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番外編2:湯殿に響くは媚薬の嬌声
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*R18です。苦手な方はお気をつけください。
東宮殿の湯殿は、まるで日本で言うところの高級リゾート温泉施設だ。
壁と床には高い加工技術で再結晶化させ、磨き上げた石灰石が全面に使われているようで、足触りがつるりとして気持ちいい。湯槽は木製の風呂桶が置かれているのではなく、二段ほど下がった場所に悠に三十人は入れる広い浴槽があり、中央に飾られた金龍の置物からは絶えず芳しい香りの湯が注ぎ込まれている。おそらく特殊な術を用いているのだとは思うが、それでもこの時代にここまでの技術の施設を作り上げたことに蒼翠《そうすい》は圧倒された。
だがそれよりももっと驚いたのは、ここが本来無風一人のためにだけに用意された湯殿だということ。蒼翠の屋敷にも勿論湯殿はあって、邪界《じゃかい》の名匠が造ったという丸形湯槽は人が三人入れるぐらい大きかったが、ここと比べてしまうと天地の差を感じてしまう。
「あのな無風」
「はい」
「俺、湯に浸かってくるとは言ったけど、なんでお前までここに来たんだ?」
「勿論、蒼翠様の湯浴みのお世話をするためですが?」
「いや、お世話って……」
蒼翠が無風とともに東宮殿に住むようになってから一月。今でも皇太子専用の湯殿を自分が使うことに気が引けているというのに、無風の手ずから世話をされるなんて、侍女たちにでも見られでもしたら卒倒されそうだ。
まぁ、ここに無風が単独で来ている時点で、侍女たちにはすでに下がるよう指示が出されてるだろうから心配はないが。
隙あらば二人きりになりたい無風の執念は計り知れないというか、本当、いつか彼女らに「私たちに仕事をさせてください!」と泣き付かれそうで怖い。
「これは私の仕事ですから」
「湯浴みぐらい一人でもできる」
「いいえ、私がやりたいのです。駄目でしょうか……?」
「うっ……いや……別に……駄目ってわけじゃないけど」
純粋な瞳でまっすぐ見つめられた途端に言葉が詰まり、その後が出てこなくなる。
やはり自分は無風の、この子犬のような目には勝てない。
「ったく……分かったよ。と、とりあえず今回は特別だからな」
蒼翠は溜息を吐きながら腰紐を解き、衣を脱いで浴槽に入る。するとなぜか無風も豪奢な深衣をさっさと脱ぎ捨て、蒼翠と同じように湯に身体を浸けた。
大胆かつ己の欲に忠実な弟子曰く、ここは蒼翠の屋敷の浴槽と形が違うため、一緒に入ったほうがお世話しやすいとのこと。
蒼翠が深い意味を込めた長い溜息をはいたのは、もはや言うまでもない。
もう、突っ込みを入れるのも疲れた。
その隣でご機嫌顔の無風が、慣れた手つきで蒼翠の髪を洗い始める。
その手が不意に止まった。
「……まだ消えませんね」
小さく呟いた無風の唇が、背中の傷痕に触れる。
そこにあるのは炎禍《えんか》に斬られた時にできた傷だった。
「んっ……」
痛みはもうないものの、張ったばかり薄くなった皮膚は敏感で、ゆっくりと唇でなぞられるとそれだけで声が堪えられず漏れてしまう。
一番弱いところを集中的に愛撫されているかのような感覚に反応し、湯に隠れている蒼翠の下腹が切なげにきゅっと締まった。
「無、風……っ」
こんな場所でも盛るのか。なんて冷ややかな目で睨んでやりたかったが、ささいな刺激でも快楽を求めるよう作り替えられてしまった身体は、奴隷のように従順に無風の熱を求めはじめた。
こんな場所でも盛るのか、は己に対しての言葉だったか。
でも、こうなってしまったらもう止められない。
早々に情欲への抵抗を諦めた蒼翠は、含みのある視線で無風を見つめる。するとすぐにこちらの望みに気づいてくれた無風が柔らかく頬を緩め、分かりました、と頷いた。
「一緒に気持ちよくなりましょう、蒼翠様」
言いながら無風は浴槽の淵に置かれた香油《こうゆ》入りの瓶を手元に取り寄せる。まるで最初からこうなることが分かっていたかのような動作に少なからず呆れたが、湯から出した臀部にたっぷりと香油を落とされ、双丘を撫でるように揉まれると、数秒も経たずに何もかもがどうでもよくなった。
しかしすぐに窄まりを開くのかと期待するも、無風の指は蒼翠の尻を撫で回すばかりでなぜかまったく先に進もうとしない。
ぬるりと滑った指が窄まりの上を通ると、それだけで蒼翠の肉襞《にくひだ》は期待して収縮してしまうというのに、なかなか望みの刺激がやって来なくてもどかしさが募る。
