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○月×日『涙を流す金魚④』★
しおりを挟む学校までの道を、ゆっくり歩いて、1度だけ篤也のアパートを振り返った。
当然だけど、誰も僕を追ってきたりしない。
もう、あそこには居られない。
居たくない。
これ以上傷つきたくない。
好きな人が、他の子を大事にしてるところなんて、見ていられない。
なんで、
……なんでなの、
なんでこんなふうになっちゃうの?
せっかく、篤也と、また一緒にいられるようになったのに。
なんで……?
全部僕が悪いの?
僕は、何もしてない……
ただ篤也が好きなだけなのに、
好きで真鍋先輩としたわけじゃないのに、
なんで篤也は柚野ちゃんと……、
なんであの部屋で……、
これが、復讐てやつなの?
僕があの部屋で真鍋先輩と寝たことで篤也を傷つけたから、これがその仕返しなの?
だからあそこにずっと住んでるの?
このために?
そんなの酷い。
僕がいるのに、僕がいるのを分かってるのに、なんであの2人は……っ、
「っ、」
考え事をして歩いていたから、誰かにぶつかった。
気づくと校内で、人気がない昇降口だった。
朝早すぎて、まだ誰も登校していないんだろう。
僕と、僕がぶつかった人物しか人はいなかった。
「ひでぇ顔」
上から声がして、僕がぶつかったのが矢野昂平だと気づく。
ひどい顔とは、僕の顔のことだろう。
今朝鏡をみたら、昨夜より醜かった。
「殴られでもしたわけ?」
僕のことを嫌ってるはずの矢野くんがそんなことを尋ねてくる。
思わず聞きたくなるくらい他の人から見ても酷い顔なのかな……。
「……まぁ、そんなとこかな」
靴をはきかえながらそう答えると、矢野くんは「ふーん」と気のない返事を返してきた。
彼も靴を履き替えると、2年の教室とは別の方に歩いていく。
「きみ、どこいくの」
思わず声をかけると矢野くんが振り返って、関係ないだろって顔をする。
ていうか、いつもこんなに早く学校にきてるのかな、この子。
柚野ちゃんは、なんでこんな男を好きなんだろう。
使われていない教室に入っていく男を、不思議に思ってあとをついて行った。
教室はガラクタだらけだった。
学園祭等の行事で使われたであろう備品があちこちに置かれていて、倉庫のように使われてる部屋のようだった。
誰が置いたのか古びたソファーもあって、矢野くんはそれに腰かけると僕を見た。
確かに、綺麗な男だ。
金髪碧眼で、顔の造形も整ってる。
日本人にはない華やかさがある。
けど、それだけで好きになんてならない。
なら性格?
……お世辞にも性格がいいとは言えない。
彼は柚野ちゃんに酷いことばかりする男だ。
そもそも、この男が柚野ちゃんに酷いことをしなければ、篤也が柚野ちゃんに親身になることもなかったし、柚野ちゃんが篤也を頼ることもなかったんだ。
……この男が悪いんじゃないか。
でも、この男はきっかけを与えただけだ。
……なんなんだろう、こいつは。
人を振り回しておいて、なんでこんなふてぶてしい態度で居られるんだろう。
なんで、こんなやつに柚野ちゃんも、篤也も振り回されてるんだろ。
僕も……
「きみと寝たらわかるかな…」
そんなことを考えていたら、思わず口にしていた。
「は?あんた正気か?俺のこと糞呼ばわりしといて俺と寝るって?」
何を言い出すんだって顔で、矢野くんが馬鹿にしたような顔で見てくる。
正直、僕も自分が馬鹿な事言ってるって思った。
「それは篤也が……、まぁ、そうだね…僕も変わらず最低だと思ってるよ、きみのこと。」
「その俺と寝るメリットは?」
メリット?
仮に僕がこの男と寝たら……どうなるんだろう。
篤也は、柚野ちゃんは、どんな反応をする?
「……篤也の関心と…………柚野ちゃんが、羨ましいからかな…」
篤也の熱を知ってる、柚野ちゃんが羨ましかった。
いや、今は憎たらしいとさえ思い始めてる。
僕が得たかったものを、体感したことがあるんだから。
そう思うと、また醜い嫉妬心が湧き上がってくる。
「……篤也のために受験やめたのに、僕のことには関心がないんだ。…柚野ちゃんの支えになって、柚野ちゃんにはあんなに親身になってるのに…………僕のことには…」
俯くと、涙がこぼれた。
遠くには行かずに、側にいて、徐々に溝を埋めていきたいと言ってくれた。
その言葉を疑ったことは無かった。
けど、側にいればいるほど、自分の中の溝が深まっていった。
彼と、最近まで彼の恋人だった後輩の仲を目の当たりにすると、辛いものがあった。
「あの男の関心をゆずから自分に移したくて俺と寝るのか?やっぱり正気じゃないな。関心どころか、完全に縁切られるぜ。ゆずにも」
矢野くんは正しい。
きっと2人には嫌われる。
「……どうでもいいよ。…もう、物わかりのいい優しい先輩には戻れない……」
嫌われたっていい。
そうでもしないと、僕は2人の仲に割って入れないくらい小さな存在なんだ。
恋人なのに、蚊帳の外にいるのは、耐えられない。
シャツからネクタイを引き抜いて床に投げ捨てた。
偉そうにソファーに座る男の膝に跨り、彼の首筋に噛み付いた。
「ぃ……って、痛ぇよ」
髪をつかまれて引き剥がされる。
ソファーに体を押し付けられると、優しさの欠片もない手つきでシャツを破けるんじゃないかと思う雑さで脱がされ、体をまさぐられた。
「あっ、」
自分がそうしたように、彼に首筋から責められる。
胸の尖端を唇に含まれる頃には下着を脱がされ、挿入するために彼の長い指が胎内を掻き回してくる。
「んぅっ、はっ、あっあ、」
思いのほか丁寧に指を動かされて、体が熱くなる。
「挿れるぞ」
「え、まって……アっ、」
自分から跨ったのに、いざ体を繋げるかと思ったら怖かった。
指が抜けたかと思うと、脚をいっぱいまで開かされ、羞恥する間もなく彼の腰が割入れられる。
パンパンに膨らんだ性器を躊躇いもなく挿入されて、体が仰け反った。
てゆうか、この子なんで僕相手にこんな勃起してるの?
