ORCHID-オーキッド-

Ash.

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○月×日『交互暴露』

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一条さんと体の関係を持ってから、確信を持ってたことがある。

この人は絶倫だってことだ。

僕の方が6コも若いのに、いつも音をあげるのは僕の方で、一条さんは涼しい顔をしてる。

今も、へばってうつ伏せに寝てる僕の体の上に一条さんがのしかかって、まだシたいって顔で覗き込んでくる。

「休憩させてくださいよ…」

「10分」

「短いですよ…」

「はいはい」

一条さんは体を起こすと、枕を背もたれにしてくつろぐ体勢をとり、煙草を1本口にくわえる 。

「……僕の綺麗な肺を汚すつもりですか」

「えー、1本くらいいいじゃん」

一条さんが唇を尖らせて拗ねたフリをする。

「マスターもヘビースモーカーじゃん。付き合ってた頃からそうなんじゃないの?」

事後に元恋人の話を持ち出すのはどうなんだろう。
普通なら遠慮するんじゃないのかな…
……さっきは妬いたとか言ってたのに、今は平気そうだ。
もう僕が自分のものになったから、余裕ができてるんだろうか?

「ベランダに出て吸ったりはしてましたね」

一条さんがそういうスタイルで来るなら、僕も変に濁す必要は無いだろう。
そう思って、記憶にあるあの人の事を思い浮かべて答える。
その僕の回答に、一条さんは少し間を置いて、口にくわえていた煙草をゴミ箱に捨てた。

「え、勿体なくないですか」

火をつけてない、くわえただけなのに。

「いーんだよ。俺も蘭の前じゃ吸わねーの」

余裕は、できてないかな。
……あの人に張り合ってるようだ。
子供みたいに。
それがなんだか可愛い。

「なぁ、この際だから聞くけど、付き合った男て、マスターだけか?」

「……なんでですか?」

「いや、初めて寝た時から気になってはいたんだよ。なんか、なれてんなーて」

正直、一条さんと初めてシた時の記憶はない。
朝目覚めた時の雰囲気でそう感じただけだ。

「……木崎さんと別れたあと、1つ年下の後輩と付き合ってました」

「男だよな?」

「はい。同性は木崎さんと、その子だけです」

「……そっかー」

一条さんは予想はしていたけど、複雑……というような顔をしてる。
腕を組んで、なにか考え込むような仕草をする。

「……何考えてるんですか?」

単純に知りたくて、聞いてみる。
すると一条さんは、また拗ねたような顔を僕に向ける。

「マスターに嫉妬したけど、蘭をこんなエロい体にしたのはその後輩くんなんだなーて思って」

エロい体!?

「えっ、エロくないですっ」

そんな事言われると思っていなかったし、初めて寝た日から今までそんな風に思われていたなんて、恥ずかしすぎる。

「いやいや、マジで。俺なんか虜にされてるからね」

虜……!??

「初めて寝た時だって1回じゃ済まなかったのは気づいたろ?」

確かに。
証拠隠滅しようと覗いたゴミ箱には大量の使用済みコンドームが捨てられていた。

「年下にそんなテクがあるもんなんだなー」

年下といっても、昂平は僕より経験値は高かったと思う。
学校じゃ王子様扱いされてたけど、来る者拒まずだって噂はあったし、幼馴染とずっと体の関係をもってたし。

「その年下の後輩くんもイケメンなのか?」

「えぇ?」

さっきから根掘り葉掘りだな……
なんでそんなに知りたいんだろう。

「……まぁ、学校で1番のイケメンで、モテてたみたいですよ」

「はっ?学校で1番?マジで?」

「はい。マジで。」

「漫画みたいだな…」

「あ、そうなんですよ。少女漫画に出でくる感じのイケメンですよ。背は高いし、金髪碧眼で…」

「金髪碧眼!?」

「はい。天然の。……見ますか?確かまだスマホに写真が…」

「マジかよ…」

ベッドサイドに置いてあったスマホを手に取って、過去の写真を探す。
マメに整理するタイプじゃないから、そのまま残っているはずだ。

「あ、この子です」

昂平の写真を見つけて、一条さんに向ける。
一条さんは見たいけど見たくないって顔で、すごく目を細めてこっちを見る。

「うわ、マジだ。すげーイケメン。日本人?」

「クウォーターて言ってましたよ。英語喋れなかったし」

「この見た目で?じゃあそこは勝ったな」

「え、一条さん喋れるんですか?」

「英語と中国語だけな。」

充分すごいと思う。

「つか蘭は面食いなのか?」

「そうは思ってないですけど、それって自分もイケメンだって言ってるも同然ですよね」

「まぁ否定はしない。俺、すげーモテるから」

「……知ってますけどね」

社内でも女性社員が目をハートにして一条さんを見てる。
それは独身女性だけでなく既婚女性も同じく。
同性だって憧れる外見だ。
おまけに仕事もできるらしいから、ミスターパーフェクトだ。

「……社内の女性社員と交際したことあります?」

少し、恐る恐る聞くと、一条さんが噴き出すようにして笑った。

「ははっ、あるわけないだろ」

……ちょっと安心した。
部署は違っても、元彼女がいるなんて知ったら気になって仕方なくなる。

自分は、嫉妬深い方だと思うし……

あの人の過去の交際相手に嫉妬して、破局にまで導いた。
直ぐに昂平て支えができたけど、嫉妬心を大人ぶって、カッコつけて誤魔化して、自分から手放してしまった。

「……一条さんは、僕の過去の交際相手の話聞いて、嫌になったりしないんですか?」

自分なら嫌だ。
知りたい気持ちはある。
けど、やっぱり嫌だ。

「嫌だけど、マスターみたいにポっと思いがけず出てこられたら嫌だし、だったら先に聞いときたいかなって。」

気持ちの問題なのかな……。
先に知っておけば、いざとなった時、対処できるんだろうか。

「その後輩くんとはまだ繋がってるのか?」

「え、いや……ラインで、新年の挨拶くらいですよ。それに彼には恋人がいますから」

順調なら、……だけど。

「そっか。ほら、これで1つ安心できたろ?ちなみに俺は元カノとは繋がってないから、心配いらねぇよ」

「……心配してませんよ」

不誠実な人じゃ無いのは、知ってる。
でなかったら、受け入れたりしないから。

「はぁ、でも驚いたのはマジだからな。マスターもそうだけど、年下の後輩くんは予想外すぎ。」

そう言って一条さんが横になると、僕を抱き寄せる。
熱が引いた素肌が触れ合って、少しひんやりする。

「でも敵はいないってわかったしな。マスターも既婚者だから心配いらないし」



「……既婚者?」

誰が?

「ああ、気づかなかったか?薬指に指輪してたろ」

…………気づかなかった。

そんなのに気づく余裕なんてないくらいドキドキしてたから。



なんだ、

そっか。

そうだよな。

時間が止まってたのは、自分だけだったんだ。


一条さんに抱きしめられてるのに、気持ちは他の所にいってしまった。


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