早く、早く中を触ってほしい。
「無……風……っ、なん、で……そこばっかり……」
「蒼翠様の身体に、背中以外の傷がないか確かめているのです」
絶対に嘘だと分かった。傷なんて肌を一目見れば分かるはず。それなのにあえて焦らすのは、蒼翠を決して抜け出すことのできない快楽の沼に沈めるためだ。
「お前……っ、ほんと……意地が悪い」
「こんな私はお嫌いですか?」
問われた蒼翠は、不服を露わにしながら唇を尖らせる。
――嫌いなわけないじゃないか。
それどころかこの身体は、快楽を支配されると余計に心が躍るから困るのだ。だがそれを口に出して認めたくない蒼翠は、首だけ振り向いて無風を睨んでから目を逸らす。
「そういえば、ずっと気になっていたことがあるのですが、お聞きしても?」
未だ窄まりの上だけを撫で続けながら、無風が囁く。
「な、んだ……」
「邪界《じゃかい》で投獄されていた間、貴方様に穢《けが》れた欲情を向けような不届き者はいませんでしたか?」
「……はぁ? バカか、俺に欲情する奴なんてお前以外いない」
「何を仰るのです。貴方様の美しさに溺れ、あわよくばと狙っていた不成者《ならずもの》は昔から大勢いましたよ」
蒼翠に陶酔していたのは炎禍だけではない。他の兄皇子やその配下、それにいつも邪君の命を伝えに来る太監《たいかん》も邪な目で蒼翠の全身を舐め回していたらしく、無風はいかがわしい空気を察するたびに慌てて間に入っていたと語った。
「ですからあの事態に乗じて、と画策した卑劣な者もいたはずです」
「想像力が豊かなのはいいが、お前が想像するようなことは一切なかった。牢を訪れたのは刑の執行まで俺を生かすよう邪君に命じられた侍医《じい》だけだ」
「そうですか。それは安心しました」
「けど……もしお前が考えるような者がいたら、どうしたんだ?」
「無論、必ず見つけ出し――――生きていることを後悔させます」
耳の奥に囁かれたのは、背筋が震えるぐらい本気の声だった。
どうやら夫となったこの男は、かなりの嫉妬家のようだ。驚きもあり嬉しさも湧く中、蒼翠はフッと笑みを零す。
「お前が心配するようなことはなかったと天に誓えるが……そうだな、それでも疑いが捨てられないって言うんなら」
蒼翠は身体を支えるため浴槽の淵に置いていた右手を自らの臀部へ、さらの双丘の重なりに隠れた蕾へ伸ばした。
「蒼翠様……?」
「お前自身で確かめろよ。俺のここが……誰かに奪われたかどうかを」
「っ……――――」
一瞬の沈黙の後、背後からゴクリと喉を鳴らす音が届く。
衝撃は、その直後与えられた。
「っ、ああぁぁっっ!」
突如、まだわずかも解されていない肉輪が大きく拡げられ、その奥の隘路《あいろ》へと何かが強引に滑り込んだ。
最初は無風の雄に突かれたのだと思ったが、記憶にあるそれよりも腹への圧迫が弱く、蒼翠はすぐに違うものと気づく。では一体何が、と巡らすうちに肉襞の中にぴったりと収まった何かが生き物のように暴れ出し、蒼翠の肉襞を無慈悲に弄った。
「あっ! あっ! やあッ……やあぁぁんっっ!」
バラバラと広がりながら内側を凌辱する動きに耐えられず、蒼翠は悲鳴に近い叫び声を上げてしまう。
だがここまでされて、やっと蒼翠の隘路《あいろ》を割ったものの正体が分かった。
これは無風の指だ。
ただ与えられたのは、いつものような媚肉を解す優しい愛撫ではない。狭い肉襞に根元まで埋めた三本の指が、蒼翠に息つく余裕を与えない勢いで中を弄っているのだ。
指が香油でしっかりと濡らされていたので肉襞が裂けるような痛みはなかったが、明らかに加虐の意図が込められている刺激だと分かる。
「やぁっ! 無風っ、あッッ、あんっ、な、んでぇ……っ」
「蒼翠様がおっしゃったのです。ここが私だけのものか、確かめろと」
指を中で拡げたり前後に激しく擦り上げたりするのはそれを調べるためだと言われ、蒼翠は自ら放った挑発を激しく後悔した。
「ぁぁっ……だからって、そんな動かさな……っ、ああぁっ!」
「ですが、どうやら杞憂だったようですね」
「は、ぁ……んっ、なに……がっ……」
「貴方様のここは初めての時のようにきつい。これで安心できました」
「だから言ったっ……っ」
「はい。ですから、お詫びに今から蒼翠様に極上の快感を献上します」
不意に指の愛撫が止まる。
「あ……」
ようやっと解放されるのか。息を深く吐き出すとともに脱力し、浴槽の縁に頭を降ろした蒼翠の目に、香油の瓶を手に取る無風の姿が映る。
「え……なに、を……」
「この香油でたっぷりと中を満たせば、蒼翠様にもっとご満足いただけるかと」