普段の自分にも魅力があるとは思わないけど、今の僕は昨日篤也に叩かれた腫れの引かない頬に、目だって泣き腫らしてる。
顔に萎えるとかこの子なら言いそう。
正直自分でも不細工だと思うのに。
「あっ、やっ、まって……まっ、てっ」
彼の肩に手をついて嫌々と首を降ると、その手をソファーに押し付けられる。
「あぁっ」
ギシギシとソファーが軋む。
今にも壊れそうなほど激しい中枢が繰り返される。
体の中にいるのは、篤也じゃないのに、その快楽に抗えなくなって、矢野くんの腰に脚を絡ませた。
「あんたの中、熱すぎ……ィきそ…っ」
苦しそうに呻く姿が、年下の男とは思えないほどセクシーで、下腹部が疼いて、彼をキツく締め付けた。
「っ……っく」
重い一突きを体で受け止め、ィった。
脚でホールドした彼の体が痙攣する。
僕の中で射精する男は、彼で二人目だ。
まだ僕の中で脈打つ彼を見上げると、乱暴に体を裏返されてソファーに押し付けられ、腰を高く上げさせられる。
「あっ」
また彼が中に入ってきて、ソファーにしがみついた。
憂さでも晴らすように、容赦なく腰を打ち付けられる。
彼はなんで僕を抱けるんだろう。
柚野ちゃんの話だと、来る者拒まずのようだったから、相手が嫌いな僕でもいいのだろうか。
いや、柚野ちゃんとの関係をおかしくさせた僕にイラついてるからかもしれない。
だんだんと勢いでしてしまったこの行為に悲しくなってくる。
そういうことか……
何やってるんだろう。
……何、やってるんだろう、僕。
こんなことしたって、意味ないのに。
真鍋先輩と寝た時だって、あんなに怒ってた。
こんなことしたら、関心どころか、きっともう戻れない。
もう篤也の元にはもどれない。
「ぁっ、ぅ……ふっ、ぅぅ」
背後から突かれながら、涙が零れた。
優しく慰める訳でもない乱暴なセックスに、嗚咽すら漏れてくる。
さすがに矢野くんもそんな奴抱いても面白くないと思ったのか、僕の体から出ていく。
またなにか罵られるんだろうと泣きながら蹲ってると、髪を撫でられる感触がした。
「……あんた、変な人だな。俺を嫌ったり、寝たりさ」
「……きみにいわれたくないんだけどな、」
おかしくなって矢野くんを振り返ると、矢野くんが僕の顔を指で撫でる。
「ブサイクすぎ」
やっぱり不細工だと思われてたんだ。
腫れたパンパンの頬に、赤い唇、おまけに涙でグシャグシャの顔。
これは萎えられても仕方ないだろう。
「……そんなに酷いかな」
体を起こして、自分の顔に触れてみる。
濡れた頬を手の甲でゴシゴシと擦ると、矢野くんにその手を握られる。
同じ男なのに、僕より大きくてゴツゴツしてて、指の長い綺麗な手だった。
「あんた笑ってた方がかわ……マシだぜ」
矢野くんがポケットからハンドタオルを出して、僕の顔を拭いてくれる。
笑ってた方かわ……?
もしかして、可愛いって言いかけた?
少しだけ恥ずかしくなって目を伏せる。
何この子、ほんと、変なやつ。
けど、こんな子でも、僕に対して反応できる。
欲情ではないにしろ、反応して、僕を抱くことができる。
篤也は、……違ったんだ。
そういうことなんだ。
「泣き虫なんだな」
また涙を零し出した僕を、矢野くんが呆れ顔で見てくる。
「あんたちゃんと終わらせた方がいい。」
「え?」
「そうしたいんだろ?」
…………そうだ。
もう楽になりたい。
そんな気持ちもあった。
好きでいることが辛すぎる。
だから、矢野くんと寝たのかも。
もう、引き返せないとこまで行ってしまったら、あの人のことを嫌でも終わらせる切っ掛けになる。
前は、僕の意志とは関係なく起こった裏切りだった。
今日のことは、完全に僕の意思だ。
僕の意志でしたことを、許したりはしないだろう。
どうせまた捨てられるんだ。
……そうなる前に、自分から、あの人から離れよう。
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