勘違い令嬢と3人の男

ringo69

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Story 2

嵐の気配

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私とラスカル様は庭園を探し回ったがセレスは結局見つからず、私たちはあまり遅くなっても怪しまれてしまうためパーティー会場へ戻ることにした。

「結局見つからず、貴重なお時間を無駄にしてしまいました…申し訳ありません…」
「ははは、別に僕は暇だったから君の手伝いをしていただけであって君が謝ることは何もないよ」

セレスを探している間、私たちはいろいろな話をした。
ラスカル様は以前ブラモント帝国に留学されたことがあって、そこでロバート様とも親しくなったのだとか。
一つ下のロバート様のことは弟のように思っていると。
一年だけ被っていることに気づいた私はその瞬間にラスカル様を見上げた。
するとラスカル様は同じく私の顔を見て『そういうこと』と笑いながら言った。

隣国から留学生が来ていることはわかっていたが、三年と一年なんてほぼ交流もないので確認もしなかった。ましてや生徒会に参加できるようになるのは二年生からであるため尚のことだった。

他にもラスカル様は隣国の貴族だというのにこちら側の情勢など住んでいる人にしかわからないようなことまで知っていてこの人は本当にスパイではないのかと私の疑いは晴れぬままだった。

「今日は君と話ができてよかったよ。」
「私もです。」

もう少しでパーティー会場に着くところで正面から誰かが歩いてくるのが見えた。
それが誰なのかはわからず私はそのままラスカル様とお話をしながら歩いていた。

「レティ?」

不意に聞き慣れた声を聞いてどこからなのかとキョロキョロしてみたけれどその人は見つからず首を傾げると隣にいたラスカル様が急に私の正面に現れて手を取った。

「レティシア嬢。今日は会えてよかった。とても楽しかった。もう少し一緒にいたいけれど、残念ながらもう時間みたいだから最後の挨拶を。」

ラスカル様は私の後ろを見てから片膝をついてしゃがみ、私の手の甲に軽くキスをした。

「!!」

一気に顔に熱が昇ったのがはっきりとわかった。
まるで本当の王子様のような。月明かりの下で私の前に跪く姿はまさにそれだった。

「レティ!!」

聞き慣れたあの人の声が急に近くなって今度はどこにいるかはっきりとわかった。

「お、皇太子殿下?!」

私がそう言った時には腕を引かれてラスカル様とは離れていた。
そしてなぜか私はロバート様の腕の中だった。

「ラスカル殿。レティを連れ去るのはやめていただきたい。」

ロバート様はラスカル様に向かって厳しい表情をしている。

「連れ去っただなんて人聞きが悪いなあ。庭で会っただけだよ」
「あなたのたまたまはたまたまことを私は知っている。それに、せめて護衛くらいはつけてください」
「ふふ、護衛は一応いたけどねえ」

護衛?たまたま?
なんの話?ラスカル様は隣国の貴族なのでは?
そして私はいつまでこの体勢?
いい加減心臓が破裂しそうだ。
色々情報が多すぎて本当に気絶してしまいそうだ。

「それよりレティシア嬢を離してあげてはどうかな?」
「…ご、ごめん。」

ロバート様は私を抱いていた腕をゆっくり剥がして罰が悪そうに私から目を逸らした。

「い、いいえ。わ、私は大丈夫です。それより、なぜここに?」
「なぜって、レティをダンスに誘おうと思ったのにいないから探してたんだよ?そしたらこんなやつと。」

『ダンスに誘おうとしていた』この状況で不覚にもその言葉に胸が高鳴ってしまったのはきっと誰にも気づかれていないはず。

「それは失礼いたしました。」
「いや、いいんだ。それよりラスカル殿。どういうつもりですか。さっきのあれは」

さっきのあれとはきっとラスカル様が私の手の甲にキスをしたことだろう。
ロバート様がこんなに厳しいお顔をするなんて、もしかして本当の王子様なのかしら?
もしそうだったとしたら私はこの何分間の間にとても失礼なことをしてしまっているかも!その可能性は高い。彼が侯爵位くらいの場合、ロバート様がそんなに怒ることはないだろう。なのにこんなに怒っているとはつまりそういうこと…?
それが原因で隣国との交流が途絶えてしまったら?!
私は血の気が引いた。

「あ、あの!!も、もしかしてラスカル様は隣国のお、王子殿下だったり…?」
「?レティ知らなかったの?」

ロバート様は何言ってんだとでも言わんばかりの表情をしていた…その後にラスカル様の顔を見ると微笑みを浮かべたままだった。つまりそういうこと。
私は真っ先に頭を下げた。

「も、申し訳ありません!!数々のご無礼、お許しください。」
「ははは、大丈夫だよ、僕が言わなかっただけだから。レティシア嬢に比はないよ」
「はあ、あなたって人は。」

ロバート様はため息をつくと私に頭を上げるように言った。
とりあえず大丈夫そうだが、公爵家たるものがこんなものではダメだと思い知らされてしまった。

「申し遅れました。私、シャルロット王国から参りました王太子のラスカル・ド・ルチアと申します。
今宵はブラモント帝国皇太子殿下の生誕祭にお招きいただきありがとうございました。並びに、レティシア・フィエール公爵令嬢に出会えたこと、とても光栄に思います。」

ラスカル様は形式的な礼を取り私たちに挨拶をしてくれた。それに倣って私も挨拶をする。

「こちらこそ、申し遅れました。ブラモント帝国フィエール公爵家長女、レティシア・フィエールでございます。
ルチア王太子殿下にお目通りできましたこと、とても光栄のことと思います。以後お見知り置きを。」
「美しいカーテシーだね。きっとたくさん努力したのだろう。僕のことは継続としてラスカルと呼ぶように。」
「で、ですが!」
「その代わり、僕が帝国に来たときは会って話をしよう」

ロバート様はとても嫌そうな顔をしていたけれど、たかが帝国の公爵家の長女が隣国の王子様の提案を断ることは許されない。私は内心それだけでいいのかと申し訳なくなりながら礼をした。

「もちろんでございます。そのときはお声がけくだされば伺います。」
「ありがとう。」

ラスカル様は眩しいほどの微笑みをレティシアに向けた。
これで一件落着かと思いきや、後ろから聞こえる足音。
どうやら別の人物が近づいてきたみたいだった。皇太子生誕祭の夜はまだまだ終わらない────。



夜会編1 Fin.
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