満たすとはどういう意味だ。無風の考えが掴めず唇を震わせると、蒼翠の中に留まったままの三本の指が、濡れそぼった襞を大きく拡げた。
まるで媚肉の内側に何かを入れようとしているかのような、そんな動きに、蒼翠はハッと目を見開く。
「ま……さか……」
はたして蒼翠の予想は当たった。無風はしっかりと指を咥える蒼翠の肉輪に隙間を作ると、そこへ瓶の口を押し当て、香油を注ぎ始めたのだ。
「ああぁぁッ」
腹の中に一肌よりも少し熱い香油が、どんどん流れ込んでくる。指とは違うものが腹を圧迫するという異常な感覚に、蒼翠は喉がひりつくほど叫んだ。
「やっ、無風ッ、こんな……っ」
こんなのは耐えられないと蒼翠は瞳に大粒の涙を溜め、大きく首を振りながら逃げようとする。しかし強引な愛撫で嬲《なぶ》られて敏感になった媚肉を激しく指で揉《も》み拉《しだ》かれるとたちまち腰が砕け、蒼翠は呆気なく快楽の沼へと引き戻された。
「あ、あっ、ぁっ……いっぱい……っ、入っ……く……っ」
涙を流してもまだ許されず、容赦なく注ぎ足される。入りきらない分が肉輪の口から溢れ、太股をぬらぬらに濡らしてもお構いなしだった。
「ぁっ、や……こわれるっ……」
「大丈夫です。蒼翠様のお身体に害を及ぼすことは決していたしませんので」
「で、も……ンンっ」
「それに……そろそろよい頃合いでしょう」
余すところなくぐずぐずに濡らされた蒼翠の肉輪から、ツプンッという音を立てて指と瓶の口が引き抜かれる。
「はっ、あぁぁっ……んん……っ」
限界まで拡げられた腹から唐突に圧迫が消え、楽になったはずなのに淫肉が名残を惜しむようにきゅんきゅんと収縮する。そんな蒼翠を後目に無風は空になった瓶を置くと、すぐさま勃ち上がった自身の雄先で、どろどろになった肉輪を柔く叩いた。
すっかり柔らかくされたそこは、無風が少し腰を進めるだけでいやらしく口を開く。
「蒼翠様の中に、入ってもよろしいですか?」
答えなど分かりきっているくせにわざわざ伺いを立てるなんて、この男はどこまで狡いのか。
なのに、まったく怒る気持ちになれないのは多分、本能がこの男に支配されることを、淫猥に虐げられることを望んでいるからだろう。
結局、自分も無風と同じで快楽に溺れる狂者なのだ。
「は、やく……っ、きて……」
だったら狂った者同士好き勝手にやってやろうと、蒼翠は淫女のように腰をくねらせて無風の理性を刺激する。すると。
「蒼翠……っさまっ」
苦しげな声とともに無風の巨大な肉茎がずるんっと、蒼翠の隘路《あいろ》を割った。そしてそのまま躊躇いもなしに根元まで突き挿れられる。
「あぁぁっっ!」
あまりの刺激に、最奥へと与えられた一度の刺激だけで達してしまいそうになった。が、それは許さないとでもいうかのように即座に腰を引かれ、次はさらに深くまで激しく蹂躙《じゅうりん》される。
「ぁんっ! んっ、あっ、あッ!」
無風が腰を大きく動かす度に許容量を超えた香油が、肉輪からクプクプと音を立ててこぼれ落ちていく。
性急すぎる抽挿は逆に絶頂を遮る。蒼翠は目の前に差し出された頂を何度も掴む寸前で奪われ、頭がおかしくなりそうだった。
気持ちいいのに、苦しい。苦しいけれど気持ちいい。
長大な男根を何度も何度も飲みこまされ、腹全体を拡げられながら蒼翠は必死に許しを請う。
「やっ、あっ、あっ、イきたっ……おねがっ……無風っ!」
「ええ……貴方様のお望み通りに……っ」
優しい承諾の後、亀頭の形を覚えさせるかのごとく媚肉を擦っていた無風の肉棒が、すでに知り尽くした蒼翠の弱いところを集中的に抉《えぐ》り始めた。
最も感じる奥襞をグリグリと短い間隔で押され、腰が喜びに震える。
「あっ、やっ、あっ。ンンッ!」
無風の雄と、自分の肉襞が擦れ合う感触がたまらない。完全に快楽の虜となった蒼翠は、恥を投げ捨て一心に無風の熱だけを求め叫んだ。
「もっとっ! もっと強くっ……っ!」
一秒だって早く待ち侘びた快感が欲しい。蒼翠が希うと限界まで腰を引いた無風が、最奥のさらに先を乱暴に暴くかのように穿った。その瞬間。
「ゃああぁっっ!」
先ほど掴み取れなかった絶頂がするりと手の中に滑り込み、限界まで勃ち上がっていた蒼翠の性器から、音が鳴る勢いで白濁が飛び散った。
待ち望んだ快楽に脳がぶるぶると揺れ、酷い目眩を起こしたように身体がふらつく。
このままでは膝から崩れてしまうかもしれない。そんな危惧を覚えた蒼翠は浴槽の淵に半身を伏せ、目眩をやり過ごそうとしたのだが。
「っ、くっ……」
蒼翠の快楽はそれだけでは終わらなかった。
「っ! あ、っ……くる……」
