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○月×日『再会』
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自分の部屋から出勤する。
ここ数日は一条さんの部屋に連泊だったから、正直落ち着く。
自分の部屋に帰るという僕に、一条さんは不満そうな顔をしたけど、着替えをとりに一旦帰るという口実を提案すると、渋々了承してくれた。
このまま、流れに乗ってしまうのがいいのかな。
いつまでも先輩を想ってたって、叶わないんだから。
もう、会うことも無い人だ。
そうしてしまったのは、自分なんだから……。
「おはよ」
考え事をしながら歩いていると、背後から声をかけられる。
「一条さん……、おはようございます」
「おう。なぁ、今夜飲みに行かないか」
「珍しいですね。」
「年甲斐もなく毎晩盛って嫌われたくないからなー」
「え、」
やばい。
外なのも忘れて赤面する所だった……。
「……じゃあ、今日は飲みに行くだけで」
ひとつ咳払いをしてから、一条さんを見た。
「山梨が酔わなきゃな」
確かに。
僕は酒には強くない。
それに飲まないと決めていた。
けど、一条さんとなら悪くないなと思い始めてる。
「……あんまり飲ませないでくださいね」
「えー」
「…………お酒に酔って、シたくないんです」
「……、」
一条さんが僕を見下ろす。
少し間を置いてから、一条さんは僕の頭を撫でた。
「うん。わかった。しないよ。」
茶化されるかと思った。
けど、一条さんは真剣に応えてくれた。
それが、すごく嬉しかった。
すごく。
夜、一条さんと並んで歩いた。
一条さんのお気に入りの店に連れていってくれるらしい。
どんどん一条さんのテリトリーに引き込まれてる感じがする。
でも、悪くないと思う。
「ここだよ」
夜の街の中、地下へ続く階段を降りたところに、雰囲気のいい店があった。
僕には不釣り合いだけど、一条さんみたいな男性に似合いそうな大人な雰囲気の店だ。
「マスター、こんばんは」
一条さんが店に入り、カウンターに立つ男に声をかける。
「一条様、いらっしゃいませ」
グラスを磨いていたのそ男は、一条さんを見て微笑んだ。
薄暗い店内に、オレンジ色のライト。
光に照らされた男の顔を見て、息が止まる。
瞬間、グラスの割れる音が店内に響き渡った。
「……蘭、」
足元で粉々に割れたグラスに目もくれず、その男は真っ直ぐに僕を見て名前を呼んだ。
その人は、紛れもない、恋焦がれた人。
木崎篤也だった。
ここ数日は一条さんの部屋に連泊だったから、正直落ち着く。
自分の部屋に帰るという僕に、一条さんは不満そうな顔をしたけど、着替えをとりに一旦帰るという口実を提案すると、渋々了承してくれた。
このまま、流れに乗ってしまうのがいいのかな。
いつまでも先輩を想ってたって、叶わないんだから。
もう、会うことも無い人だ。
そうしてしまったのは、自分なんだから……。
「おはよ」
考え事をしながら歩いていると、背後から声をかけられる。
「一条さん……、おはようございます」
「おう。なぁ、今夜飲みに行かないか」
「珍しいですね。」
「年甲斐もなく毎晩盛って嫌われたくないからなー」
「え、」
やばい。
外なのも忘れて赤面する所だった……。
「……じゃあ、今日は飲みに行くだけで」
ひとつ咳払いをしてから、一条さんを見た。
「山梨が酔わなきゃな」
確かに。
僕は酒には強くない。
それに飲まないと決めていた。
けど、一条さんとなら悪くないなと思い始めてる。
「……あんまり飲ませないでくださいね」
「えー」
「…………お酒に酔って、シたくないんです」
「……、」
一条さんが僕を見下ろす。
少し間を置いてから、一条さんは僕の頭を撫でた。
「うん。わかった。しないよ。」
茶化されるかと思った。
けど、一条さんは真剣に応えてくれた。
それが、すごく嬉しかった。
すごく。
夜、一条さんと並んで歩いた。
一条さんのお気に入りの店に連れていってくれるらしい。
どんどん一条さんのテリトリーに引き込まれてる感じがする。
でも、悪くないと思う。
「ここだよ」
夜の街の中、地下へ続く階段を降りたところに、雰囲気のいい店があった。
僕には不釣り合いだけど、一条さんみたいな男性に似合いそうな大人な雰囲気の店だ。
「マスター、こんばんは」
一条さんが店に入り、カウンターに立つ男に声をかける。
「一条様、いらっしゃいませ」
グラスを磨いていたのそ男は、一条さんを見て微笑んだ。
薄暗い店内に、オレンジ色のライト。
光に照らされた男の顔を見て、息が止まる。
瞬間、グラスの割れる音が店内に響き渡った。
「……蘭、」
足元で粉々に割れたグラスに目もくれず、その男は真っ直ぐに僕を見て名前を呼んだ。
その人は、紛れもない、恋焦がれた人。
木崎篤也だった。
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