の一族は環境に応じて姿形を変えて生き延びる一族。それは、暑さや寒さはもちろん。その時、一番栄えている生命体に化けて、入り込み誰にも気づかれる事なくひっそりと暮らす事を使命としているまさに透き通った水の様に世を映し出す一族。水が透き通る様に自らの色を出さない様に真の姿も名前も無い。それが私達一族なんだよ。

でも、長老様、長老様だって、変身してないじゃ無いですか。

私は特別なのさ。私は生まれた時から、変身しても自我を失わない特別な存在だからねえ。こうして、変身できない者を教育してるのさ。まあ、ここには今、あんたしかいないけどね。

凄い。さすが長老です。

凄く何か無いよ。それどころか。私は半人前なのさ。私達の掟は覚えているかい。

はい。

私達一族の掟

一度生物に変身したら、その生物が老衰して死ぬ時まで変身を解いてはならない。

もし、変身中に命の危機を迎えた時はその生物の力で乗り越えなければならない。そして、ダメなら潔くその生物として死を受け入れなければならない。

私達一族にとって自分の正体を一族以外の者に見られるのは死よりも重い罪。決して自分の姿を見られてはならない。見られた場合は未来永劫一族を追放される。

その通り。
この掟は私達の身体の奥深くまで根付いてもはや習性の一部になってるんだよ。今では私達水の一族は一度生物に変身したら最後自分が死ぬまで水の一族である事を忘れてしまう様になっている。それが普通なんだよ。そして、生まれた時の自分の姿を忘れていき、最後には自分が何者か分からなくなり、自我が消滅し、背景に溶ける様に生物に変身を繰り返す存在になる。それが、私達一族が目指すべき理想の姿なのさ。

だけど、私は役目を得た事で、揺るぎない自我を得てしまった。それは、私達一族にとって恥ずべき事なんだよ。

分かったら。しっかり。変身術を学ぶんだよ。さもないと、お前も余計な色に染まり、一族を追放された。双子の兄弟の様になっちまうよ。

そう言うと長老様は食料を取りに出かけてしまった。

その後、アークエリスは泉に移る自分を見ながらある決心をした。
鏡に移る自分は長老よりも透き通っていて今にも消えてしまいそうだった。

その時、何処からか、蝶が洞窟に紛れ込み彼女の頭に止まった。

初めて複雑で美しい模様を見た彼女は涙を流しある決心をした。

私は私の個性が欲しい。他人を写すだけの鏡に何てなりたく無い。私は私の色が欲しい。
外の世界に出て。私だけの模様を見つけたい。私も蝶の様にこの村から羽ばたいて見せる。

こうして、彼女は村を出る決意をした。
そこから、彼女は運命の出会いを果たすのだが、それは少し先の話だ。


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