射精の反動で無風の雄を包む内襞が荒い波のごとくうねると、それが男の欲をきつく絞ったのか、たちまち中で灼熱が弾け、蒼翠に二度目の絶頂を与えた。
「あ、あ、あ……あぁ……」
腹の中で愛しい男の種が広がっていく。
最高の悦楽に囚われた蒼翠は、恍惚の表情で瞳をとろんと蕩かせながら全身の力を抜いた。そうして途切れ途切れの息を整えようと呼吸を繰り返していると、不意に種付けのための抽送が再び始まり、蒼翠は驚きに目を見開く。
「っあぁっ、やっ、待っ……まだイッたばっか……っ」
いくら体力のある龍族とはいえ、休みもなく立て続けは無理だ。欲だって少し時間を置かなければ反応しない。そう伝えようと身体を起こしかけた蒼翠だったが、達してばかりの性器を柔く握られ、上下に擦られた途端に予想外の事態に襲われた。
「な、んで……っ」
無風の指によって扱かれた雄が、見る間に前の硬さを取り戻し、天を向く。
こんなことは初めてだった。
「香油の効果です。薬師によると香油に含まれた催淫《さいいん》効果は龍族にとてもよく効くらしく、半日ほどは続くそうです」
「は、半日……?」
つまり、半日は達してもすぐに欲が戻る状態になるということだ。
「そんなっ……半日もこんな……っ」
「ご安心ください。香油には心身の疲れを回復させる薬湯も混ぜられているので、身体を壊す心配はありません」
「……だからって……っ」
無風は断言するが、催淫薬《さいいんやく》を使われて不安にならない者なんていないだろう。なぜそんなことも想像できないのだろうか。
身体を重ねることを覚えてから無風は若さゆえの暴走が多くなり、性がどんどん冒険的になっている。そろそろ窘めないと、いつかとんでもない性技まで試されそうだ。
まぁ、この方面ではまったく言うことを聞かなくなった身体のほうは、愛する夫に激しく突かれることを想像するだけで歓喜の震えすら起こす始末だけれど。
兎にも角にも事前承諾もなく催淫薬を用いたことに関しては、いつかお互いの頭が正常な時に一度膝を突き合わせてじっくりと、ねっとりと灸を据えてやることにしてやろう。心の内で決まったところで、蒼翠は口を開いた。
「……はぁ、無風」
「はい」
「とりあえず……っ、一度、抜け」
「え……」
勝手に薬を使ったことに蒼翠が怒ったと勘違いした無風の勢いが、風船が萎むようにどんどん小さくなっていく。
「蒼翠様、あの……」
「違う、もうやめるとか、そういう意味じゃない。…………今から半日もお前の顔を見ないままなのは嫌だろ」
だからお前のほうを向いていたい。蒼翠が願うと無風の表情は一気に晴れ渡り、それはそれは大喜びで身を引いた。
そうして身体が自由になったところで蒼翠は無風に向き合い、その首に両腕を絡めながら真っ直ぐ見つめる。
すると、柔らかな笑みを浮かべた無風がそっと唇を寄せてきた。
「んっ……はぁ、ぁ……ンンっ……」
互いの唇が重なると、無風はすぐさま蒼翠を丸ごと食わん勢いで貪り始めた。
巧みな舌遣いでたっぷりと口腔を犯されていくうちに、どんどん思考が溶けていく。その中で蒼翠も負けじと無風の吐息を奪ったが、口蓋の柔らかな部分を舐め上げられると瞬きの間に腰が砕け、勝負は蒼翠の圧倒的敗北という形であっけなく幕を閉じた。
「ふ……ん、ぁ、っン、ぁっ……」
薄れゆく理性に連動するように鼓動が早く、そして強くなる。
――足りない。もっと、もっと無風が欲しい。
無風との口づけは、龍族を狂わす淫らな香油よりずっと効果覿面《こうかてきめん》のようだ。その証拠に今の今まで散々雄肉を飲み込まされ、これ以上は無理だと白旗を掲げていた蒼翠の媚肉が、無風の熱を求めて生き物のようにまた蠢き始めた。
勢いよく勃ち上がった蒼翠の雄も、手で扱かれるより肉襞を蹂躙《じゅうりん》されて果てることを期待して卑しく震えている。
――早く無風と一つになりたい。
――腹の中を無風でいっぱいにしたい。
蒼翠の内側で目を覚ました淫靡な獣が、涎を垂らしながら訴える。
「無風……」
本当はもっと口づけに酔いしれていたかったが、後ろ髪を引かれる思いでゆっくり離れ、その代わりに無風をギュッと抱き締める。と、今にも弾けそうなぐらいの鼓動が、すぐさま肌越しから伝わってきた。
無風も同じ熱を渇望してくれている。それが分かると堪らなく嬉しくなって、蒼翠は誘うように自身の下腹を無風の雄へと押しつけた。
「っ、蒼翠……様」
背中に回された腕の力がいっそう強くなる。
耳に届く息も徐々に荒くなってきた。
もう少しだ。もう少しで完全に二人とも理性を失った獣へと生まれ変わる。確かな直感を覚えた蒼翠は発情した猫のようにくねくねと腰を揺らすと、無風の耳朶《じた》にねっとりと濡れた舌を這わせながら――――。
