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○月×日『元彼と②』
しおりを挟む「なるほどね」
急に連絡してまで来てもらった理由を話すと、昂平はグラスにささったストローで氷をつつきながら、なんとも言えない微妙な表情を見せながら一言そう呟いた。
くだらないって思われたかな……?
昂平は先輩に対していい感情は持ってなかったと思う。
僕のことだけじゃなく、柚野ちゃんの事もあったからだ。
今柚野ちゃんと幸せに過ごしてるなら、今更こんな話を聞かされていい気持ちになるわけが無い。
一時でも自分の事を慕ってくれてた子に、こんなカッコ悪い姿、見せたくなかった…。
けど、そんな自分をさらけ出してしまうほどに僕の気持ちは穏やかじゃなかった。
「そういえば……ゆずもさ、俺と似たやつと付き合ったな」
「ぁ……、なんだっけ、確か…花村のお気に入りの子の…」
「そ。俺が蘭さんと付き合ってる頃な。……なんか蘭さん、それと似てる」
「……、」
好きだけど手に入らないから、似ている誰かを好きになって、けどいざ本物が手の届くところに来たら揺れる……
一条さんに惹かれたのは、雰囲気が先輩に似てたからだ。
けど、それはきっかけだ。
一条さんと過ごして、先輩とは全然違うって、ちゃんと気づいてる。
一条さんは、自分に自信があって、正直で、面倒ごとは嫌うタイプで、余裕そうに見えて意外とヤキモチ妬きなとこがあって、甘い雰囲気を作るのが上手で、ちょっと……いや、かなりスキンシップが激しくて、僕を包み込んで心地良くしてくれるのが上手だ。
先輩は……、情に熱くて、面倒みがよくて、親身になりすぎるくらいで……、そんなとこが尊敬できたし、好きだったけど、夢中になってる先輩の目に僕は写ってないんじゃないかって、そんな不安がいつもあって、安心させて欲しいっていつも思ってた。
「蘭さん、その彼氏のこと好きなの?」
「……ぇ、」
……、
好きだよ。
好きだ。
けど"好き"と一条さんに言葉にしたことは無い。
一条さんもその言葉は求めてこない。
たぶん、待っていてくれてるんだと思う。
僕の気持ちが固まるのを。
一条さんの気持ちに応えたけど、まだ100%じゃないから。
体から入ってしまった関係だから、体を繋げることに抵抗がなくなっても、心がまだ追いついてない。
僕の中に先輩がいるのもわかってくれてる。
その上で恋人になってくれた人だ。
「蘭さん」
どう話していいか言葉につまっていると、昂平が穏やかな声で僕を呼んだ。
「恋人と木崎さん、どっちが好き?」
「……どっち……?」
普通なら迷わない。
恋人に決まってる。
即答できないのは…
僕が好きなのは……
昂平は僕が答えられないのをわかってて質問したんだ。
僕にちゃんとわからせるために。
「蘭さん、恋人のこともちゃんと好きなんだろ。ただ、1番じゃないだけでさ。」
「……ん、」
好きだよ。
好きじゃなきゃ、何度も寝たりしない。
「蘭さん、木崎さんにちゃんとフラれてないから未練が断ち切れないんだと思う」
「……、」
ちゃんとふられてない……?
……確かに、ちゃんと言葉にされたことは無い。
自分からは"さようなら"と告げたけど…。
僕が浮気した時も"出ていけ"と言われたり、殴られたことはあった。
だけど彼の口から"別れ"といった類の言葉は聞いたことがない。
だから、何も知らなかった僕は、何度も先輩の元に通ってたこともあった…。
時が経って、自然消滅なのかなと思うことはあっても、フラれたつもりはなかったから……
「……ちゃんと、フラれたら、吹っ切れるのかな…」
本気でわからなかった。
言葉で言われてないだけで、事実上別れたも同然なんだ。
それでもこんなに想ってる。
"言葉"でフラれたからって、断ち切れるものなんだろうか……。
「わかんねぇけど、解釈の仕方は人によるしさ。指輪のことだってそうだろ。結婚してるか、ただの女避けなのか、恋人かどうかも…。もしかしたら俺とゆずみたいな関係の相手かもしれないし、本人に聞かなきゃ分かんねぇよ」
……そうだよね、
一条さんに結婚してると聞いて、そうだと思い込んでしまったけど、直接本人に聞いたことじゃないから、事実でないかもしれない。
「付いて行こうか?それともゆずに連絡してもらうか?ゆずまだあの人と繋がってるみたいだし」
昂平がいかにも不服って顔をしながら提案してくれる。
柚野ちゃんと先輩……、たぶん僕と昂平のような関係なんだろう。
挨拶程度にメッセージでやりとりするだけの…。
「……大丈夫だよ、これ以上迷惑かけられないし…」
昂平だけじゃなく、柚野ちゃんにまで迷惑かけたくない。
……こんな、みっともない……
「……案外さ、あっちも引きずってたりしてな」
「え?」
「だってゆず使って復讐しようって考えた人だぞ。それだけ蘭さんに惚れてたってことだろうし、そんなに惚れてたあんたに指1本触れないまま親友に寝盗られてさ、未練が強いのはあっちも同じだと思うな。しかも復讐の終わり方はスッキリしてないはずだし。」
終わり方…
僕から"さようなら"と告げたのは1度じゃない。
……思い返せば、全部僕から終わらせてる……?
部屋の合鍵を返した時も……、昂平と寝た時も……
……聞きたくなかったんだ。
あの人の口から、決定的な言葉を。
だから自分で終わらせたんだ。
ちゃんと向き合ってなかった。
逃げてた。
……僕って、こんなに小賢しい人間だったんだな……
だから、まずは向き合わなきゃ行けないんだ。
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