君暮らし

ホメオスタシス

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二人暮らし編

懐かしきあの頃

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あーやは照れながら先を歩く。

手を引かれ、香も照れながら歩く。

なんだか懐かしい。

香は昔のことを思い出す。

中学生の頃、同級生の女子と手を繋いだことがあった。
だが、彼女ではない。

なぜだろう。

理由がわからないが、両方が相思相愛であるとわかっていながらも、どちらからも告白できずそのまま高校へ。

今考えると甘酸っぱい思い出だ。
懐かしい。

そんなことを考えながらスマホに表示されている経路に沿って歩く。

到着予定時刻は1時間20分後。

まあ、バスで30分のところを歩くから仕方ないか....

って、

「...まて!さすがに1時間は歩かないぞ!」

香の声にあーやは不思議そうに振り返る。

「...大丈夫だよ、おしゃべりしてればいつか着くって!」

ふふーん、とスキップしながらあーやは進んで行く。

「まてまてまて、俺の体力が持たん、今日のところはバスだ」

小走りであーやに追いつき、手を掴んで引き戻す。

「えぇっ!なんでぇ!?歩こうよぉ!」

「ま、また今度な!約束!」

根拠のない約束を取り付け、香はあーやを引きずるようにバス停まで戻る。

時刻表によると、どうやら次のバスは5分ほどで来るらしい。
ベンチに座るとあーやはムスッとして喋らなくなってしまった。

「ご、ごめんて、今度また時間あるときに行こう。歩って行ったらもう夕方になっちゃうし...」

必死に言い訳をする。

「....」

あーやは黙ったままだ。

「も、申し訳ないで...す...」

香も下を向き気まずい空気に固まってしまう。


しばらくしてあーやが口を開いた。

「...じゃ、じゃあ、指切り....」

小さく言って小指を差し出す。

「...え?」

目の前に差し出された小さな指に戸惑いつつ、香も指を出す。

指を絡め、あーやが静かに唱え始める。

「...ゆ、ゆーびきーりげんまん、うーそついたーら針千本のーます、指切った」

唱え終わると2人の指がゆっくり離れる。

「...や、約束、ね?」

あーやが照れながら言った。

「お、おう...」

中学のあの時期みたいだ...

って、まて、これは自分の娘だぞ...
俺は何を考えているんだ...

内心焦りながら心を落ち着かせる。

キキィー   ガタタン

目の前にバスが止まりドアが開いた。

「い、行くか」

「うん!」

あーやは少し元気になった。
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