「無風……愛してる」
吐息の混ざる音で甘く甘く囁いた。
・
・
東宮殿の湯殿は、まるで日本で言うところの高級リゾート温泉施設だ。
壁と床には高い加工技術で再結晶化させ、磨き上げた石灰石が全面に使われているようで、足触りがつるりとして気持ちいい。湯槽は木製の風呂桶が置かれているのではなく、二段ほど下がった場所に悠に三十人は入れる広い浴槽があり、中央に飾られた金龍の置物からは絶えず芳しい香りの湯が注ぎ込まれている。おそらく特殊な術を用いているのだとは思うが、それでもこの時代にここまでの技術の施設を作り上げたことに蒼翠《そうすい》は圧倒された。
だがそれよりももっと驚いたのは、ここが本来無風一人のためにだけに用意された湯殿だということ。蒼翠の屋敷にも勿論湯殿はあって、邪界《じゃかい》の名匠が造ったという丸形湯槽は人が三人入れるぐらい大きかったが、ここと比べてしまうと天地の差を感じてしまう。
「あのな無風」
「はい」
「俺、湯に浸かってくるとは言ったけど、なんでお前までここに来たんだ?」
「勿論、蒼翠様の湯浴みのお世話をするためですが?」
「いや、お世話って……」
蒼翠が無風とともに東宮殿に住むようになってから一月。今でも皇太子専用の湯殿を自分が使うことに気が引けているというのに、無風の手ずから世話をされるなんて、侍女たちにでも見られでもしたら卒倒されそうだ。
まぁ、ここに無風が単独で来ている時点で、侍女たちにはすでに下がるよう指示が出されてるだろうから心配はないが。
隙あらば二人きりになりたい無風の執念は計り知れないというか、本当、いつか彼女らに「私たちに仕事をさせてください!」と泣き付かれそうで怖い。
「これは私の仕事ですから」
「湯浴みぐらい一人でもできる」
「いいえ、私がやりたいのです。駄目でしょうか……?」
「うっ……いや……別に……駄目ってわけじゃないけど」
純粋な瞳でまっすぐ見つめられた途端に言葉が詰まり、その後が出てこなくなる。
やはり自分は無風の、この子犬のような目には勝てない。
「ったく……分かったよ。と、とりあえず今回は特別だからな」
蒼翠は溜息を吐きながら腰紐を解き、衣を脱いで浴槽に入る。するとなぜか無風も豪奢な深衣をさっさと脱ぎ捨て、蒼翠と同じように湯に身体を浸けた。
大胆かつ己の欲に忠実な弟子曰く、ここは蒼翠の屋敷の浴槽と形が違うため、一緒に入ったほうがお世話しやすいとのこと。
蒼翠が深い意味を込めた長い溜息をはいたのは、もはや言うまでもない。
もう、突っ込みを入れるのも疲れた。
その隣でご機嫌顔の無風が、慣れた手つきで蒼翠の髪を洗い始める。
その手が不意に止まった。
「……まだ消えませんね」
小さく呟いた無風の唇が、背中の傷痕に触れる。
そこにあるのは炎禍《えんか》に斬られた時にできた傷だった。
「んっ……」
痛みはもうないものの、張ったばかり薄くなった皮膚は敏感で、ゆっくりと唇でなぞられるとそれだけで声が堪えられず漏れてしまう。
一番弱いところを集中的に愛撫されているかのような感覚に反応し、湯に隠れている蒼翠の下腹が切なげにきゅっと締まった。
「無、風……っ」
こんな場所でも盛るのか。なんて冷ややかな目で睨んでやりたかったが、ささいな刺激でも快楽を求めるよう作り替えられてしまった身体は、奴隷のように従順に無風の熱を求めはじめた。
こんな場所でも盛るのか、は己に対しての言葉だったか。
でも、こうなってしまったらもう止められない。
早々に情欲への抵抗を諦めた蒼翠は、含みのある視線で無風を見つめる。するとすぐにこちらの望みに気づいてくれた無風が柔らかく頬を緩め、分かりました、と頷いた。
「一緒に気持ちよくなりましょう、蒼翠様」
言いながら無風は浴槽の淵に置かれた香油《こうゆ》入りの瓶を手元に取り寄せる。まるで最初からこうなることが分かっていたかのような動作に少なからず呆れたが、湯から出した臀部にたっぷりと香油を落とされ、双丘を撫でるように揉まれると、数秒も経たずに何もかもがどうでもよくなった。
しかしすぐに窄まりを開くのかと期待するも、無風の指は蒼翠の尻を撫で回すばかりでなぜかまったく先に進もうとしない。
ぬるりと滑った指が窄まりの上を通ると、それだけで蒼翠の肉襞《にくひだ》は期待して収縮してしまうというのに、なかなか望みの刺激がやって来なくてもどかしさが募る。
早く、早く中を触ってほしい。
「無……風……っ、なん、で……そこばっかり……」
「蒼翠様の身体に、背中以外の傷がないか確かめているのです」
