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○月×日『お元気ですか』
しおりを挟むいたたまれない。
歩くんは僕と矢野くんの前に正座して座ってる。
ここは使われていない端っこにある教室だ。
僕がスマホで歩くんを呼び出すと、矢野くんは教室に来た歩くんに有無を言わさず正座させた。
矢野くんは歩くんの前に仁王立ちして腕組みして怖い目付きで見下ろしてる。
もちろん歩くんは青ざめてるし、今にも泣きそうな顔をしてる。
「お前ちゃんと花村見張ってるんだろうな。」
矢野くんは歩くんに口止めをすると、こっちが本題と言った様子で話し始める。
「見張るなんて……」
「暴行事件起こしたくなきゃ見張っとけよ」
確かに、先日花村さんが僕の頭を殴ったのは、僕が黙ってるから警察沙汰になっていないだけだ。
「お前にも責任あるって分かってるよな?」
「はい、すみません」
「で、アイツ何してるんだ?また留年するぞ」
「部屋にこもりきりで、」
「ひきこもりかよ」
「……元気ですか?」
僕が歩くんに尋ねると、矢野くんは呆れ顔をして、歩くんは瞳を潤ませた。
「はい、元気です」
歩くんは大きく頷いて、小さく微笑んでくれた。
教室を出て、歩くんと別れる。
矢野くんと並んで歩く。
隣にいる矢野くんはなんだか機嫌が悪そうだ。
「こう……」
「お人好し」
僕が矢野くんに声をかけるのに、矢野くんが被せてくる。
「アイツが元気かなんてどうでもいいだろ」
「部屋にこもってても元気ならいいかなって……」
「なにがいいんだよ。」
「歩くんがいるから、元気なのかなって。だったらもう心配しなくて大丈夫だよ」
「大丈夫?」
「僕をどうにかしようなんて思わない…………と思うよ」
「ふーん。だといいけどな。」
花村さんにとって強引な手段だったと思う。
けど、歩くんを本当に好きでやったことだ。
歩くんも、それをわかってるから花村さんと今も繋がっているんだと思う。
「なぁ」
「なに?」
「今日うち来いよ」
矢野くんを見上げると、矢野くんは僕の方は見てなかった。
わざと視線を合わせないようにしてるみたいだ。
…………照れてる?
「……何するの?」
「何って……」
矢野くんが言い淀む。
僕ら、付き合ってからまだシてない。
僕が頭を怪我したのもあるけど、矢野くんは前みたいに強引じゃない。
僕の気持ちを尊重してくれようとする。
「……行く」
ちょっと照れくさくて、返事は小声になってしまった。
けど、矢野くんには聞こえたみたいで、優しく微笑んでくれた。
今夜は、いい日になるかな。
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