絶対に嘘だと分かった。傷なんて肌を一目見れば分かるはず。それなのにあえて焦らすのは、蒼翠を決して抜け出すことのできない快楽の沼に沈めるためだ。
「お前……っ、ほんと……意地が悪い」
「こんな私はお嫌いですか?」
問われた蒼翠は、不服を露わにしながら唇を尖らせる。
――嫌いなわけないじゃないか。
それどころかこの身体は、快楽を支配されると余計に心が躍るから困るのだ。だがそれを口に出して認めたくない蒼翠は、首だけ振り向いて無風を睨んでから目を逸らす。
「そういえば、ずっと気になっていたことがあるのですが、お聞きしても?」
未だ窄まりの上だけを撫で続けながら、無風が囁く。
「な、んだ……」
「邪界《じゃかい》で投獄されていた間、貴方様に穢《けが》れた欲情を向けような不届き者はいませんでしたか?」
「……はぁ? バカか、俺に欲情する奴なんてお前以外いない」
「何を仰るのです。貴方様の美しさに溺れ、あわよくばと狙っていた不成者《ならずもの》は昔から大勢いましたよ」
蒼翠に陶酔していたのは炎禍だけではない。他の兄皇子やその配下、それにいつも邪君の命を伝えに来る太監《たいかん》も邪な目で蒼翠の全身を舐め回していたらしく、無風はいかがわしい空気を察するたびに慌てて間に入っていたと語った。
「ですからあの事態に乗じて、と画策した卑劣な者もいたはずです」
「想像力が豊かなのはいいが、お前が想像するようなことは一切なかった。牢を訪れたのは刑の執行まで俺を生かすよう邪君に命じられた侍医《じい》だけだ」
「そうですか。それは安心しました」
「けど……もしお前が考えるような者がいたら、どうしたんだ?」
「無論、必ず見つけ出し――――生きていることを後悔させます」
耳の奥に囁かれたのは、背筋が震えるぐらい本気の声だった。
どうやら夫となったこの男は、かなりの嫉妬家のようだ。驚きもあり嬉しさも湧く中、蒼翠はフッと笑みを零す。
「お前が心配するようなことはなかったと天に誓えるが……そうだな、それでも疑いが捨てられないって言うんなら」
蒼翠は身体を支えるため浴槽の淵に置いていた右手を自らの臀部へ、さらの双丘の重なりに隠れた蕾へ伸ばした。
「蒼翠様……?」
「お前自身で確かめろよ。俺のここが……誰かに奪われたかどうかを」
「っ……――――」
一瞬の沈黙の後、背後からゴクリと喉を鳴らす音が届く。
衝撃は、その直後与えられた。
「っ、ああぁぁっっ!」
突如、まだわずかも解されていない肉輪が大きく拡げられ、その奥の隘路《あいろ》へと何かが強引に滑り込んだ。
最初は無風の雄に突かれたのだと思ったが、記憶にあるそれよりも腹への圧迫が弱く、蒼翠はすぐに違うものと気づく。では一体何が、と巡らすうちに肉襞の中にぴったりと収まった何かが生き物のように暴れ出し、蒼翠の肉襞を無慈悲に弄った。
「あっ! あっ! やあッ……やあぁぁんっっ!」
バラバラと広がりながら内側を凌辱する動きに耐えられず、蒼翠は悲鳴に近い叫び声を上げてしまう。
だがここまでされて、やっと蒼翠の隘路《あいろ》を割ったものの正体が分かった。
これは無風の指だ。
ただ与えられたのは、いつものような媚肉を解す優しい愛撫ではない。狭い肉襞に根元まで埋めた三本の指が、蒼翠に息つく余裕を与えない勢いで中を弄っているのだ。
指が香油でしっかりと濡らされていたので肉襞が裂けるような痛みはなかったが、明らかに加虐の意図が込められている刺激だと分かる。
「やぁっ! 無風っ、あッッ、あんっ、な、んでぇ……っ」
「蒼翠様がおっしゃったのです。ここが私だけのものか、確かめろと」
指を中で拡げたり前後に激しく擦り上げたりするのはそれを調べるためだと言われ、蒼翠は自ら放った挑発を激しく後悔した。
「ぁぁっ……だからって、そんな動かさな……っ、ああぁっ!」
「ですが、どうやら杞憂だったようですね」
「は、ぁ……んっ、なに……がっ……」
「貴方様のここは初めての時のようにきつい。これで安心できました」
「だから言ったっ……っ」
「はい。ですから、お詫びに今から蒼翠様に極上の快感を献上します」
不意に指の愛撫が止まる。
「あ……」
ようやっと解放されるのか。息を深く吐き出すとともに脱力し、浴槽の縁に頭を降ろした蒼翠の目に、香油の瓶を手に取る無風の姿が映る。
「え……なに、を……」
「この香油でたっぷりと中を満たせば、蒼翠様にもっとご満足いただけるかと」
満たすとはどういう意味だ。無風の考えが掴めず唇を震わせると、蒼翠の中に留まったままの三本の指が、濡れそぼった襞を大きく拡げた。
まるで媚肉の内側に何かを入れようとしているかのような、そんな動きに、蒼翠はハッと目を見開く。
「ま……さか……」
はたして蒼翠の予想は当たった。無風はしっかりと指を咥える蒼翠の肉輪に隙間を作ると、そこへ瓶の口を押し当て、香油を注ぎ始めたのだ。
「ああぁぁッ」
腹の中に一肌よりも少し熱い香油が、どんどん流れ込んでくる。指とは違うものが腹を圧迫するという異常な感覚に、蒼翠は喉がひりつくほど叫んだ。
「やっ、無風ッ、こんな……っ」
こんなのは耐えられないと蒼翠は瞳に大粒の涙を溜め、大きく首を振りながら逃げようとする。しかし強引な愛撫で嬲《なぶ》られて敏感になった媚肉を激しく指で揉《も》み拉《しだ》かれるとたちまち腰が砕け、蒼翠は呆気なく快楽の沼へと引き戻された。
「あ、あっ、ぁっ……いっぱい……っ、入っ……く……っ」
涙を流してもまだ許されず、容赦なく注ぎ足される。入りきらない分が肉輪の口から溢れ、太股をぬらぬらに濡らしてもお構いなしだった。
「ぁっ、や……こわれるっ……」
「大丈夫です。蒼翠様のお身体に害を及ぼすことは決していたしませんので」
「で、も……ンンっ」
「それに……そろそろよい頃合いでしょう」
余すところなくぐずぐずに濡らされた蒼翠の肉輪から、ツプンッという音を立てて指と瓶の口が引き抜かれる。
「はっ、あぁぁっ……んん……っ」
限界まで拡げられた腹から唐突に圧迫が消え、楽になったはずなのに淫肉が名残を惜しむようにきゅんきゅんと収縮する。そんな蒼翠を後目に無風は空になった瓶を置くと、すぐさま勃ち上がった自身の雄先で、どろどろになった肉輪を柔く叩いた。
すっかり柔らかくされたそこは、無風が少し腰を進めるだけでいやらしく口を開く。
「蒼翠様の中に、入ってもよろしいですか?」
答えなど分かりきっているくせにわざわざ伺いを立てるなんて、この男はどこまで狡いのか。
なのに、まったく怒る気持ちになれないのは多分、本能がこの男に支配されることを、淫猥に虐げられることを望んでいるからだろう。
結局、自分も無風と同じで快楽に溺れる狂者なのだ。
「は、やく……っ、きて……」
だったら狂った者同士好き勝手にやってやろうと、蒼翠は淫女のように腰をくねらせて無風の理性を刺激する。すると。
「蒼翠……っさまっ」
苦しげな声とともに無風の巨大な肉茎がずるんっと、蒼翠の隘路《あいろ》を割った。そしてそのまま躊躇いもなしに根元まで突き挿れられる。
「あぁぁっっ!」
あまりの刺激に、最奥へと与えられた一度の刺激だけで達してしまいそうになった。が、それは許さないとでもいうかのように即座に腰を引かれ、次はさらに深くまで激しく蹂躙《じゅうりん》される。
「ぁんっ! んっ、あっ、あッ!」
無風が腰を大きく動かす度に許容量を超えた香油が、肉輪からクプクプと音を立ててこぼれ落ちていく。
性急すぎる抽挿は逆に絶頂を遮る。蒼翠は目の前に差し出された頂を何度も掴む寸前で奪われ、頭がおかしくなりそうだった。
気持ちいいのに、苦しい。苦しいけれど気持ちいい。
長大な男根を何度も何度も飲みこまされ、腹全体を拡げられながら蒼翠は必死に許しを請う。
「やっ、あっ、あっ、イきたっ……おねがっ……無風っ!」
「ええ……貴方様のお望み通りに……っ」
優しい承諾の後、亀頭の形を覚えさせるかのごとく媚肉を擦っていた無風の肉棒が、すでに知り尽くした蒼翠の弱いところを集中的に抉《えぐ》り始めた。
最も感じる奥襞をグリグリと短い間隔で押され、腰が喜びに震える。
「あっ、やっ、あっ。ンンッ!」
無風の雄と、自分の肉襞が擦れ合う感触がたまらない。完全に快楽の虜となった蒼翠は、恥を投げ捨て一心に無風の熱だけを求め叫んだ。
「もっとっ! もっと強くっ……っ!」
一秒だって早く待ち侘びた快感が欲しい。蒼翠が希うと限界まで腰を引いた無風が、最奥のさらに先を乱暴に暴くかのように穿った。その瞬間。
「ゃああぁっっ!」
先ほど掴み取れなかった絶頂がするりと手の中に滑り込み、限界まで勃ち上がっていた蒼翠の性器から、音が鳴る勢いで白濁が飛び散った。
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「っ、くっ……」
蒼翠の快楽はそれだけでは終わらなかった。
「っ! あ、っ……くる……」
射精の反動で無風の雄を包む内襞が荒い波のごとくうねると、それが男の欲をきつく絞ったのか、たちまち中で灼熱が弾け、蒼翠に二度目の絶頂を与えた。
「あ、あ、あ……あぁ……」
腹の中で愛しい男の種が広がっていく。
最高の悦楽に囚われた蒼翠は、恍惚の表情で瞳をとろんと蕩かせながら全身の力を抜いた。そうして途切れ途切れの息を整えようと呼吸を繰り返していると、不意に種付けのための抽送が再び始まり、蒼翠は驚きに目を見開く。
「っあぁっ、やっ、待っ……まだイッたばっか……っ」
いくら体力のある龍族とはいえ、休みもなく立て続けは無理だ。欲だって少し時間を置かなければ反応しない。そう伝えようと身体を起こしかけた蒼翠だったが、達してばかりの性器を柔く握られ、上下に擦られた途端に予想外の事態に襲われた。
「な、んで……っ」
無風の指によって扱かれた雄が、見る間に前の硬さを取り戻し、天を向く。
こんなことは初めてだった。
「香油の効果です。薬師によると香油に含まれた催淫《さいいん》効果は龍族にとてもよく効くらしく、半日ほどは続くそうです」
「は、半日……?」
つまり、半日は達してもすぐに欲が戻る状態になるということだ。
「そんなっ……半日もこんな……っ」
「ご安心ください。香油には心身の疲れを回復させる薬湯も混ぜられているので、身体を壊す心配はありません」
「……だからって……っ」
無風は断言するが、催淫薬《さいいんやく》を使われて不安にならない者なんていないだろう。なぜそんなことも想像できないのだろうか。
身体を重ねることを覚えてから無風は若さゆえの暴走が多くなり、性がどんどん冒険的になっている。そろそろ窘めないと、いつかとんでもない性技まで試されそうだ。
まぁ、この方面ではまったく言うことを聞かなくなった身体のほうは、愛する夫に激しく突かれることを想像するだけで歓喜の震えすら起こす始末だけれど。
兎にも角にも事前承諾もなく催淫薬を用いたことに関しては、いつかお互いの頭が正常な時に一度膝を突き合わせてじっくりと、ねっとりと灸を据えてやることにしてやろう。心の内で決まったところで、蒼翠は口を開いた。
「……はぁ、無風」
「はい」
「とりあえず……っ、一度、抜け」
「え……」
勝手に薬を使ったことに蒼翠が怒ったと勘違いした無風の勢いが、風船が萎むようにどんどん小さくなっていく。
「蒼翠様、あの……」
「違う、もうやめるとか、そういう意味じゃない。…………今から半日もお前の顔を見ないままなのは嫌だろ」
だからお前のほうを向いていたい。蒼翠が願うと無風の表情は一気に晴れ渡り、それはそれは大喜びで身を引いた。
そうして身体が自由になったところで蒼翠は無風に向き合い、その首に両腕を絡めながら真っ直ぐ見つめる。
すると、柔らかな笑みを浮かべた無風がそっと唇を寄せてきた。
「んっ……はぁ、ぁ……ンンっ……」
互いの唇が重なると、無風はすぐさま蒼翠を丸ごと食わん勢いで貪り始めた。
巧みな舌遣いでたっぷりと口腔を犯されていくうちに、どんどん思考が溶けていく。その中で蒼翠も負けじと無風の吐息を奪ったが、口蓋の柔らかな部分を舐め上げられると瞬きの間に腰が砕け、勝負は蒼翠の圧倒的敗北という形であっけなく幕を閉じた。
「ふ……ん、ぁ、っン、ぁっ……」
薄れゆく理性に連動するように鼓動が早く、そして強くなる。
――足りない。もっと、もっと無風が欲しい。
無風との口づけは、龍族を狂わす淫らな香油よりずっと効果覿面《こうかてきめん》のようだ。その証拠に今の今まで散々雄肉を飲み込まされ、これ以上は無理だと白旗を掲げていた蒼翠の媚肉が、無風の熱を求めて生き物のようにまた蠢き始めた。
勢いよく勃ち上がった蒼翠の雄も、手で扱かれるより肉襞を蹂躙《じゅうりん》されて果てることを期待して卑しく震えている。
――早く無風と一つになりたい。
――腹の中を無風でいっぱいにしたい。
蒼翠の内側で目を覚ました淫靡な獣が、涎を垂らしながら訴える。
「無風……」
本当はもっと口づけに酔いしれていたかったが、後ろ髪を引かれる思いでゆっくり離れ、その代わりに無風をギュッと抱き締める。と、今にも弾けそうなぐらいの鼓動が、すぐさま肌越しから伝わってきた。
無風も同じ熱を渇望してくれている。それが分かると堪らなく嬉しくなって、蒼翠は誘うように自身の下腹を無風の雄へと押しつけた。
「っ、蒼翠……様」
背中に回された腕の力がいっそう強くなる。
耳に届く息も徐々に荒くなってきた。
もう少しだ。もう少しで完全に二人とも理性を失った獣へと生まれ変わる。確かな直感を覚えた蒼翠は発情した猫のようにくねくねと腰を揺らすと、無風の耳朶《じた》にねっとりと濡れた舌を這わせながら――――。
「無風……愛してる」
吐息の混ざる音で甘く甘く囁いた。
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